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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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「芹ぃ、明日も来るから明日こそアフター、いいでしょ?」

「ああ、そうだな」

「本当にぃ? 約束だからねぇ? それじゃあ、また明日♡」

「待ってるよ。帰り道、気を付けてね真美」

ようやく閉店時間を迎え、最後の客である真美を見送った俺は彼女の姿が見えなくなった瞬間、盛大に溜め息を吐いた。

「はぁ……あー、マジで疲れる。ったく、演じるのも楽じゃねぇなぁ」

そう口にしながらポケットから煙草を取り出して一服してると、

万里ばんり、そんなとこに居たのか」

「あー、れいさん。お疲れっす」

「お疲れ。つーか、さっさと着替えろよ。明石あかしが待ってんだよ。早く来いって煩くてかなわねぇ」

「了解ー」

店から出て来たのはオーナー兼店長の日比谷ひびや 礼さん。

高級そうなグレーのスーツに身を包み黒髪短髪、インテリ眼鏡で一見IT企業の社長のようにも見えそうな感じだけど、実は極道の人間だ。

須藤すとう組の若頭として沢山の部下を従えていて、普段は比較的温厚な性格だけど、怒ると物凄く怖い人。

今日はこれから二人で、【HEAVENヘヴン】というここから徒歩で十分程の所にあるキャバクラに行く事になってる。

【HEAVEN】と【repos】のオーナー同士が知り合いという事もあって、互いの店は売り上げ貢献という名目で、時折キャストたちが客として行き来しているのだ。

特に俺は礼さんと仲が良いから付き合いで行く回数が自然と増える。

キャバクラなんて興味無いけど、仕事の一環で、あっちも仕事と割り切ってるから相手をするのも楽だから良いけど、今日はもう帰って寝たいのが正直なところだった。

「きゃ~! 芹さん、礼さん久しぶり~!」

【HEAVEN】に着くと、残っているキャストたちが一斉に俺らを出迎える。

席に着いてすぐ、俺の両隣には固定と言ってもいいくらい馴染みのキャストが当たり前のように席を陣取った。

左には明るめのブラウン色でボブスタイルでナチュラルメイクのツグミ、右には黒髪ショートヘアでバッチリメイクを施しているラン。

二人とも【HEAVEN】では結構上位を張ってる稼ぎ頭で、仲が良いんだか悪いんだか、いつも様々な事を競っている。

そんな彼女たちの他に見慣れないキャストが一人、俺の目の前の席に腰を下ろした。

「……ん? 見ない顔だな」

「は、初めまして! カナです! よ、よろしくお願いします!!」

『カナ』と言った彼女は、胸の辺りまであるウェーブがかった黒髪ロングヘアで、メイクはし慣れていないのか、まるで子供が大人に憧れてメイクをしているような、どこか浮いている感じがする。

真面目そうというか地味で儚げ、おまけに幸も薄そうで、何でキャバ嬢になったんだか分からない程に男慣れしていない雰囲気が漂っていた。

「カナか。俺は芹だ。よろしく」

「はい、よろしくお願いします、芹さん!」

そんな彼女とただ挨拶を交わした、それだけなのに、カナがぎこちなくも笑みを浮かべた瞬間、俺は心臓は鷲掴みされたような何とも言い難い不思議な感覚に陥った。

(何だ、これ……胸が、ザワつく……うぜぇ……)

まるでカナの笑顔には不思議な力でもあるのか、異性相手にこんなにも狼狽えるのは初めてに近い事で、驚きを隠せない。

【HEAVEN】のオーナーの明石 光成みつなりさんの話によると、カナは入店してまだ一週間の新人らしい。

ツグミやランが礼さんの席に着いた際、カナと二人きりになった俺は彼女に接客をやらせてみたものの、鈍臭いというかなんと言うか失敗の連続で、こんな様子で仕事が務まるのか心配になる程不器用な上に、お酒もあまり強く無いようで少し飲んだらすぐに顔を赤くしていた。

(ホント、何でコイツ、キャバ嬢選んだんだ?)

そして気付けば、明らかに不釣り合いな職業を選んだカナを前に、他人でましてや異性に興味を持たないはずの俺はついつい興味津々になっていた。

お前の全てを奪いたい

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