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W × M
side 元貴
ステージのライトが落ちて
歓声が遠ざかっていく。
耳の奥にまだ音が残ってるまま
僕は深く息を吐いた。
「……はぁ、やば」
喉が熱い。心臓もうるさい。
でも、嫌じゃない。
むしろ——
「元貴、おつかれ」
その声で、一気に現実に戻る。
振り返ると、若井がタオルを片手に立っていた。
「……ありがと」
受け取ろうとした瞬間、ぐっと距離が近づく。
「ちょ、近いって」
「今くらいよくね」
いつも通りの低い声。
でも、いつもよりちょっとだけ近い。
タオルを押しつけるみたいに渡されて
そのまま手首を軽く掴まれる。
「……なに」
「汗すごい」
「ライブ直後だよ?」
「知ってる」
分かってるくせに、離さない。
むしろ、親指で軽く触れられて、余計に意識する。
「……若井、今日なんか変だね」
「どこが」
「距離。」
そう言うと、少しだけ目が細くなる。
「いつもこんなもんだろ」
「いや、絶対違う」
即答すると、若井は小さく息を吐いた。
「……ライブ後だけ許して」
「え?」
「今の元貴、ちょっと無防備だから」
言葉が一瞬で止まる。
「……なにそれ」
「そのまんま」
視線が合う。
逃げようとしたのに
手首掴まれてるせいで動けない。
「顔、赤い」
「暑いだけ」
「へえ」
軽く笑われる。
そのまま、ぐっと顔が近づく。
「……若井」
「なに」
「ほんと、近いって」
小さく言うと、
「嫌?」
って、短く返される。
ずるい聞き方。
「……嫌じゃないけど」
正直に言った瞬間、少しだけ間があいた。
若井の目が、ほんの少しだけ変わる。
「じゃあいいじゃん」
そのまま、距離が縮まる。
さっきより、もっと。
「……他の人、見てる」
「見せるつもりないけど」
「は?」
思わず声が漏れる。
「今日の元貴」
低く、静かに言われる。
「……誰にも見せたくない」
心臓が、跳ねる。
「……なんで」
分かってるのに、聞いてしまう。
すると、若井は少しだけ眉をひそめて、
「分かんねえの?」
って、少しだけ呆れた顔をした。
そのまま、ぐっと引き寄せられる。
「っ、ちょ」
「うるさい」
肩に触れる距離。
逃げようとしたのに、できない。
「……今日、ずっと見てた」
「え」
「楽しそうに歌ってんの」
低い声が、近くで落ちる。
「……かっこよかった」
一瞬、息が止まる。
若井がそんなこと言うなんて、思ってなかった。
「……なにそれ」
「本音」
短いくせに、重い。
そのまま、少しだけ顔を上げると、視線がぶつかる。
近すぎる。
でも——
目、逸らせない。
「……ねえ」
「なに」
「それ、ライブの時だけ?」
自分でも分かるくらい、声が少しだけ震えてる。
若井は少しだけ考える顔して、
「さぁ。どうだろ」
って、曖昧に笑った。
「……ずる」
「別に」
でも、そのまま離れない。
むしろ、
「まぁ、終わったあとが一番好きかも」
って、ぽつっと言う。
「……なにが」
「こうやって、元貴を独り占めできる時間」
一瞬、音が消えたみたいになる。
「……それってさ」
「ん?」
「どういう意味」
ちゃんと聞かなきゃいけない気がした。
逃げたら、多分このまま終わる。
若井は少しだけ黙ってから、
「……好きって意味」
って、静かに言った。
その一言が、胸の奥に落ちる。
「……そっか」
驚くより先に、納得してしまった。
「……僕も、好きだよ」
小さく言うと、
「知ってる」
って即答される。
「は?」
「顔に出てる」
むかつく。
でも、
「……それならさ」
「ん?」
「ライブ終わりじゃなくても、いいじゃん」
言った瞬間、少しだけ空気が変わる。
若井が、ほんの少しだけ目を見開く。
「……それ、本気?」
「うん」
少しだけ笑うと、
「……まじか」
って、低く呟かれる。
次の瞬間、
「……じゃあ、もう遠慮しねえから」
って言われて、
また距離が縮まった。
さっきより、もっと自然に。