テラーノベル
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宮殿に戻り、証拠として持ち帰った大量の葉を差し出すと、宮廷の専門機関で正しく処理され全て焼き払われた。
スフィアと男は、脱獄不可能な牢屋で厳重に監視され、自白剤で全てを喋った。あの葉を使った媚薬の流通ルートや、密売組織の情報も。
それらは、ガブリエルによって隣国に伝えられ、一網打尽に出来たそうだ。
更には、そのお陰で隣国とも無事に友好関係が結べ、晴れて友好国となった。
友好国になった証に、保護した獣人の子供達を好きにして良いと言われたそうだ。隣国の言い方はあれだが、奴隷制度のある国に連れて行かれなくて本当に良かった。
そして――。
話し合いの末、スフィア達をどちらの国で処分するかが決まった。
隣国が自国の王太子を陥れようとした、許し難い犯罪者達を引き取り、即刻極刑に処した――そう、ガブリエルに報告があったそうだ。
アリスとレオは、アレクがこの国の王子アレクサンドルであると知り、とても驚いていた。
後日。
二人には、ガブリエルとアレクサンドルから今後についての話が伝えられた。
もしも、アレクサンドルの従僕と侍女になる気があるのなら、厳しいがしっかりと教育を受けられる場を与えてもらえる――と。
アリスとレオは「アレクのためなら頑張る!」と言って、その提案を嬉しそうに受け入れたそうだ。
王族の従者に獣人が居れば、ほんの少しかもしれないが、差別という芽を摘んでいく改革の第一歩になるかもしれない。
他の小さな獣人達は、国が所有している孤児院に入り、この国で責任を持って育ててもらえる事になった。
アレクサンドルは今回の功績が認められて、契約紋を消されて学園に戻ることが許された。
ただ、アレクサンドル自身は――。
学園を退学して、直ぐにでも国の為に市井に行きたいと言ったそうなのだが。国王が「学園を卒業する迄は駄目だ」と認めなかったらしい。
学園に戻る前に、アレクサンドルはガブリエルに頼み、カリーヌに謝罪の場を設けてもらった。
婚約は、カリーヌに落ち度が無いと分かるように、細かい手続きし白紙に戻された。
優しいカリーヌは謝罪を受け入れ、今回の出来事を知って、アレクサンドルに同情したそうだ。
ただ、カリーヌには最初から恋愛感情は全く無かったので、同情が愛情に変わることも無かった。
◇◇◇
――そして。
アレクサンドルが学園に復帰する日がやって来た。
沙織とカリーヌとミシェルのいつものメンバーで、今日から復学するアレクサンドルについての話をしつつ……学園へ向った。
「アレクサンドル様、大丈夫かしら?」
カリーヌは心配そうだ。
「そうですね、良くない噂がだいぶ広まっていましたから……。カリーヌ姉様は、殿下と会うのは辛くないですか?」
「ええ、私は大丈夫よ。ありがとう、ミシェル」
「まあ、アレクサンドル殿下もかなり男らしくなってましたし、きっと大丈夫でしょう!」
(……アレクの時は自分を俺と呼んで、なかなかカッコ良かったわ)
その一言に、ミシェルの耳がピクッと動いた。
「……サオリ姉様? 何故、殆ど会ったこともない殿下が男らしくなったと分かるのでしょうか?」
ミシェルの瞳が、氷のように冷たい光を放っている。
(ヒャッ……! お義父様ったら、ミシェルには今回の件を伝えていなかったのねっ!? ヤバイ……これは、絶対に何かに勘付いているわ)
全身から冷や汗が噴き出してきた。
言葉に詰まり返事が出来ない沙織に代わって、カリーヌがおっとりと説明した。というか……言ってしまった。
「ミシェル、それは……今回の事件は、アレクサンドル殿下とサオリ様が解決したからなのですよ!サオリ様は本当に凄いですわ」
カリーヌは高揚し誇らしげに言う。
「…………へぇ。お二人で?」
「えっと……いや。あの、影も一緒だったわよ!」
「まさか、あの影もですか?」
(ひえぇ……! なに、地雷だった!? ミシェルの目が完全に据わっている……。なんで、そんなにシュヴァリエを目の敵にするのかしら? でも、ステファンのことだけは絶対に内緒だし。あー……、早く学園に着いてえぇぇ!)
「お、お義父様に頼まれて、三人で頑張りましたのっ!」
ホホホ……と、取り敢えず言い訳しておく。
(まぁ……半分は事実だし。お義父様、後のフォローはお任せしますっ!)
ようやく学園に着くと、ミシェルと別れて教室へ向かった。教室内を見回すが、アレクサンドルはまだ来ていない。
少しして、アレクサンドルが入って来ると……教室は静まり返った。
カリーヌと沙織は、早速アレクサンドルに挨拶に行く。アレクサンドルは二人と言葉を交わすと、硬くなっていた表情が少し和らいだ。
「カリーヌ嬢、先日はお時間をいただき感謝します」
アレクサンドルは、カリーヌだけに聞こえるように、お礼を言った。
「サオリ嬢、学園で会うのは初めてですね。貴女と学べるのは、とても楽しそうだ」と、クスっと笑う。
「ふふっ、私も楽しみです。また、色々と新しい結界を考えますわ」
「……色々ですか? それは……また……頑張ってくださいね」
(ん?)
なぜかアレクサンドルが、笑顔のまま固まっている。
そんな意味深な会話を聞いてか聞かずか、オリヴァーとセオドアもやって来た。
「「殿下!」」と、二人は嬉しそうに話しかけた。
(うん、男の友情って何か良いな……)
この日から――。
沙織、カリーヌ、イネス、オリヴァー、セオドアのグループにアレクサンドルも加わって、とても賑やかになった。
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