数分が経ち、部屋のドアが開いた。そこにいたのは一人の女性だった。
「こんにちは…」
「えっ!?」
女性が入った瞬間金子と女性は驚いた。
「あなただったとは…」
金子の視線の先はバスに乗っていたあの女子高生だった。
「痴漢男…」
「はい?」
女子高生が言った言葉に金子は首を傾げる。
女子高生はバスで着ていた制服とは違い、あの男性の着ていた作業服のグレーの色を着ていた。
「私になにか?」
そう言いながら女子高生は金子の座っているソファの反対側のソファに腰掛けた。
「まあざっくり言うと取材的な?証拠集めです」
「証拠集め?なにか事件に関係してるの?私」
「まあなんというか…親族関係ですかね?」
「ふ~ん」
「僕、金子達海です」
「阿部凪(あべなぎ)です。ここでバイトしてるんです。ここ周辺の中では高い方だったので」
「そうでしたか」
「それで、なんですか?さっさと終わらせたいので」
「…佐藤明久琉って知ってますか?」
「はい。有名じゃないですか?」
「彼が亡くなったことは?」
「もちろん。私、一応彼のファンだからね?」
「じゃあ佐藤さんに関して知っていることを話してもらえますかね?」
「ん〜まあ…」
「ありがとうございます」
「私と明久琉、付き合ってたんです」
「え!?」
「本当。馴れ初めはねえ…高校だったかな?私、今高3なんだけど1年の時、学校前でうろついてる人がいて。まあそのときは普通の不審者って思ってたんだけどね。試しに話しかけてみたの。そしたら、「校長を呼べない?」的なことを言われたの。理由を聞いても答えてくれないからしょうがなく呼んだの。そしたら凄く機嫌よく帰っていったの。話し終えた後。だからなんでだろうって思って校長先生に聞いたら「総理のことを話しにね」って」
「総理?ですか…」
「そっ。で〜その後も何度も来てさ交流してくうちにって感じ。私が大人になったら結婚して子供作ろって約束してたんだけどね」
「ん〜…わっ…かりました。じゃあその総理のことはなにか?」
「いえ。全く」
「わかりました。じゃあ帰っていいですよ」
「…というかなぜ私が話を?」
「……」
「なんで?」
「………」
「まあいいや。じゃあ私、戻るから。とりあえず川原さんが来るまではここで待ってて」
「ああ。わかりました」
そう言い阿部は応接室を出ていった。
金子は阿部が応接室を出ていったのを確認すると、ブレザーのポケットから一つの紙切れを取り出した。そこには「アイツハアノオンナヲコロシタ。アノソウリガ!」と書かれていた。
ガチャとドアが開く音が聞こえると金子はその紙切れをまたブレザーのポケットにいれた。
「はあ〜すまないねえ」
そういったのは先程、金子を案内してくれた男性だった。きっと彼が阿部の言っていた川原という方なのだろう。
「いえいえ」
その後、金子は川原に案内され、出入り口近くまでやってきた。そこで金子は「トイレへ行っても?」と川原に聞き、川原は男子トイレへ案内した。
「ありがとうございます」
トイレ付近までやってくると、なにやらたくさんの足音が聞こえてきた。その足音の方に金子が顔を向けた。そこにいたのは現内閣総理大臣であった。大勢のボディーガードに囲まれ歩いている。金子は驚きながらもその視線を避けるようにトイレへと入った。用を足し終えた後、洗面所で手を洗っているとトイレの出入り口からひとりの男が入ってきた。その人の顔に金子は驚く。なぜならその人は総理だからだ。先程、ボディーガードに囲まれて歩いていた総理がここに来ていた。
金子はまたしめも総理の視線から外れるようにトイレから出ようとすると声がした。
「ふん。そこの刑事。どうも随分私のことを嗅ぎ回っているようじゃないか」
金子はその場で足を止める。一気に冷や汗が出てきた。
「ははは。どうもこんにちは」
「こっちへ来い」
総理にそう言われたが金子は断った。
「さすがにそちらへは総理ですから」
「こっちへ来い!」
何度断っても総理はこっちへ来いと金子を誘う。
「いや…」
用を足し終えた総理が金子の方へ大きな足音を立てながら来る。そして、総理は金子の腕を引っ張り、中へと連れ込む。
「総理!」
金子がそう叫んでも総理の耳には届かなかった。
総理は来ているスーツのポケットからあるものを取り出した。それは先端が尖り、ピカピカと輝いていた。
「お前を殺すため新調したのだ」
「総理!おやめください!」
金子は総理がなにをやるのか分かっていた。しかし、総理は言うことを聞かない。そして「グサッ!」と先端が尖っている刃物で金子の胸部分を刺した。
金子は声もなく、その場にうつ伏せで倒れた。金子の倒れた胸部分からは大量の血があった。じわじわとその血が範囲を広げていく。真っ白の床が真っ赤に変わっていく。
「すまない。金子。こうするしかなかったんだ」
金子に聞き覚えのある声でそう語りかける。金子の目から薄っすら見える。まだ金子は少し息をしていた。目から見えたその姿は波島にそっくりだった。