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海の紅月くらげさん
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「元気か、ましろん!」
あまりの大きな声に耳からスマホを遠ざける。
「げ、元気です。……武蔵先輩、どうしたんですか」
そういえば夏休みはいってから、武蔵先輩とも会ってなかった。こうして声を聞くのも久しぶりだ。武蔵先輩は三年生だし受験勉強で忙しいのかな。
「そうか。それならいい」
「え?」
「一人暮らしはどうだ? 不便はないか」
いつものふざけた口調の彼ではなくて、私の知らない低めの優しい声音だった。
「はい。大丈夫です」
「困ったことがあれば遠慮なく言うんだぞ」
武蔵先輩は普段はおちゃらけていて、時々年上だ。
本当は皆のことよく見てくれていて、気を配ってくれてる。
……空気を読まない時もしょっちゅうあるけれど。
「歩から祭りに行く話を聞いたぞ! 俺の母が浴衣を用意するからな」
「えっ!?」
浴衣着るの!? しかも、武蔵先輩のお母さんの浴衣ってこと!?
「そんな! 借りれませんよ!」
「大丈夫だ。遠慮するな」
会ったこともないのにお借りしてしまっていいのかな……。
「でも……」
「母が張り切ってるから迷惑じゃなければ、着てくれ」
「あ、ありがとうございます」
……甘えてしまってもいいのかな。
武蔵先輩のお母さんにはきちんとお礼をしなくちゃ。
「せっかくの祭りだ。みんなで楽しむぞ」
「はい」
皆と初めて行く夏祭り。このシンデレラゲームは十二月で終わるんだし、これが最初で最後かもしれない。武蔵先輩は三年生だし卒業だ。
「ましろんの浴衣、楽しみにしているぞ」
「……あ、ありがとうございます」
いつもよりもふざけなくて、今日の武蔵先輩は調子狂う。
「じゃあ、またな!」
言いたいことを言い終えたようで、すぐに電話が切れた。 本当に嵐のような人だ。
「ねぇねぇ、今の電話って先輩?」
にやにやしながら奈々子が顔を覗き込んでくる。
何かすごく誤解されているような……
「奈々子が想像してるような電話じゃないよ」
「えーでも、ましろ楽しそうだったよ? ねぇ、伊代」
「うん。顔が緩んでたよ」
え……私、楽しそうにしていた? 顔緩んでた?
自分じゃ全然気づかなかった……。
「王子達とうまくやれてるならよかった」
伊代が目を細めて穏やかに微笑む。
「ましろが嫌がらせに遭ったとき、本当にどうしようかと思ったけど王子達がいてくれて、助けてくれてよかったよ」
彼らには、すごく感謝してる。それに、いつも心配してくれていた伊代と奈々子にも。
「あのね……伊代、奈々子、いつもありがと」
「やだー! 照れるー!」
「本当改まって言われるとね」
彼らだけじゃなくて、二人がいてくれたから嫌がらせにも耐えられた。本当に感謝してもしきれないほど私の心の支えだ。