「あの……」
ある人と駅で待ち合わせていると、急に横から話しかけられ、そっちの方を振り向く。すると、短い二つ結びの赤茶色の髪に、赤い瞳をした小さな女の子がそこに立っていた。
「あれ……、もしかして、奇縁ちゃん…かな?」
俺がそう聞くと、その子はほっとしたように微笑んだ。
「良かった…私、奇縁って言います」
奇縁ちゃんはそう言って自分の名前を名乗った。見た感じだと、大人しくて静かな子なんだろうと思う。
「うん。名前は知ってるよ。俺は山田悠真だよ、よろしく」
俺が笑顔でそう言うと、奇縁ちゃんは俺に質問をしてきた。
「あの…。パパ活っていうの、あまり知らないんですけど、パパって呼んだ方が良いんですか?」
冷静な顔をしているけれど、きっと心の中では心配なんだろう。そう分かるように奇縁ちゃんは言った。
「うーん…。俺も初めてだから知らないんだけど、パパって呼ばれる方が親子に見えるかなって…俺も子供が欲しくてやり始めたしさ?あ、あとタメでいいよ!」
俺が笑顔で提案をすると奇縁ちゃんは微笑んで言った。でも、なんとなくだけど、目が笑っていないような、瞳に何も映っていないような気がした。
「分かった。じゃあ……、…パパ!私、甘いもの食べたい!」
そう奇縁ちゃんが可愛いことを頼んでくれ、俺も、嬉しくてついつい笑顔になってしまう。
「そっかあ…じゃあ、あそこのパンケーキ屋さん行こっか!」
そう言って俺は駅の近くにの、道路を挟んだ先にあるパンケーキ屋を指さした。SNSやテレビなどで少し見たことあるパンケーキ屋で、知り合いが美味い、と言っていたからきっと奇縁ちゃんも気に入るだろう。
「あ、パパ、私のことも呼び捨てでいいからね」
思いついたように真顔で奇縁ちゃんはそう言った。
「わかった。じゃあ奇縁、行こっか」
そう言って俺たちはパンケーキ屋に向かった。
「パンケーキとココア、美味しいよパパ」
奇縁ちゃんは微笑んでそう言った。
店に入り席を案内され、メニューを開いていた時、奇縁ちゃんは凄く悩んでいた。親からこういう場所に連れて来られたことがないという。だから俺は、子供が好きそうな飲み物のココアと、この店のパンケーキを頼んだ。
俺は、飲み物にコーヒー、食べ物は卵とトマトとレタス、そしてハムが入ったサンドイッチを頼んだ。一皿に二つ入っている。その皿の中にはポテトと、ポテトにつけるケチャップとマヨネーズが置いてある。
まあ、頼んだものに関しては置いておくとして、問題は奇縁ちゃんの方だ。
親連れられたことも、料理を作ってもらったこともないらしく、父親は母親に殺されてしまったらしい。小声で聞いてはいたものの、衝撃の事実だ。今は年上のお姉さんに保護してもらったらしい。親戚ではない。
「パパ、どうかしたの?」
俺がポテトにケチャップをつけて食べながら考えていると、奇縁ちゃんが上目遣いで聞いてきた。
「いや……なんでもない、と思う」
なぜこんな不自然な受け答えをしてしまったのか、自分で自分を殴りたくなる。
「…なら別にいいんだけど」
奇縁ちゃんは興味がなさそうに素っ気なくそう言ってしまった。
どうしよう。変なやつだと思われたか?頼って貰えないことを怒らせてしまったか?どちらにしても、興味を引けなかったことには変わりない。
それから黙々と昼食を頬張っていたが、凄く気まづい空気になっていた。それはもう、死にたくなるくらいに。
「じゃあ次どこ行きたい?」
俺がそう聞いた時、一時間は過ぎていたと思う。奇縁ちゃんは悩んではっとなったように言った。
「じゃあ私、本屋さんとゲーセン行きたい」
そう言ったけれど、あまり楽しんでいるようには見えなかった。なら、俺が楽しませてあげないと。
「じゃあ先に、ゲーセン行こっか!あの店の四階にあるらしいし!本屋も同じ階だった気がする…、その後本屋行こっか!」
そう言って、少し離れた大きなデパートに向かった。
「…ぁ、これ欲しいかも」
私は悠真にそう言ってクレーンゲームを始めた。顔くらいの大きさの黒猫ぬいぐるみだ。これをあげれば美輝ちゃんは喜んでくれるだろうか。いや、きっと喜んでくれるだろう。
「じゃあ俺が取ってあげるよ!」
悠真はそう言ってクレーンを操作しようとした。だけど、私はその手を止めた。
「ぇ、どうしたの…?」
何故かは知らないが、心配そうに聞いてくる悠真に私は言った。
「このぬいぐるみは、自分の力で取りたい。だから、私がやる」
さっきからずっと、悠真は私が好きそうなお菓子やぬいぐるみなどを取っては私にくれている。
だけど、誰かも知らない輩に取ってもらったぬいぐるみを美輝ちゃんに渡しても、それは愛なんかない。なら、私が取ったものを美輝ちゃんに渡したいのだ。
「わかっ、た…。じゃあ…、頑張って…!」
焦りながら悠真が言った。何故だろうか。まぁ、そんなことは本当にどうでもいい。
私はクレーンを動かした。
「…あった……」
私は漫画コーナーでお姉さんが出している漫画を見つけた。特に買うという訳でもないが、どんなものか見てみたかったのだ。
表紙を見てみると相変わらずの子供好きだと分かる。小さな女の子同士が恋愛している感じだろうか?あぁ、新しい本はこれなんだ。一巻しかないし、私と美輝ちゃんの関係そっくりだ。
「その漫画欲しいの?」
私が考えていると、悠真が話しかけてきた。買ってくれようとしているのだろう。
「いや、大丈夫だよパパ。ありがとう」
私が微笑んでおくとパパは焦っているような、心配しているような顔で、そっか、と答えた。
何故パンケーキを食べてからずっとあんな顔をするのだろう。どうでもいいが、聞いておいて損はないだろう。後でも聞いておくとしよう。
奇縁ちゃんが漫画を手に取って表紙を見つめていた。
それは小さな女の子同士の恋愛漫画らしい表紙だった。聞いたことも見たこともないが、問題はそこではない。
奇縁ちゃんが、女の子同士の恋愛漫画を手に取っているんだ。
奇縁ちゃんは恋愛を自由と捉えているのか?
俺は恋愛したことがないためよく分からないけれど、漫画で親子が性行為をする、などの大人向け漫画などを見たことはあった。
なら、俺もいけるのか?
奇縁ちゃんに肉体関係を求めることができるのか?
そもそもパパ活はそういうものだ。
なら、いけるんじゃないか?
考えは歪んでいくばかりだが、それでもいい。
奇縁ちゃんと、今日一日は親子としてのような会話をしていたと思う。
親がそういった関係になるのはロマンがあるだろう。
気持ち悪くてもいい。
だから、奇縁ちゃんを求めたい。
その欲求が止まらない。
あぁ、今すぐその身体を俺だけのものにしたい。
小さな女の子?そんなのどうだっていい。
俺はロマンを求めたい。
これはパパ活と言われているものなんだ。
なら、少しだけでも、求めていいだろう。
俺の映らないその瞳に、無理矢理でも俺を映させてやる。
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