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――ある日のこと。


「ねえ、シュヴァリエ。ステファン様は、本当の姿をカリーヌ様に見せなくて良いのかしら?」


リュカの肉球をプニプニ触りながら、複雑な胸の内をシュヴァリエに明かす。


『それは、ステファン様がお決めになる事かと……』


「ええ、それはもちろん……解っているわ。多分、カリーヌ様はステファン様を想っている。でも、呪いが解けて……急に、アレクサンドル殿下にそっくりの姿で『ステファンです。これが本当の姿で王太子です』と言われて、すんなりと受け入れられるかしら?しかも、今までステファン様だと思っていた姿の、シュヴァリエを知ったら?」


(もしかして、シュヴァリエを好きになってしまったり? ……いや、まさかねぇ。でも……)


リュカのモフモフの背中を撫で、小さな耳を指でつんつんする。


(耳がピクピク動いて……う、可愛いっっ!)


『…………』


「はあぁ……。女心って分からないわ」


『サオリ様も女性ですよ? ……あの、そんなにあちこち触らないでいただけますか?』


流石に弄り過ぎたのか、シュヴァリエに止められてしまった。


(ゔっ……もっと触りたかったわ)


持っていたリュカの尻尾をポトリと落とす。


「そうなのよ、女なのに……恋愛事情ってサッパリ理解できないのよねぇ。今度、お義父様に相談してみようかしら?」


『(確かに、色々気づいてませんし)……そうですね。アーレンハイム公爵なら、良い案が出るかもしれませんね』


シュヴァリエは、無難に答えた。


そして、いつもの訓練にアーレンハイム邸に向かった。



◇◇◇



ここ最近、シュヴァリエの訓練も基礎から応用へと変わってきた。

とはいえ、まだまだシュヴァリエの動きについて行くのがやっとだ。


シュヴァリエから出される魔力攻撃を、瞬時に障壁を出して躱し、そのまま一気に間合いを詰め接近戦に持ち込む。

ただ――魔力障壁は、魔力を帯びていない物理攻撃には対応出来ない。そこをどうするか、ステファンに魔法についてのアドバイスを貰い、研究している。


(うーん。障壁を盾と考えて、結界の要領でコーティング出来ないかしら?)


そんな事を考えながら、シュヴァリエの懐に飛び込んで強化した拳を繰り出した。

一段と早くなった攻撃が、一瞬シュヴァリエに掠ったが……直ぐに後ろに飛んで間合いを取られる。


(あっ、惜しいっ!)



シュヴァリエは、沙織の呑み込みの早さに、驚きを隠せない。影の中でもトップクラスの、シュヴァリエの動きについて行く……それだけでも十分過ぎるのだ。


口には出さないが、沙織には素質がある。言ったら更に、ハイレベルな訓練を求めるに違いない。

ただでさえ、異常な魔力量である。これ以上、公爵家の令嬢が兵器化してしまうのは、避けたかった。……手遅れ感は否めないが。


それは、訓練を遠くから見守っていたガブリエルも、同様のことを思っていた。


「サオリ、今日も頑張っているね」


ガブリエルが珍しく、訓練中に声をかけてきた。


二人は動きを止め、声のした方を見る。シュヴァリエは、沙織とガブリエルの会話を邪魔しないようにか、静かに後ろに下がった。


「あ、お義父様! お戻りになったのですねっ」


久しぶりに顔を見たせいか、嬉しくなる。


あの件の後始末や、アレクサンドルとステファンと政治的な改革も水面下で進めている為、ガブリエルはもの凄く忙しい。ここのところ、ガブリエルはあまり公爵邸に帰れていなかった。


(少しおやつれになったみたい……)


そんな心配を察したのか、沙織の頭を撫でると、ガブリエルはやつれもカバーしてしまうほどの、美しい微笑みを見せた。


「やっと、ひと段落したのでね。数日の休暇を貰ったよ」


「……数日? では、暫くはこちらにいらっしゃるのですね?」


「そうなるね。休み中、またサオリのピアノを聴かせてもらいたい。どうかな?」


「もちろん、大丈夫です! 明日また、学園が終わり次第こちらに来ます。……お義父様、実はちょっとご相談したい事がありまして、その時に聞いていただけますか?」


「ああ、構わない。何かあったのかな?」


「うーん、何も無いからなんです」


ガブリエルは意味が解らなそうだ。言った沙織自身も分かっていないので仕方ない。


「……明日、詳しく聞いてください」


「わかった。そうだ、サオリ……寮で飼っているリバーツェを連れて来てくれないか? 長期の休み中は、連れて帰って来るのだろう?」


――シュヴァリエは、ドキッとした。


ガブリエル・アーレンハイムという男は侮れない。

今まで、カリーヌやミシェル、ステラからの報告のみで、リュカの状態のシュヴァリエとステファンは、ガブリエルに直接会うことはなかった。

何故、突然ガブリエルは、リュカを連れてくるように言ったのか……。


そんな、シュヴァリエの心配をよそに、沙織は二つ返事で了承していた。


「はい! リュカを連れて来ますねっ。ふふ、とっても可愛いのですよ!」


「楽しみにしているよ」と、ガブリエルは屋敷の中に戻ろうとした。


「あっ!! ちょっと待って下さい!」


ガブリエルに駆け寄ると、両手でガブリエルの大きな手を握り、光の魔力を放出した。

最近、できるようになった癒しの魔法だ。光に包まれたガブリエルからは、疲労の色が消えた。


当のガブリエルは、瞠目し言葉が出ない。


癒しの力を持っている者は少ないが、ガブリエルは役職上たびたび会って癒しも体験している。沙織のそれは、今まで見た事も経験した事もないものだった。純度が高く繊細であるののに、大きな力だったのだ。


「少しは、お疲れが取れましたか?」


「……驚いた。これ程の癒しは初めてだよ。サオリ、ありがとう」

ガブリエルの言葉が嬉しかった。


(良かった、少しは役に立てたみたい)


沙織の頬にそっと触れ、ガブリエルは眩しいものでも見るかの様に、目を細める。


(あ……お顔が近いっ! やばい、美形過ぎて目チカチカするわ)


あわわ……と、至近距離に焦ってしまい、パッとガブリエルから離れた。


「で、では、お義父様! また、明日よろしくお願いいたします!」と、沙織はシュヴァリエを呼んで寮へ帰った。



◇◇◇



寮に着くとホッとし、しみじみと思った事を口にする。


「美形って、なんでこんなにも心臓に悪いのかしら?」


『何故ですかね……(貴女はどうしてこうも、鈍感なのでしょうか)』


シュヴァリエは、含みのある返事をしたのだった。

悪役令嬢は良い人でした

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