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サンドルは進の収納のスキルに入れられていた謎の液体を大量に頭上より掛けられ、激しく苦しみ出しみるみると皮膚が剥がれ、骨まで溶けだした。
「ぐおおおお!!!!」
サンドルは苦しみにより、のた打ち回りその低い声が魔坑道内に反響する。
進がサンドルに掛けた謎の液体は、昨日作り始めた濃硫酸―――ではなく、もっと強力な酸であった。
その名は”フルオロ硫酸”
一般的に硫酸よりも強い酸性を持つ薬品を超酸と呼ぶ。
このフルオロ硫酸もその超酸の一つであった。
進は昨晩、濃硫酸を作る延長戦として、このフルオロ硫酸を生成していた。
その製法として、加熱した濃硫酸に採取した蛍石を加えることで、フッ化水素を生成し、その後、氷冷した液状の三酸化硫黄にフッ化水素を投入すると生成することができる。
化学式でみるとこんな感じになる。
フッ化水素
CaF2+H2SO4→CaSO4+2HF
フルオロ硫酸
SO3 + HF→HSO3F
「本当は、農薬や医薬品を開発するときに使用しようと思って作っていたんだが、まさかこんなところで役に立つとはな…。」
進自身サンドルとの激しい戦闘により、体力魔力共に既に尽きており立っているのが限界と言うのが現状であった。
「ぐあああ!身体の自動回復が追い付かない!な、何をした小僧おおおぉ!」
「今お前に掛けたのはフルオロ硫酸だ。」
「この世界には発見されているかは分からんがオレらの世界では、上質なプラスチックとかを作るのに使われていた。」
進は薬品の生成法も両親に教え込まれていたため、全ての作り方を把握している。
さらにアルケミストのスキルにより作るための環境を整えている。
つまり、材料さえあればどんな薬品も生成することができるということだ。
進は、この時この瞬間を待っていた。
「フラムさん!ありったけの魔力で奴に赤魔法をお願いします!」
「どういうことだ?」
「説明は今は省力しますが、お願いします!」
「わ、分かった!」
「赤魔法:フルブレイズ!」
フラムは今持てる最大出力のフルブレイズを右手より放った。
「グググーーーまだ分からないのか!」
「何度やってもそんな程度の魔法かき消してやる!」
「灰魔法:魔法却下(ロストマジック)!」
しかし、フルオロ硫酸を大量に掛けられて苦しむサンドルは一瞬、ほんの一瞬|魔法却下(ロストマジック)の発動が遅れてしまった。
それ故に完全にフラムのフルブレイズはかき消されることなく、サンドルの心臓を貫いた。
「な、何だと…?」
さらに、フラムのフルブレイズがサンドルの心臓を貫いた瞬間、サンドルに掛けられたフルオロ硫酸が引火し、サンドルの全身を炎が包んだ。
「みんな!すぐにこの場から離れろ!毒性のガスが出るぞ!」
進は、他の冒険者たちにできるだけ離れるように促した。
フルオロ硫酸は引火させやすい性質と引火時にその周囲に毒性のガスを発生させる性質を持っていることを進は知っており、この展開に持ってくるためフラムにフルブレイズをお願いしたのだった。
「だから言っただろ?」
「魔法を離散的に0にするのと連続的に0に減衰するのではまるで違うと!」
「少しでもお前にフラムさんの炎が届きさえすれば、その炎は全身に回り、お前の体細胞を燃やし尽くす!」
「ぐあああああ!!苦しい!クソ…息が…!」
サンドルが苦しみだし、20秒が経ちサンドルの断末魔のような叫びが聞こえなくなった。
「やったのか!?」
フラムがサンドルの死を期待する。
すると、その瞬間サンドルの身体の周囲を灰が包みだした。
「な、何だ!?」
進はその異常な光景に驚いた。
その灰は、サンドルの体に入り込み見る見るうちに体の溶けた骨、皮膚を元に戻していき、サンドルは何事もなかったかのようにむくりと起き上がった。
「チッ!化け物が!」
進は余りにも何事もなかったかのような様子のサンドルに対して、そう漏らさずにはいられなかった。
「小僧!いやススム!驚いたぞ。まさかここまで俺様を追い詰めるとは!」
「だが、惜しかったな!俺様は絶命しかけた時に自動である魔法が発動するように自らに魔法をかけているのさ。」
「聞きたいか?う~ん聞きたいだろ!」
「ふざけやがって―――」
フラムがそのサンドルの馬鹿にしたような態度に怒りを露わにする。
「どうせ聞きたくないと言っても言うんだろ!」
