テラーノベル
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ちょいクズ→💛
俺は、博愛主義なところがある。友達になったら男女関係なくみんな大好きだし、付き合おうと言われてしまったら多分付き合ってしまう。断って離れられるよりマシだと思うから。
そして、俺は多分今まさにその状態になっている。正直最低だと思う。恋愛的に好きかもわからないで離れたくないという私欲で付き合うなんて、気持ちを踏みにじるのと同意だ。それでも俺は断れなかった。柔太朗を人間として愛しているから。柔太朗と話したり遊んだりする何気ない空気と時間を丸ごと愛しているから。多分柔太朗も、そう。であってほしい。….いやいやいや、こう思ってしまうところがダメなんだよ。好きでもないのに。これは愛じゃなくて愛着だ。…俺は恋愛を生まれてこのかたしたことがないし、定番の恋愛である相手への情熱的なドキドキと言うものも感じたことがない。だから俺の柔太朗への好きは、多分、違う。だからと言って、他の人と柔太朗への気持ちが同じか、と聞かれたら、それもまた違うのかもしれない。
毎回、考えては答えが出ずにこの考察は終わってしまう。
今日は、夜に柔太朗が俺の家に来るから、最寄り駅まで迎えに行くことになっている。
「駅ついた〜」
柔太朗からのLINEに既読をつけ、できる限りに変なスタンプを送る。せめてもの蛙化作戦。それと同時に、どうか嫌いにならないでくれ、俺を捨てないでくれ、と言う気持ちが出てくることは、だいぶ前から無視している。これは俺の本能であって本心ではないから。
数分経って駅に着くと、柔太朗は若い女の子達にワラワラと囲まれてよそ行きの顔をしていた。近づくと、ぱっと振り向いたかと思えば待ってましたと言わんばかりの幸せそーなふにゃっと笑顔を俺に向ける。本当のかわい子ぶりはコイツ。俺なんかじゃない。まあだけど、俺は柔太朗を可愛いと思った事はあんまりない。可愛いっていうのはいわゆるたまごっちとか、サンリオとか、そっち系の可愛さじゃなくて。恋愛的に?みたいな方。可愛いからキスしたいとか、コイツを抱きたいとか、抱かれたいとか、そう言う劣情なんてのが 一ミリも湧き上がってこない。これは、柔太朗だからとか言うんではなくて、誰に対してもだ。だけど、柔太朗がしたいなら、まあする。
そっちに振り切って仕舞えばいっそ楽なのかと思う時もある。でも柔太朗は下手くそそうだなぁ。
そんなことを考えていると、柔太朗が寂しそうな目をしていることに気づく。俺が慌てて手を繋ぐと、柔太朗はまたふにゃっと笑って、大切そうにきゅっと俺の手を握り返す。そして、さっきとはまた違う寂しそうな表情をしたかと思えば、俺の腕ごと手を振って歩きだした。
家の鍵を開けて柔太朗を先に入れる。柔太朗は、「お邪魔〜」などと言って入っていき、靴をそろえて脱ぐ。こいつは礼儀正しいし、マナー守るし、いいやつ。俺なんかよりいい奴いるだろ、こんないいやつには。とか思うけど、言わない。もしそれで本当に他のやつを見つけられたら、それはそれで..。
柔太朗はベージュのすらっとしたコートを脱いでハンガーにかける。コートの下は黒い上品なタートルネックにシルバーのネックレス、それにグレーのスラックス。一目でオシャレをしてくれていると分かる。俺と会う時は、多分、毎回気合を入れている。それを見て最近湧いてくる誰に対してか分からない優越感は心に留めておく。
俺らは基本的に付き合う前とやっていることはあまり変わらない。普通にふざけて普通にゲームをする。普通に料理を作ってあげて、普通に布団を敷いてあげて、普通に寝…ここは変わった。最近は、柔太朗が来る日は2人で同じ布団で寝ている。
「よっしー?漫画読んでいいー?」
『いいよー。お好きに読んでー。』
こいつもこいつでなんなんだ。付き合ったんなら、もっとなんか、距離が近くなったり、スキンシップが増えたり、そういう雰囲気にしてきてもおかしく無いのに。そっちから付き合ってと言ってきたくせに。
布団や手を繋ぐ以外、これといって付き合ってる人同士のことはしていない。ていうかされてない。キスも、ハグも。別にされたいとかでは無くて、恋人になったんならそういうのをするのが筋では?
