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──夕方近くになると、閉店が早い観光地街は軒並みシャッターが下ろされて、人もまばらになりつつあった。
「この後は、どうしますか?」
車に戻りエンジンをかけたタイミングで、そう問いかけられた。
「どうするっていうのは……」
エンジンがかかるモーター音を耳にしながら、首を傾げて聞き返した。
「どこかに泊まっていきますか?」
本当は質問の意味合いをなんとなくわかっていたのだけれど、自分からは言いようもなくてついはぐらかしていたのを、彼の方からストレートに突っ込まれた。
「……えっと、どちらでも……」
仄かに赤くなる顔を俯けて答えると、
「どちらでも?」
すかさず言葉尻が捉えられて、
「あなたに気がないのなら、このまま帰ってもいいのですよ?」
彼が思わせぶりにちらりとこちらを流し見た。
「そんな言い方……」
さらに赤くなりそうな頬を両手で押さえ込んで、口ごもる私に、
彼は、ふっ…と小さく笑って、
「あなたに、気持ちを言ってほしいんです」
繕いのない本音を投げかけた。
「……。……もう少しだけ、いっしょにいたいです…」
彼から告げられた真っ直ぐな言葉に、自分の胸にも素直な思いが込み上げる。
「……少しは、好きになりましたか?」
「わからないです…まだ……」
一緒にいたいとは口にしたものの、それ以上の気持ちまでは決めかねているところもあって、まだすぐには好きかどうかの答えは出せそうにもなかった。
傍らでハンドルを握るその人は、誰もが見惚れる程の完璧な美男で──。
感情的にはだいぶ受け入れてはいたけれど、未だにそんな人と自分が恋愛をするなんてという思いは、心の中に根強くあった……。