テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
むしろ、あのストーカーの恐怖があったからこそ
こうして怜治さんと二人きりの特別な時間を手に入れられたのだとしたら……
不謹慎なのは分かっているけど
「ストーカーに遭ってよかったのかもしれない」とさえ思ってしまう自分に、僕自身が1番驚いてしまう。
信号待ちの短い停車の間
怜治さんがこちらの様子を伺うようにチラリと視線を向けた。
「何か考え事?」
「えっ!?あ、いや……その、怜治さんと一緒にいると、なんだかすごく安心するなぁって思って!」
「そう?それは良かった」
ふっと口角を綺麗に上げた怜治さんの完璧な笑顔。
それにまた胸が高鳴る。
けれど、怜治さんはすぐにその笑みを少しだけ消して、どこか真剣なトーンで呟いた。
「でも、ちょっと心配だな」
「え?…どういう意味ですか?」
「さっちゃん、自分で『騙されやすい性格』って言ってたでしょ?だから…俺以外にそんな風に『一緒にいると安心する』なんて言っちゃダメだよ?」
彼はあえて、いつも通りの冗談っぽいトーンを装って言ったのだろうけど
その言葉の裏には、まるで僕をどこにも行かせたくないというような鋭い棘が隠されているように感じられた。
「えっ、だ、誰にでも思うわけないじゃないですか!怜治さんだから言ってるんです…!」
「そうなの?」
「ですよ!怜治さんはすごく優しいし、大人っぽいし、それに……僕のことを、誰よりも大切にしてくれますし…!安心する要素しかないです!」
勢いに任せて声に出してしまうと
まるで自分が怜治さんに盛大な告白をしているかのようで、途端に恥ずかしくなってくる。
だけど、そんな僕の必死な言葉を聞いた怜治さんは、
「…本当に、君は……」
何かを言いかけたまま
不自然に言葉を切って、前を向いてしまった。
赤信号から青信号へ。
怜治さんの美しい横顔が、激しく移り変わる夕暮れの光の中で濃い影を作る。
その車の窓越しに見える街頭の明かりが
まるで僕たちの曖昧な未来を暗示するように、ゆらゆらと不規則に揺れていた。
◆◇◆◇
数日後
怜治さんのことで頭がいっぱいで
毎日のカレンダーのチェックをすっかり忘れていたけれど、ついに僕の身体は本格的な『発情期(ヒート)』の期間へと突入してしまった。
幸い、今回は事前に薬を多めに服用していたおかげで
今のところはなんとか激しい発情をギリギリのところで抑え込むことができていた。
ただ、身体の芯が常に微熱を帯びているような、独特の気怠さだけがじっとりと付きまとっている。
そんな日の、放課後のことだった。
カバンをまとめて教室を出ようとした瞬間
黒星
30
339
コメント
1件
第20話、拝読しました。怜治さんの「俺以外に言っちゃダメ」という言葉、あの冗談っぽい口調の裏に感じられる棘のようなものがとても気になりました。さっちゃんが「ストーカーに遭ってよかった」と思ってしまう自分の心に驚くシーンも、複雑でリアルな心理だなと。不安とときめきが交錯する車内の空気感、夕暮れの光の中の横顔——本当に繊細で印象的でした。発情期が始まるこれから、どうなるんでしょう……続きが気になります🌷