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湊 視点
「……課題、終わる気しねぇ……」
大学2年の春学期。ゼミにサークルにバイトに、詰め込んだスケジュールに俺はすでに瀕死。
図書館で3時間粘って、やっと半分片付いたレポートを見て、思わず机に突っ伏した。
そんなとき――
「お疲れ。湊くん、これ飲む?」
差し出された缶コーヒー。
声の主は、ゼミの先輩、一ノ瀬悠真だった。
「えっ、あ、ありがとうございます……!」
「無理しないでね。睡眠はちゃんと取らないと」
笑いながら座る悠真先輩は、相変わらず爽やかでやさしくて、まるで“正解の人間”って感じだった。
(いい人だよな……)
そう思いながら、俺は素直に缶を受け取った。
悠真 視点
今日も湊は、他人に無防備だった。
疲れているのに、差し出された課題に「ありがとう」って笑って応じて。
自分がどれだけ誰かにとって“価値がある存在”なのか、まるで自覚していない。
(――だから、怖いんだよ)
どこかの誰かに、盗られそうで。
笑顔も、声も、疲れてる表情すら、俺だけが知っていたい。
俺は湊のすぐそばで缶コーヒーを握ったまま、ほんの一瞬だけ、その手元を見た。
(……パスコード、4桁か)
スマホの指の動きを盗み見ながら、思考は冷静に走る。
“準備”は、少しずつ進めればいい。
湊視点:講義とサークルの昼休み
「湊~! 今日の昼、どうする?」
同じ学科の友達に声をかけられて、笑って手を振る。
「コンビニでパン買った~」
「また!? 菓子パンばっか食ってると太るぞ!」
「先輩に言われた! ちゃんと食えって!」
他愛のないやりとり。でも、こんな日常が俺は好きだった。
——だった、のに。
最近、何かが“変わり始めていた”。
連絡がつかない友達。
目を逸らすサークルの先輩。
知らないうちに、俺の噂が回ってるような、空気。
でも、悠真先輩だけは――
「湊くん、今日も元気そうでよかった」
変わらず、優しかった。