【本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだよ】
どこかの有名な作家の、有名な小説の中に出てきた台詞。
それを胸に刻んで、俺は今日を迎える。
私には、2つ年下の弟がいる。
片や平々凡々な私と、容姿端麗文武両道を地で行く弟。似ても似つかない私たちは、幼少期からそれはそれは比較されて育った。
のちに知ったことだが、私と弟の父親は違うので、それは当たり前と言えば当たり前の結果だ。だが、弟と比べて兄は、と言われ続けたものの、反抗することなくここまでまっすぐ育った私は、誰かしらに褒められてもおかしくないと思う。というか褒めてくれ、私を。
しかしここまで大きく曲がらず育った要因は、当の弟本人に多分にあるとも言える。
容姿端麗文武両道な弟は、それはそれは私によく懐いていたから。だから私はそんな弟を可愛がりこそすれ、邪険に扱うことも憎らしく思うこともなく、純粋に自慢の弟として思うことができたのだ。
そしてその弟には、数々の武勇伝がある。幼少中高大と、弟はそれはもうモテた。
ありとあらゆる女子からは告白され、バレンタインデーにはダンボールに何箱もチョコレートが届き、当たり前のようにファンクラブもでき、中でも凄まじいのは、弟と釣り合うべく顔まで変えた猛者もいたほどだ。
そんな弟から、まさかこんな言葉が飛び出すとは、まさに青天の霹靂だった。
俺には、2つ年上の兄貴がいる。
俺にとって、優しくてなんでもできる頼れる兄。小さな頃からそんな兄貴が大好きで、何かにつけて後をついてまわっていた。
でもどうやら自分が、父と兄貴とは似ていないらしいことに気付いた。そして、周りから投げられる心無い言葉に、自分は望まれて生まれたのではないのだと知った。
それでも父と母は、愛を持って俺を育ててくれたし、俺を疎んでも当然なはずの兄は、それを知ってもなお変わらなかった。
『お前は俺の弟で、俺はお前の兄貴で』
『それは誰がなんと言おうが変わらない事実だ』
『正義とか法則とか、他の誰かなんか気にする必要ない』
そう言い切る兄貴の存在が、どれだけ俺に生きる希望を与えてくれたか。
どれだけ、かけがえのないものか。
きっと兄貴は、微塵も気付いてはいないんだろう。
俺は臆病だから。だから、この気持ちは墓場まで持っていくつもりだった。まぁ結局、つもりはつもりで終わった訳だけれど。
next.
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