テラーノベル
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「……だめだ、もう一歩も動けない。霊夢、魔理沙……俺、異変を解決する前に餓死する……」
俺は湿った地面に膝をついた。迷いの竹林に入ってから、もう体感で五時間は歩き続けている。だが、偽物の月は一ミリも動かず、俺たちの体力をじわじわと削っていく。
「ちょっと、しっかりしなさいよ! こんなところで寝たら、妖怪の餌食よ!」 「そうは言ってもよ、霊夢……腹が減りすぎて、目の前の竹がメンマに見えてきたんだ……」
意識が朦朧とする中、俺は縋るような思いでリュックを漁った。 「何か……何か食べるものは……」
指先に触れたのは、割れないようにタオルで厳重に包んでいた「生卵」が三つ。そして、なぜかリュックの底に紛れ込んでいた、昨夜の晩餐会の片付けで入れっぱなしにしていたカセットコンロだった。
「……あった。あったぞ! 命の灯火だ!」
俺は震える手でコンロをセットし、カチャリと火をつけた。 青白い炎が、暗闇の竹林をわずかに照らす。その温もりに、思わず涙が出そうになった。
「おい、こんな竹林の真ん中で料理を始める奴があるかよ!」 魔理沙が呆れて叫ぶが、俺はもう止まらない。
「うるさい! 空腹は最大の敵だ! 究極の白だしと、この卵があれば、ここはもう極上の厨房なんだよ!」
シェラカップ(キャンプ用の小さな鍋)を火にかけ、白だしをほんの少し垂らす。そこへ卵を落とし、竹の枝を削って作った即席の箸でかき混ぜる。
ジュワァァァァ……。
静まり返った竹林に、卵が焼ける軽快な音と、白だしの芳醇な香りが爆発的に広がった。 冷え切った夜の空気に、温かい湯気が混ざり合う。
「……っ。なによ、この暴力的なほどいい匂いは」 「……不覚だぜ。私も、さっきから生唾が止まらないんだぜ……」
霊夢と魔理沙も、結局コンロの火を囲んでしゃがみ込んだ。 俺は三人のために、小さなだし巻き卵を丁寧に、丁寧に焼き上げていく。
「さあ、食え! 『迷いの竹林・サバイバルだし巻き』だ!」
俺たちがその黄金の一片を口に運ぼうとした、その時だった。
「…………くんくん。……なんだか、とっても懐かしくて、とってもお腹が空く匂いがするわね」
竹藪をガサガサと分けて現れたのは、長い白髪に赤いリボンをつけた、一人の少女。 その背後には、まるで紅蓮の炎のようなオーラが揺らめいていた。
「……あんたたち。こんな夜更けに、私の縄張りで何をしてるのかしら?」
藤原妹紅が、空腹そうな、それでいて鋭い視線で俺の「だし巻き卵」を凝視していた。
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