まあ、柔太朗がしてこないのは俺がそういう気が無いことを分かっているからだ。きっと。
そう言う奴。いい奴。察しのいい優しい奴。だからたまに申し訳なくなる。でも俺もその気遣いを分かっているから、からかって抱きついたりはしないようにしている。
本当にあいつがしたいかどうかもわからんけど。一応。
この前柔太朗が「最近好きなのよ。ワイン。」
と自慢げにしていたので、俺はこないだ偉い人からもらったワインをグラスに注いで、ソファで漫画を読んでいる柔太朗に振る舞ってみた。家で一緒にお酒を飲むのは付き合ってから初めてだ。
柔太朗は、そのまま飲むかと思いきやスンと匂いを嗅いで、「香りがいいのよ、これ。」などと言っている。俺も隣に座って、一口飲む。なかなか美味しい。そのままごくごくと飲み干して、その勢いのままソファに体を預ける。柔太朗は俺をチラッと見てから、まだ半分くらい残っているグラスを置いて俺に近づきすぎないくらいの所に背中をぎこちなくもたれる。柔太朗の腕は体からだいぶ離れた場所に投げ出される。どちらかと言うと、俺の方に近い。でも、こいつは俺に触れない。
もどかしい。じれったい。
「じんちゃん、明日なんか予定ある?」
柔太朗の手が手のひらを上にしたまま、ポンと俺の膝の上に置かれる。顔は向こうを向いていて、表情が見えない。俺はなんの気もないように手を繋ぐ。さっき外で繋いだ時とは、手を繋ぐことに含まれている意味が少し違ってしまっているような気がした。
『特にないよ。』
「そっか。」
柔太朗が、体をこちらに寄せてきた。かと思えば、手を握ったまま俺の腕に腕を絡ませ頭を付けてくる。珍しい。顔はすこし赤くなっている。酔いが回って来たのか。
俺の中には、やっとしてくれたと言う気持ちと、ほんの少し、どうか辞めてくれ、この関係のままでいさせてくれ。という気持ちが、ある
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「じんちゃん、好き。」「好きだよ。」
ぽつぽつと、堪えきれなかったように発される言葉。 俺は何も言えない。同じ言葉を返しても、俺と柔太朗ではきっと意味が違ってしまう。
腕を外し、俺に向き直る。
「じんちゃん、今日だけ。今日だけでいいから。明日になったら、もう二度としないから。だから、その、俺と….. 」
俺は、きっとものすごい焦った顔をしたんだ。ぐるぐると回る思考から意識を目の前の男に戻すと、次の言葉を言い出そうとした口は閉じ、ショックを受けたのを隠すように下を向き必死に表情を固めた。
「なんでもない。」
『あ、いや、違くて、嫌とかじゃな…..』
「…..今日やっぱ、帰るね。」
ソファからバッと降りて玄関へ向かおうとする。何も持たずに。
俺はこんな時に自分に言い訳をしていた。違うんだ、突然だったから。びっくりして、なんて答えようかって。
でも傷つけてしまった、柔太朗を。
1番危惧していたことを起こしてしまった。
俺の体は動かない。言葉も何も出ない。俺が傷つけたから、俺に柔太朗を止める権利は無いように思えた。でも、俺が動けない理由はもっと自分本位で、やっぱり俺は柔太朗と離れたくないっていう私欲だけで付き合ってて、そういうことする雰囲気になったら嫌になったっていうただそれだけ。俺が最低だから。
あとは、誰が悪いかという責任の所在を明らかにしたくないためだということは何となく分かる。この何となくを言葉にしてしまって誰かに伝えたら、確実に俺が悪者になるだろう。そして自分の心の中でさえも、自分が悪者になりたくはなかった。
「今日はごめん。…..じゃ、」
押し込めた声でそう言うとスマホと財布だけガッと掴んでドアノブに手をかけて出て行こうとする。
『ちょ、柔太朗!』
ちょっとだけ遅めに歩く。焦りとは裏腹に
ずる賢い頭はぐるぐる回り、少しでも可哀想な男の立ち回りを俺に行わせようとする。
