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【彼女が約束を破ったら】
扉が静かに閉まる音が、部屋の中でやけに響いた。
吉沢さんは、ゆっくりとこちらへ歩み寄る。
その視線は笑っていない。
「…また、約束破ったね?」
低く落ち着いた声に、背筋がわずかに震える。
次の瞬間、手首を軽く取られ、逃げ場を失うように壁際へ導かれた。
彼の影が覆いかぶさり、視界はすっかり狭まる。
息が混ざるほど近くで、囁くように告げられる。
「今日は…ちゃんと反省してもらうから」
その言葉の意味を、試すような微笑みと共に受け取ったとき、
心臓が痛いほど早く打ち始めた。
部屋の空気は熱を帯び、動けないまま、彼の指先が髪をすく。
それだけで、全身が捕まえられたような感覚に陥った。
彼の視線がゆっくりと降りてきて、目の前で止まった。
「動かないで」
小さな命令のような声が、耳の奥に残る。
距離がさらに詰まり、吐息が頬をかすめた。
唇が触れるか触れないか――その境界で、時間が引き延ばされる。
その焦らしに、思わず息を詰めると、彼はわずかに口元を緩めた。
「そんな顔されると…もっと意地悪したくなる」
囁きと同時に、ほんの一瞬、やわらかな温もりが唇をかすめる。
軽く、けれど逃がさないように。
それは優しさよりも、支配の色を帯びたキスだった。
唇が離れると、彼の瞳が真っ直ぐこちらを射抜く。
「まだ終わりじゃないよ」
その言葉が、鼓動をさらに乱していく――。
唇が離れると同時に、彼はゆっくりと笑った。
「そんなに震えて…本当に反省してる?」
わざと意地悪く、頬を指先でなぞる。
答えられずにいると、手首を離さぬまま、もう片方の手で顎を軽くつままれる。
視線を逃がそうとした瞬間――
「こっちを見ろ」
低く鋭い声に、反射的に目を合わせてしまう。
「いい子にできないなら…もっと厳しくするけど?」
挑発するように唇が近づき、わざと触れずに横へそれる。
その焦らしに、胸が痛いほど高鳴る。
彼の指先が、首筋をゆっくりと辿る。
ほんの軽い接触なのに、まるで全身を支配されているようだった。
「まだお仕置きは、これからだよ」
その囁きが、耳の奥で何度も響いた――。
「立って」
短い命令に、思わず身体が反応する。
足元がふらつくと、彼は片手で腰を支えながら、逃げられない距離を保ったまま動かす。
「ほら、目を逸らすな」
顎を持ち上げられ、視線を縫い止められる。
その瞳は笑っていない。むしろ、逃げる隙を与えまいとする色をしていた。
唇がまた近づく――と思った瞬間、彼はわざと止まり、耳元へと軌道を変える。
低く、熱を帯びた声が囁く。
「欲しいなら…ちゃんと言え」
息を呑む間もなく、背中を壁へ押しつけられた。
両手は頭上でまとめられ、完全に動きを封じられる。
その状態で、ゆっくりと顔が近づいてくる。
今度こそ、逃げられない。
「素直にできるまで、離さない」
そう告げた彼の瞳に、支配の色と、ほんのわずかな愉しみが宿っていた――。
両手を掴まれたまま、視線を外せずにいる。
胸の奥が早鐘のように鳴り、呼吸が浅くなる。
彼はその様子を見て、ゆっくりと唇の端を上げた。
「…もう限界そうだね」
その言葉には、容赦のない確信が滲んでいた。
顔が近づき、吐息が唇をかすめる。
触れる寸前で止まり、わざと間を置く。
その数秒が、耐え難いほど長く感じられた。
「ほら、言ってみな」
低い声と共に、指先が頬から顎へとゆっくり辿る。
その触れ方は優しいのに、逃げられない重圧を帯びている。
声が出ない。
ただ震える唇を見つめながら、彼はさらに問いかける。
「欲しいんだろ?」
沈黙のまま、ただ小さく頷くと、彼の表情が満足げに変わる。
「それでいい。…やっと素直になったね」
次の瞬間、迷いも焦らしもなく、深く口づけられた。
抗う余地など最初からなかったと、ようやく悟った――。