テラーノベル
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俺は所謂、捨て子だった。
現在でこそこの国は平和で、みんな平等に生きようなんて雰囲気ではあるが、俺が生きていた時代はそんな優しいものではなかった。
予定外に身篭ってしまえば、周りから気味が悪いと言われ、孤立する。
だから俺は、産まれてすぐに山奥の小さな神社に置いていかれた。
捨て子なんて忌み嫌われる者、誰も好んで育てようとしない。
それからずっと、生涯孤独だった。
唯一良くしてくれたのは、年老いた神主くらいだろう。
そうは言っても、好かれていたとはとても思えない。
最低限の生きていくための、衣食住を提供してくれたくらいだ。
向こうも育てたくて育てたんじゃないことくらい、幼いながらに俺は理解していた。
自分が住んでいる場所に赤子が捨てられていたら、そうするしかなかったんだろう。
それでも俺は、その人が好きだったし、感謝をしていた。
会話なんてろくにしてくれなかったけれど、何かお礼がしたいと思い、勝手に神社の手伝いを始めた。
物心が着いた頃、名前が欲しいと思い神主に尋ねると、「自分で勝手に決めろ」と適当に漢字を見せてくれた。
あまり難しい文字を書くことが出来なかった俺は、「仁」「人」と自分が理解しやすいものを選んだ。
その字を見た神主は、「思いやりのある人という意味だ。悪くない名前だ。」と言ってくれた。
せっかく褒めてくれたのに、俺にはその名前がしっくりこなかった。
だって、思いやりが何か知らなかったから。
それでも自分の名前が嬉しくて、より一層神主の為に尽くしたい、と思った矢先のことだった。
俺がちょうど十歳になった時、神主が亡くなった。
悲しかったけれど、驚きはしなかった。
当時にしてはかなり年齢もいっていたから、病気でも怪我でもない、ただの寿命だろう。
でも、死ぬ前に何か言って欲しかった。
結局、向こうから一度も話しかけられることは無く、お別れをした。
もう生きている理由も無くなったけれど、この生まれ育った神社だけは守りたい。
その思いで、俺はここで暮らすことにした。
元々俺がいるという理由で、参拝客なんて殆どいなかったけれど。
神主が居なくなってからは、誰ひとりとして、ここに来ることはなかった。
俺は、ひとり世界の隅っこで、ぽつんと暮らしていた。
そして、神主が亡くなってから5年目の冬。
痛いくらい寒くて、凍てつくような深夜。
俺がいた神社は、火事に見舞われた。
神主がいなくても、俺が住んでいたことは町の人達は知っていたはずなのに。
助けに来てくれる人は、誰もいなかった。
たまに死ぬほど痛い、とか死ぬほど辛い、とか言うけれどあれは嘘だ。
だって本当に死ぬ時は、言葉に表せないほど痛くて辛いから。
呼吸をすれば肺が焼けるように熱くて、それから逃れようと息を止めれば、酸素が脳に行き届かなくなり、意識が朦朧とした。
なんて、惨めな最期なのだろう。
ああ、死ぬのならせめて、天国に行きたいな。
そんな少しばかり呑気なことを考えながら、俺は眠るように目を閉じた。
生涯孤独だった俺には走馬灯なんてものはなく、瞼の裏はただ暗闇が広がるばかりだった。
それから、とても長い長い、果てしなく長い時間が経って。
いや、ほんの一瞬だったのかもしれない。
そんな曖昧な感覚の中、俺は目を覚ました。
瞼を開くと、そこには嫌気がさすほどの青い空が広がっていた。
ようやく、天国に来れたのか。
そう思ったのに、俺のすぐ横にある『それ』を見て、絶句した。
俺と一緒に燃え落ちたはずの神社が、まるで何も無かったかのように厳かに佇んでいる。
そんなはずはないと、瞼を擦る。
もう一度、もう一度。
何度疑ってみても『それ』は、俺が今まで暮らしていた神社と全く同じだった。
どういうことだ、俺は死んでいないのか。
そんな疑問を抱えながら、俺は山を駆け下りた。
町へ行き、あの火事のことを確認するために。
けれど、必死に足を進めても山を抜けることはなく、嘲笑われるかのように神社へと戻ってきてしまった。
何度も試してみても結局、町へ辿り着くことは無かった。
十回程繰り返してようやく、自分が山から出られないことを理解した。
そして、鮮やかな蒼色の小鳥が俺の体をすり抜けて飛んでいくのを見て、嫌でも察してしまった。
俺は、天国へも地獄へも行けなかったのだと。
酷いよ神様、死ぬ時くらい素直に逝かせてよ。
こんな世界に、なんの未練もないのに。
だって誰も俺を見てくれなかった、話してくれなかった。
思い残したことなんてないから、どっかへ連れてってよ。
俺には誰もいないよ、誰もいない。
そう、ずっとひとりだったの。
ひとりで生きて、ひとりで死んでったの。
まあ少し未練があるとすれば、そうだな。
誰かに、愛されてみたかったな。
「俺、仁人に触りたいよ………。」
苦しそうに呟いた勇斗は、唇を噛み締めて深く俯いた。
そんな事言わないでよ、ずるいよ。
俺だって、勇斗に触りたいのに。
角張った輪郭とか、少し無骨な指とか。
触れてみたいな、こんな形だけの口付けなんかじゃなく。
知りたい、君の体温を。
指先ひとつでも触れてしまえば、そんな事あっという間に知れるのに。
なんで俺たちは、同じ時代を生きれなかったのだろう。
地球の裏側でも、果てしなく遠い世界でも、時間を共有出来ていれば。
お互いの温もりに、溶け合えたはずなのに。
ふと、勇斗が着ている不自然な長袖のカットソーを見つめる。
きっとその腕には、俺が付けてしまった傷があるのだろう。
気づいてるよ、俺が勇斗に取り憑いたことくらい。
早く解放してあげなきゃ、そう頭では理解しているのに、それが出来ない。
だって離れたくない、勇斗と一緒にいたい。
もう、ひとりは嫌なんだよ。
「おれも、……勇斗に触りたいなぁ。」
まるで、独り言のように小さく言葉を落とす。
聞こえなくてもいい、そう思っていたのに勇斗は俺の言葉を逃すことは無かった。
「どうしたらいい?……どうしたら、俺は仁人に触れる?仁人とずっと一緒にいられる?」
鼻先が重なるほど顔を近付けて、懇願するように問いかけてくる。
俺はその言葉に、僅かな笑みを浮かべてこう返した。
「勇斗も、こっちに来ちゃえば?」
ごめんね、こんな風にしか君を想えなくて。
死んじゃってて、ごめんね。
コメント
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ぴちゃん様、はじめまして。 いつも素敵な作品を楽しく読ませていただいています。ぴちゃん様が書かれる2人の雰囲気や心情の描写がとても好きで、毎回引き込まれています。 ご迷惑でしたら申し訳ないのですが、他SNS(Xなど)を開設されるご予定はありますか?ぴちゃん様のお2人に関する考え方なども知れたら嬉しいなと思い、お聞きいたしました。 長々と申し訳ありません。これからも素敵な作品楽しみにしております…!

がくぶち🐌
ゆ。