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ジミンside
「ジミナ〜そろそろ起きれる?具合どう〜?」
テヒョンに優しく揺り起こされて、目が覚めた。そうだ、採血をして気分が悪くなって…それで…そう…まだ検査が残ってるんだった…。
布団の中でこっそり右手を動かしてみる。やっぱり痺れや痛みがあって動きが鈍く、僕はまた絶望した。
起きたく…無かった…。起きてまた現実を目の当たりにするぐらいなら、寝なければ良かった…。
貧血だった身体はいくらかマシになっていたけれど、気分は最悪だ。また涙が流れて、頬をすーっと伝っていった。
ジン先生が病室にやってきた。
「ジミナ、そろそろMRIの時間なんだけど、大丈夫そう…?」
MRIは、横になった状態で狭い狭いトンネルのようなところを通される検査。やってる間中、工事現場のような爆音が鳴り響くのに耐えなければいけない。
暗くて狭いところが苦手の僕は、MRIが大の苦手で…いつも心臓がギュッてなるし、気が狂いそうになる。
「ジミナごめんね、酷なこと言うけど、泣いたりパニック起こすと心臓に負担かかっちゃうから、なるべく平常心で耐えて欲しい…。ジミナ苦手なの分かってるけど、これはすごく大事な検査だから…。」
「じ、自信ない…怖い…。」
「時間は、どれぐらいかかるんだっけ?」
テヒョンが心配そうに、ジン先生に質問する。
「うん、30分か40分ぐらいかなぁ。ジミナ心配なら、予め精神安定剤のお薬出しとこっか?」
「う、ん…飲む…。」
「じゃあすぐ看護師さんに届けさせるね。待ってて。」
ジン先生が出て行くと、僕はテヒョンの胸に顔を埋めて泣いてしまった。
「テヒョン〜めちゃくちゃ怖い。それに泣いちゃダメなんだって。平常心だって。無理だよう。」
「…ジミナさ、狭いのが怖いなら、目つぶって、想像したらいいんじゃない?」
「な、何を…?」
「そうだ!こないだのさ、露天風呂。僕と一緒に、星空見たよね?それを想像してごらんよ。ジミナならできるよ。」
「うん…やってみるよ…。」
「それから、これ使ってみて。」
テヒョンはカバンから耳栓を出してくれた。
「ジミナ爆音苦手でしょ?さっきジミナが寝てる間に、下の売店で買ってきたんだ。ウレタン製で強力って書いてあったから、少しは効果あると思うんだけど…。」
「あ、ありがとう〜」
「入院着のポケットに入れておくから、検査室に入ったら付けてもらうんだよ。わかった?」
「う、うん。」
その後僕は、看護師さんが届けてくれた精神安定剤の錠剤をごくんと飲み込んだ。薬、効きますように…。泣かないで、パニックを起こさないで、耐えられますように…。
それから僕は、テヒョンと看護師さんに付き添ってもらって、地下の検査室に行った。MRIの検査室は、普段は行かない病院の隅の場所で、なんか不気味なところ…。
検査室の扉の前まで来ると、テヒョンは震えている僕の両肩に手をおき、僕の目をしっかりと覗き込んで言った。
「ねぇジミナ、僕は検査室のいちばん近くでずっと待ってるからね。僕も目をつぶって、ジミナと見た星空を想像してるから。ジミナは1人じゃないんだよ。わかった?」
「う、うん!」
「ジミナなら絶対に大丈夫。頑張るんだよ。ここで待ってるから。」
テヒョンに最後にギュッと抱きしめられて、バイバイして、僕は検査室に入った。
中に入ると、検査技師さんが待っていた。検査技師さんは普段関わりのない人だから、緊張して不安が増す。
「あ、あの〜、耳栓持ってきたんだけど…ポケットに入ってるんだけど、僕は手があんまり動かないから…付けてもらっても、いいですか…?」
