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「あの、お風呂、ありがとうございました」
真彩が声を掛けてから暫く、お風呂から上がって身なりを整え、髪を乾かし終えた咲結は真彩が待つリビングへやって来た。
「いいのよ、ゆっくり出来たかしら?」
「はい」
「それじゃあ咲結ちゃんに使ってもらう部屋へ案内するわね」
「あの、さっくんは……」
「朔太郎くんは翔太郎くんと自分の部屋に居るわ。あの怪我じゃお風呂に入るのは無理だから、翔太郎くんが身体を拭いてあげてると思う。さ、行きましょ?」
「あ、あの!」
「何?」
「あの、私……、」
咲結としては朔太郎の傍に居たくて泊まりに来ているけれど、いくら恋人同士と言えど、やっぱり同じ部屋に泊まるというのは無理だと真彩の言葉から判断したものの、どうしても朔太郎の近くに居たい咲結はその事をどう伝えるべきか悩み言い淀む。
そんな咲結を前にした真彩は何が言いたいのか察したようで、
「……咲結ちゃんは、朔太郎くんの傍に居てあげたいのよね?」
咲結の気持ちを言葉にする。
「……はい。傍に、居てあげたいんです……泊まらせてもらうのに我侭なんて言うべきじゃないのは分かってます。でも、私……」
真彩には咲結の気持ちが痛い程よく分かっていた。
自身も元は極道と無関係な人生を歩んで来た身、危険な状況に置かれて恐怖を感じたり、大切な人が傷だらけになる姿を見るのは辛いし、失うかもしれない恐怖は計り知れない。
それに加えて咲結はまだ高校生。
数人の大人の男に攫われ脅されて、ナイフや拳銃まで向けられたとなれば、いくら助かっても恐怖を完全に拭い去る事は出来ないはずだ。
「そうね、今日は怖い思いを沢山したものね。安全とはいえ、一人の部屋で寝るのは怖いよね。私と一緒の部屋でもいいけど……こういう時は、やっぱり大好きな人の傍に……居たいわよね」
「真彩さん……」
「それじゃあ朔太郎くんの部屋に行きましょう」
「はい! ありがとうございます!」
実は咲結を別の部屋にというのは朔太郎から言われた事で、本当は真彩も理仁も朔太郎と同じ部屋にすべきではと考えていた。
朔太郎は朔太郎なりに考えての事だと分かってはいるものの、咲結の気持ちを汲んだ真彩は用意していた客間では無く、朔太郎の部屋へ案内する事に決めて歩き出した。
「朔太郎くん、今大丈夫かしら?」
「姐さん? はい! 平気ッスよ!」
朔太郎の部屋の前に着いた真彩が部屋の外から声を掛けると、朔太郎から『大丈夫』という返事が返ってきたので襖を開ける。
「どうしたんスか?」
真彩の姿を目にした朔太郎がそう問い掛けると、彼女の後ろから咲結がひょっこり姿を見せる。
「ん? 何だ、咲結も居たんだ? どうした?」
何故咲結も居るのか見当がつかない朔太郎が声を掛けると、
「朔太郎くん、咲結ちゃんがね、一人の部屋だと落ち着かないみたいなの。ほら、今日は沢山怖い思いをしたでしょ? 私と一緒の部屋でも良いけど、理真の夜泣きで起こしちゃうと悪いし……やっぱり朔太郎くんと一緒の方が一番だと思うのよ」
咲結ではなく真彩が間に入って朔太郎と一緒の部屋の方が良い事を告げる。
「…………」
真彩の話を聞いた朔太郎は黙り込み、何かを考えている様子で、二人のやり取りをただ黙って見守る咲結は朔太郎がどう答えてくれるのか気が気じゃなかった。
「朔太郎くん……どうかな?」
なかなか答えない朔太郎に再度真彩が尋ねると、
「――分かりました、それじゃあ咲結はここで寝るんで大丈夫ッス。すいませんけど布団だけ、この部屋に運んで貰っていいっスか?」
考え事が纏まったのか、朔太郎は咲結を自分の部屋に泊める事を納得した。
「分かったわ。良かったわね、咲結ちゃん。それじゃあ今こっちの部屋にお布団持ってくるわね」
「あ、真彩さん、布団なら私が自分で運びます!」
「あらそう? それじゃあ一旦付いてきてくれる?」
「はい!」
朔太郎の部屋で過ごせる事になった咲結は嬉しさを滲ませながら、自分で使う布団を運ぶ事を申し出ると真彩と共に客間へ向かって行く。
そして、再び朔太郎の部屋へ戻って来た咲結は朔太郎の布団の隣に持って来た布団を敷いた。