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「お父様との思い出の料理って、何だったんですか?」
オーダーを決めかねて、メニューを開けたまま、彼へ尋ねた。
「思い出の料理……?」
と、彼が考え込むように、片手で頬づえをつく。
「……ハンバーグステーキを食べたような気がします」
「だったら、先生はそれを……?」
「いえ……君がどうぞそれを。私は、父が食べていたものを……」
彼の瞳が、在りし日を辿るように揺らいで、
「……先生、……本当に、私と来てよかったんですか?」
その眼差しの奥に今映る人は、自分で良かったんだろうかと再び思う。
「さっきもそう言ったように……。ですが私の方こそ、父の思い出にあなたを連れ回してしまって」
彼がやや申し訳なさそうにも言い、グラスの水を一口飲んだ。
「連れ回しただなんてことは……私も、お父様との思い出を過ごせてよかったなって……」
微かに潤む彼の瞳の中にある、自分の姿を見返す。
「……あなたは、優しいですね……」
口にした彼が、頬づえをついたまま、ふっと表情を和らげて微笑んで、いつからこの人は、こんな風に優しげに笑うようになったんだろうと感じた。
最初の頃は、薄く微笑うその顔に怖じ気づくようだったのに……。
穏やかに笑みを浮かべた表情は、初めにはなかったものなのか、それとも初めから彼の中にはあって、奥にずっと封じ込められていたものだったんだろうかと思い入った……。