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それから、あっという間に5日が過ぎた。
今日は私が休みで、朋也さんは夕方に会社に行く用事があるだけだった。
一緒に住み始めて、朝と夜以外の、初めての2人だけの時間。
朝起きて、朝ご飯を食べて、部屋を片付けたりして……朋也さんが同じ空間にいると思うと、なんだか落ち着かない。
少し気まずい空気が流れ始めた。
夕方までずっと部屋に2人きりはさすがに……と、そわそわしていたら、朋也さんが言ってくれた。
「恭香。せっかくだし、一緒にどっか出かけるか?」
「えっ、あっ、は、はい! でも、どこに……ですか?」
質問しながら、心臓がバクバクしている。
まさかのお誘いに汗が出てきた。
「恭香が行きたいとこって、どこ?」
朋也さんが、コーヒーのカップを持ちながら言った。
「い、行きたいとこ……? えっと……」
「どこでもいいから言ってみて。直感的に思ったところでいいから」
「直感的に……そ、そうですね……。だったら、水族館……とかですかね」
水族館は、子どもの頃から私の大好きな場所。
小さい頃は何度も両親に連れて行ってもらった。
でも最近は、忙しくてなかなか行く機会がなくて……
朋也さんに直感的にと言われて、久しぶりに行ってみたいと思った。
「行こう、水族館。着替えたら、出かけよう」
「あっ、はい! すぐに支度します」
この流れ……本当に水族館に行けるの?
だとしたら、すごく嬉しいけれど……
朋也さんと水族館なんて、嘘みたい。
こんなワクワクした気持ちになるなんて、まるで子どもみたいだ。
私は、なるべく朋也さんを待たせないように急いで準備をした。とは言え、急に出かけると言われて、何を着ていこうか正直迷った。
水族館だから、少しラフな格好にしよう。
あまり気合を入れると恥ずかしいから。
「お待たせしてすみません。ごめんなさい」
「別に待ってない。さあ、行こう。カメラも持って行く」
「それすごくいいですね」
水族館の写真を撮るんだ。
プロの朋也さんの写真は、きっとものすごく素敵だろう。
出来上がった写真、ぜひ見てみたい……
私達は、電車で一番近くの水族館に向かった。
有名な水族館で、土日はいつも混雑している。
でも、今日は平日なので、少しはゆっくり見ることができるだろう。
到着してすぐに朋也さんが私を呼んだ。
「恭香」
声に振り向くと、突然シャッターが切れる音がした。
「嘘、今、写真撮ったでしょ?」
思わずタメ口になる。
朋也さんは、クスッと笑った。
「私が写真撮られるの嫌いって知ってますよね?」
「そうだった?」
とぼける気だ。
「もう、本当に止めて下さいね。きっと今の写真、めちゃくちゃ変な顔してると思いますよ。せめて撮るなら撮るって言ってくださいね」
「撮るって言ったら嫌がるだろ」
「だ、だからって……」
「早く行くぞ」
「えっ、ちょっ、ちょっと待ってくださいよ」
いきなり撮られた写真がきれいに撮れているわけがない。
本当に恥ずかしい。
けれど……今日は許すことにする。
今から水族館に入れると思うと、そのわくわく感の方が大きかったから。
朋也さんはそんな私のために、チケットをサッと2枚買ってくれ、渡してくれた。
「あっ、お金払います」
「そんなの気にするな」
「……す、すみません。ありがとうございます」
私は、朋也さんに甘えることにして、2人で水族館の中に入った。
目の前にある大水槽には色とりどりの魚達が泳ぎ、2人を出迎えてくれているようだった。
ブルーのキラキラした幻想的な光景に、自然にため息がもれた。
「綺麗過ぎて、本当に素敵」
「本当だな。すごく綺麗だ」
朋也さんは、カメラを構えた。
フラッシュを使わないようにして、シャッターを切る。
その姿はとても絵になる。
カメラマンとしての朋也さんは、どうしてこんなにも素敵なんだろう。
私はその横で、水槽に近づいてマジマジと魚を見た。
遠くから見るのも圧巻だけれど、近づくとまた違う目線で魚達を見ることができ、とても楽しい。
小さな魚、大きな魚、いろいろな種類の魚がいる。
可愛い目をしてるとか、ちょっと怖い顔とか……
1匹で悠然と泳ぐ魚がいれば、群れで泳ぐ魚もいる。
それぞれ習性がわかってとても面白い。
子どもの頃、魚の世界に魅せられて、ずっと水槽の前から動けなかったのを思い出した。
なかなか帰らない私に、両親はいつまでも付き合ってくれた。
久しぶりの水族館にワクワクを募らせ、私達は時間をかけて隅々までゆっくりと見て回った。
朋也さんは時々写真を撮っている。
「恭香、お腹空いた」
「私もです。何食べますか?」
「……それ、堅苦しい」
「えっ?」
「さっきみたいにタメ口でいい。ずっと一緒にいるんだから、別にもうタメ口でいいだろ」