テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
夜、狭山さんのDiscordサーバーのメンバーとボイチャ雑談してる。引っ越してありがたいのは、こういう会話を自分の部屋、自分しかいない部屋でできるということだ。
俺は同居人がいることを隠していないので、狭山さんの同人友達の近江さんにこう聞かれた。
「同居人さんともう何年一緒に暮らしてるんです?」
「3年以上……今4年目ですね」
「結構長いですね」
狭山さんの先輩作家の猿島さんが聞いてきた。
「その間特にトラブルもなく?」
「トラブルは……なかったわけじゃないですが、同居人とケンカしたとか、関係が悪くなったとかは全然ないです」
そう言うと、二人になんか羨ましがられた。
「いいなー、俺嫁とケンカしてばっかり」
「相性いいんですねー」
「相性ですか、うーん、考えたことなかったけどそうなのかも」
近江さんが言う。
「性格の相性がいいんですよ絶対。そうじゃなきゃ一度もケンカしたことないなんて奇跡的なことないです」
「そうなのかもしれませんねえ、言われてみれば」
猿島さんが言った。
「道でぶつかって偶然出会った人とそんなに相性がいいとか、運命ですよ」
「運命ですか。相手もそう思っててくれたらうれしかったんですけどね」
近江さんから少し苦笑の気配がした。
「まだ彼女作って結婚して子供作れってせっつかれてるんです?」
「未だに。好きな人がいるからでかわしてますが」
「イマジナリー好きな人だ」
「イマジナリーではないですね、その、同居人本人が恋人になってくれたらどんなにいいかって思ってます」
「おっ」
「ひゅー! やっぱりそうなんだ!」
二人はいきなり盛り上がってしまったが、俺はあんまり盛り上がれない。
「まあその……本人は恋愛が分からないと言うか……いわゆるアロマンティックでアセクシャルと言うやつなので、私の気持ちを押し付ける形になるから言えなくて……」
近江さんがワクワクの声で言う。
「多少は押しちゃってもいいんじゃないですか?」
「押して今のすごくいい関係を壊すのも怖くて……臆病と言えばそうなんですけど……」
「まあねえ」
猿島さんが「あの」と言った。
「不躾な質問で悪いんですけど、もしかして同居人さん、和泉さんと子供できなかったりします?」
「……そうなんです。相手は私が子供作ること望んでるので……そういう意味でも、相手の意向を台無しにしてしまうので」
「うーん、つらい」
「私は2人で仲良く過ごせればそれが一番なんですけどね。いつまでこんな感じで続けられるかわかんないです」
これが目下の悩み。いつまでもこうしていたい、一生こうしていたい。でも、いつまでもは続けられない。どうすればいいのか。
近江さんと猿島さんが言った。
「いつかは言わなくちゃいけない日が来るかもですよ」
「でも、応援してますから」
「ありがとうございます」
この人たちといい、狭山さんと言い、緑さんといい、南さんと言い、周りが俺の気持ちにすごく好意的で、千歳への恋心を邪魔しないでくれるのはありがたい。でも、本丸の千歳があの調子なので、難攻不落なんだよなあ。
コメント
1件
ボイチャでの何気ない雑談がこんなに切なく響くとは……。4年一緒に暮らしても伝えられない想い、「相手の望む未来を壊しちゃうかも」って怯えながら隣にいるの、めちゃくちゃ胸が締め付けられました。友人2人が「いつか言わなきゃいけない日が来る」って優しく背中押してくれたのが印象的で、それでも「本丸がこの調子」って苦笑いする締め方がせつなかったです。応援したくなるお話でした🤍
#幽霊
凛道桜嵐 新
193
#日常
がくじゅつてき・あかげ
22,155
わーい
41
485