「ハハハ!まぁその通りだけどな!いいから教えてやるよ。」
「俺様の灰魔法はあらゆる物の生命力を吸収することができる魔法だ。」
「で、その吸収した生命力は俺様の中で保存され、有事の際にはその生命力が代わりに消費されるようになっている。」
「どんだけチート仕様なんだよ―――」
進もアドミニストレーターにスキルをもらったりしており、自身をチート性能だと思っていた節があったが、このサンドルはそれ以上に異常だった。
「で、その肝心の自動修復の回数なんだが、貴様たちを絶望させるためにあえて回数を言わせてもらうと”427”回だ!」
サンドルはニヤリとしながら進たちに言い放った。
進たちの表情が絶望色に染め上げられる。
「サンドル!貴様を一年以内に殺せば、エリアは助かると言ったが、それじゃ元から俺がお前を殺せる可能性はほとんど0じゃないか!」
「いや貴様が、一年以内にこの俺様を427回殺せばその女は助かるぞ!フフまぁその可能性は限りなく0に近いだろうが。」
サンドルは元から無理だと分かっていたため、この提案をフラムにしたのであった。
「き、貴様はどれだけ俺たちを馬鹿にすれば気が済むんだ!!」
フラムさんはそのサンドルの態度に怒りをぶつける。
「さぁどうする!俺様としては、雑魚はどうでもいいとして、神の使いであるススムだけはこの場で殺しておきたいところなんだが…。」
そう言いサンドルは再び戦闘態勢を取る。
が、進は生き返ってから冷静に頭の中で秒数をカウントしており、あと数秒でアドミニストレーターの提示した1分を迎えることが分かっていた。
「いや、そろそろお前との戦いも終わりになるぞ…。」
「何だと…?」
3,2,1…0
その瞬間サンドルの近くの空間が捻じれ、空間に穴が開きそこから眼鏡をかけた銀髪の紳士風の男が現れた。
「サンドルこんなところにいたのか。探したぞ!」
「お、お前はリカント!まだ性懲りもなく生きていたのか。」
「当たり前だ!この世界でアリス様亡き、今この私がこの世界最強だぞ。」
「いや…今は新しく魔王として就任された”未央様”がこの世界最強か!」
「新しい魔王だって!?」
「おい!今何て言った?未央様だって!?」
サンドルと進は同時にリカントと呼ばれた男の言葉に対して大きく反応した。
リカントと呼ばれた男は、はぁと呆れたような溜め息を付き、サンドルに対して物申した。
「サンドルよ!貴様は新しい魔王様の復活も知らずに、こんなところで油を売っていた。」
「六魔将としての自覚はないのか?貴様とて、あの強大な魔力の存在には気づいていたハズだろう?」
「うるせぇな!確かにあの凄まじい魔力の発生には気づいていたが、もうこの世界にはアリスは存在しない。」
「だったらこの世界のことなどもうどうでもいいと思っていた。」
サンドルは下を一回向き、そのままさらに続けた。
「思っていたが、今日こいつ等とやり合って、そしてあんたのその”未央様”って奴の存在を聞いて、またおもしれぇことが起こるそんな予感がするねぇ!」
「よし決めた!リカント!その”未央様”って奴の元に連れてけ!」
「貴様に言われずとも元よりそのつもりだ!」
「てなわけで、お前たちとの遊びもここで終わりだ!」
「また会えたら今度はいい勝負ができるといいな!」
サンドルは不敵な笑みを浮かべ、別れ挨拶をする。
「待て!その”未央様”って奴の話を詳しく話せ!」
進はその”未央様”が自分の探している真島未央のことではないかと思い、リカントにそう聞いた。
いつもは冷静な進だが、未央のことが直接的に関わっているかもしれないので、その時は珍しく感情的になっていた。
リカントは進の方をチラリと見たが、まったく相手にすらしていないようで、進の質問に対して無視をし、そのままサンドルを連れて出てきた空間の裂け目に入っていこうとした。
「待てと言ってるだろうが!!!!!!」
進がリカントたちの元に近づこうとするが、既に体力魔力が限界な進は一歩も動けなかった。
「クソ!!なんで動かない!こんなにも未央の情報が目の前にあるってのに!」
「動けよ!動け!オレの足が!」
そのまま、リカントたちの姿は完全に魔坑道から消えた。
「チクショーーーーー!!!!!」
進の叫びが虚しく魔坑道内に響いた。地面を目いっぱい強く叩き、その威力は深い穴が簡単に出来るほどであった。
進は、この日人生で初めて敗北をした。