それに従う俺も多分最低。
柔太朗は、きっと俺を責めない。
カチャン!とドアが閉まった。俺はそれを数秒見つめて動かなかった。向こうへ走る音が聞こえる。だんだん早くなって遠くなる。
部屋が、急に自分のものではなくなったような感じがした。綺麗に吊るされたコートが、目の端に映る。俺はいたたまれなくなり押し出されるようにドアを開けた。外はずんと暗くて、雲が重い。俺に全部を諦めさせるにはちょうど良い。少し遠くを走っているあれが柔太朗なのかさえ確信が持てないくらいだ。俺は何も見まいと走り出す。
『柔太朗!』
振り向かない。
周りのビルや空はいつもより大きくて、今外にいる誰よりも走っているのに、自分が全く前進していないような感覚になった。
『柔太朗!』
なんでか、この言葉以外は言わないほうが良いと思った。でも、この言葉は口から勝手に出ていくだけの物で、自分でも何の意味を込めたいのか、何を伝えたいのか分からない。
俺は、一体、何を守ろうと…取り戻そうとしてるんだろう。何で走ってるんだろう。
何がしたかったんだろう、俺、ずっと。
目が見えなくなってきて、 柔太朗がぼやける。
『柔太朗っ』
『っ、柔太…っはぁ…柔太朗!ゲホゲホッ』
息が上がって足が遅くなる。
柔太朗が一瞬止まった気がしたけど、またすぐに走り出して、完全に見えなくなった。
それを見て俺は、走るのを止めた。
ゆっくりと、家に戻る。といっても今俺を動かしてるのは、さっき走った残りのエネルギーで、ただ進まされているだけ。
足が重い。体が重い。疲労感とは別に、俺の心から巡っていくよどんだ血液が全てを重くしている。
そして、色彩を全て削ぎ落としたような、低い天井に閉じ込められたような空だけが目に映る。
思っていたより早く家に着いてしまった。あんなに走ったのに。
でも、家に入るのが怖い。なんだか全く知らない場所に入るように感じられる。
ふと、地面に点が付き出した。
ポツ、ポツリ
粒の大きい水が頬にあたる。俺は急いで中に入った。
ドアを閉めた途端に雨は勢いを増し、瞬く間にざあざあと本降りになっていった。
閉ざされた室内では雨は遠く聞こえ、世界から切り離されたような静寂が満ちた。
濡れなかった安堵よりも、逃げ場を無くしたような圧迫感が胸に広がった。
柔太朗は、….濡れちゃったのかな
俺はもうどこにも力を入れたくなくて、なだれるようにソファに横になった。
横を見ると目線の先に柔太朗が残したまんまの飲みかけのワインがある。
そういえば、あいつここに座ってたんだった、と思ったら、 とっさに体を起こしてしまった。
隣が、心が、ひどく寂しい。
もう、家には来ないだろう。
『….柔太朗。』
さっきの残りがまだあったらしい。全て叫び尽くしたと思っていたのに。いや、新しく湧いているのかもしれない。
きっと涙と同じ成分で出来ているんだろう。
もう、軽々しく呼べないかもしれない。
もう、….次会ってもじんちゃんなんて呼んでくれないんだろう。
俺は机の上のワインをぐっと飲み干して、
またソファに横になった。
今度は起き上がらなかった。ソファと一緒に、ここにいた柔太朗と一緒に、
雨の中に沈んで行く気がした。
どこで間違えたのか。
それだけが頭にずっとはんすうされた。
コメント
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おお…これは重い。でもすごく刺さったわ。 「好きの意味が違う」って分かってて付き合っちゃう主人公の自己認識の鋭さと、それでも動けない弱さのバランスがリアルすぎて胸が痛かった。「今日だけ」って言った柔太朗の必死さと、それを受け止めきれなかったシーンのもどかしさ…めっちゃ伝わってきた。追いかけるシーンの焦燥感も良かったわ。 続きすごく気になる!この関係、どうなっちゃうんだろ🔥