「君からしてみて」
呆然としつつも、頭の端では「もしかして試されているんだろうか」と思った時、 紀坂(きさか)が続けた。
「してみて、俺に。忘れたいんでしょ」
彼の表情は依然として変わらず、口の中が急激に渇いていく。
首を横に振ることだって、拒絶することだってできた。
それなのにその選択肢はかすかに頭をよぎっただけで、すぐに薄れていく。
どうしてなのかは自分でわかっていた。
今だけは、 日比野(ひびの)を忘れたいと思っているから。
キスすれば、この時だけは日比野を忘れられるとわかっているからだ。
頭はまだ働いていない。
けれど理性が働き出せば、きっと私は彼にキスなんてしないことだけははっきりしている。
だからなにか考えたり、心を揺らしたりする前に、一瞬の衝動に任せて紀坂へ足を進めた。
この道はきっと正しい道じゃない。
だけど日比野と別の場所に踏み出さなけれ***********
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