「――ッはぁ……、はぁ……」
激しく深い口づけに戸惑いつつも、朔太郎に身を任せていた咲結は唇が離されると大きく息を吸って呼吸を調えた。
「……悪い……少し強引過ぎた……」
そして、我に返った朔太郎はまたしても強引にしてしまった事を後悔して謝罪するも、
「ううん、平気だよ……ちょっとびっくりしたけど……嫌じゃ、無かったよ」
咲結のその言葉に安堵し、再び優しく抱き締めた。
暫く抱き合っていた二人。
そこでふと、朔太郎は気付いた。
既に日付が変わっていた事に。
「ってか咲結、お前帰らなくて大丈夫なのか!? 日付変わっちまったけど……」
今更のような気もするが、慌てた朔太郎が咲結の身体を離して帰らなくていいのかを問い掛けると、
「あ、うん、大丈夫。元々今日は、友達の家に泊まるかもって言ってあったし……お父さんとお母さん、ちょうど旅行に行ってて明日帰ってくるから」
「そっか、なら良かった……」
今日は家に誰も居ないのと元から友達の家に泊まるかもしれない事を伝えていたと知って朔太郎は安心した表情を浮かべていた。
「だから、ね……今日は私、ここに居る」
「ここにって……」
「駄目? 少しでも、さっくんの傍に……居たいの」
「……いや、駄目じゃねぇけど……つーか咲結の寝るとこねぇから休めねぇじゃん。それなら俺、帰るよ。悪いけど、理仁さん呼んできて」
「帰るって……傷の事もあるし、駄目だよ、ここで安静にしてないと」
「平気平気! このくらいでいちいち騒いでられねぇよ」
「このくらいって……充分大怪我だと思うけど……」
咲結が帰らずに傍に居たいから病院に泊まると言うと、流石にここでは身体が休まらないから、それなら自分も家に帰ると言って聞かない朔太郎。
暫く二人が言い合いを続けていると、
「何騒いでんだ? 病室の外まで聞こえてるぞ」
怪訝そうな顔をした理仁が病室へ入って来る。
「あ、理仁さん。すいません。あの、俺もう帰りたいんすけど……駄目っスか?」
「帰る? おい坂木、朔は家に帰っても問題ねぇのか?」
理仁が入って来ると、朔太郎は騒いでいた事を謝りつつも、病院に泊まらずに帰りたい旨を伝えると、理仁は病室の外にいる坂木に朔太郎は帰っても問題無い状況なのかを尋ねた。
咲結としては元気だとしても病院に居る方がいいに決まってると思っていたのだけど、
「んー、まあ銃弾は掠っただけだし、受けた傷は塞いであるし、骨にも異常は見られないし、本人が痛くない、大丈夫だって言うなら……後は通いで経過見せてくれればいいよ。朔太郎の丈夫さなら心配は無いと思うから」
病室に姿を見せた坂木が笑顔で『大丈夫』だと口にした事で朔太郎は家に帰る事になったのだった。
「お帰りなさい、朔太郎くん、大丈夫なの?」
自宅に戻ると他の組員や真彩に出迎えられた理仁たち。
真彩は心配そうな表情を浮かべながら、翔太郎に支えられた朔太郎に声を掛けた。
「心配掛けてすいません、姐さん。怪我は本当、大した事はないんで大丈夫ッス!」
「そう、それならいいけど……」
そんなやり取りを皆の後ろに立っていた咲結がボーッと眺めていると、
「咲結ちゃん、いらっしゃい。咲結ちゃんも大変だったわね。怪我は大丈夫?」
朔太郎と話を終えた真彩に声を掛けられた。
「あ、はい、お邪魔します。怪我は、その……大丈夫です」
「そう。とりあえず、お風呂入ってきた方が良いわね。こっちに来て」
「え、で、でも他の皆さんも入るだろうし、私は……」
真彩にお風呂を勧められた咲結だが、理仁や朔太郎、他の組員たちを差し置いて自分が先に入るのはどうなんだろうと躊躇っていると、
「咲結、俺たちは後から入るから遠慮しないで入って来て」
朔太郎にそう声を掛けられた事で、これ以上遠慮する方が迷惑になると察し、『分かった』と頷いた。
真彩に案内された咲結は、真彩によって用意された下着やタオル、寝間着代わりの洋服を手渡されてお風呂場へ。
一般家庭よりも少し広めのお風呂に戸惑いつつ、髪や身体を洗ってからお湯に浸かる。
そして、今日あった様々な出来事を改めて思い返していた。
今思うと、助かった事は奇跡なのではないかというくらいに危険な状況に置かれていた咲結の身体は温かいお湯に浸かっているにも関わらず小さく震えていた。
勿論それは寒さからではなく恐怖からくる震えなので、なかなか震えは治まらない。
暫くお湯に浸かり続けていると、外から声が掛かる。
「咲結ちゃん、大丈夫?」
その声は真彩のもので、長湯し過ぎたと気付いた咲結は慌てて返事をする。
「あ、すみません! 今上がります」
「大丈夫ならいいの。朔太郎くんが逆上せて無いか心配だって言うから声を掛けただけだから。急かしてごめんね、ゆっくりでいいからね」
「ありがとうございます」
いつまでも上がって来ない事を朔太郎が心配していると知り、咲結の口元には少しだけ笑みが浮かぶと共に、自然と震えは治まっていた。
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