勇気を出してそう言うと、検査技師さんはポケットから耳栓を取り出し、耳に入れてくれた。
「金属性のアクセサリーなんかは身につけてない?一応確認させてね。」
入院着の上から全身を確認された後、僕は台の上に寝かされ、バンドで固定されてしまった。あぁもう、身動きがとれない。逃げられないんだ…。
「それじゃあまず、造影剤の注射をしますね。」
「え…ちゅ、注射もするんですか…?」
嫌だ、そんなの聞いてないよ…(泣)。
「ごめんね。画像診断を見えやすくする為に必要だから…」
心の準備もないままに、僕は腕を取られてしまった。
「刺しますね、ちょっとチクッとするよ。」
「い、痛〜い…(泣)」
予想外の注射にもう心が折れそうになるのを、唇を噛んでこらえる。泣いちゃダメ…これからなんだから…。
「はい、じゃあ始めますね。絶対に動かないで。リラックスして、ゆっくり息してくださいね。」
僕が載った台がウィーンと動き始め、爆音がしてくる。耳栓をしているとはいえ、すごい音…。
僕はギュッと目をつぶって、テヒョンと一緒に露天風呂から見た星空を必死に想像した。
それでも気を抜くと、狭い空間にいることが思い出されて冷や汗がでる。目を開けちゃダメ。絶対にダメ。テヒョンと入った温かい大きなお風呂や、綺麗な星空だけを思い出すんだ…。
……長い長い拷問のような時間がやっと終わって開放されると、僕は全身汗だくでびしょ濡れになっていた…。
テヒョンside
地下の検査室の前の廊下のベンチに座ってジミナが出てくるのを待つ。部屋の外まで爆音が漏れてきて、ジミナはこの中にいるのかと苦しくなった。
いつもいつも感じる、変わってやれない無力感…。僕も目をつぶってジミナを思いながら、ジミナと一緒に見た星空を想像する。
…長い待ち時間の後、ジミナが検査技師さんに付き添われて出てきた。汗びっしょりでヘナヘナと力無く崩れ落ちそうなジミナ…。
僕はジミナに走り寄って力一杯抱きしめ、頭をわしゃわしゃ撫でた。ジミナは安心したのか、泣き出してしまった。
「う、うわーん。怖かったよう。も、もう…泣いても、いい…?」
「よしよし、うん、もう泣いても大丈夫だよ。ジミナ頑張ったんだね。えらかったね。」
「怖かった…。長くて、全然終わらないし…最初に、ちゅ、注射まで、されちゃったの…。」
「そうかそうか、可哀想だったねぇ。お部屋に帰ろっか。おんぶしてあげる。」
フラフラとして歩けなそうなジミナをおんぶして、病室まで連れて帰った。ジミナは僕の背中でヒックヒックとしゃっくりあげている。
ジミナをベッドに下ろして寝かせると、タオルで頭や顔の汗を拭いた。
「汗びっしょりで濡れちゃったね。全部お着替えしよっか?新しい入院着、棚に入ってる?」
「うん…」
まだすすり泣いているジミナを、手早く着替えさせる。
「下着も変えちゃうね。脱がせるよ。」
ジミナは横になって泣いているばかりで、されるがまま…。そんなジミナのズボンとパンツをそっと下ろす。白くて小さなお尻に、細い足…。その無防備な身体を目の当たりにすると、可哀想でせつなくて、僕はたまらなかった。
寒いだろうと、急いで新しいズボンとパンツを履かせ、お腹まで引っ張り上げた。
「はいお着替え終わり!サッパリした?」
「あ、ありがと…ぐすん。」
「これで検査終わりだね、良かったねぇ。今日はゆっくり休みな〜。」
「テヒョン、ま、まだ…帰らないで…怖いの。」
「帰らないよ。大丈夫だよ。安心して。」
僕はまだ震えているジミナを布団で大事に包み込むと、安心させるように布団の上からさすり続けた。