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沈黙を破ったのは、母だった。
「……陽葵」
やわらかい声。
でも、どこか決意を含んでいる。
「お母さん?」
「ニュース、見たよ」
母は少しだけ笑う。
「すごく怖かった。あんたが瓦礫の中に飛び込んでくの」
胸がぎゅっとなる。
「でもね」
ゆっくりと、陽葵の手を握る。
「誇らしかった」
「……え?」
「誰かを助けたいって、迷わず動けるあんたを」
陽葵の喉が詰まる。
「でも同時にね、思ったの」
母の指に、少し力がこもる。
「この子は、自分を後回しにするって」
図星だった。
「陽葵。あんた、昔からそうでしょ? 友達の分まで怒って、友達の分まで泣いて」
「それは……」
「自分の分は?」
言葉が出ない。
母は優しく笑う。
「普通でいたい気持ち、わかるよ。お母さんだって、できれば危ないことなんてしてほしくない」
視線が、スーツ姿の男へ向く。
「でも」
もう一度、陽葵を見る。
「知らないままでいるほうが、怖いんじゃない?」
静かで、まっすぐな声。
「ちゃんと学んで、ちゃんと強くなって。それで守れるなら――行ってみなさい」
陽葵の目が揺れる。
「……でも、私」
「倒れたら帰ってくればいい」
さらっと言う。
「三日寝たくらいで何よ。あんた、昔から寝れば治るタイプでしょ」
「いや今回ちょっとスケール違うけど!?」
思わずツッコミが出る。
母はくすっと笑う。
「どこにいても、あんたはあんた。普通かどうかなんて、場所じゃなくて心で決めるものでしょ?」
胸の奥が、じんわり熱くなる。
炎とは違う、あたたかさ。
陽葵はゆっくりと、男を見る。
「……もし行ったら」
声が少し震える。
「私、ちゃんと帰ってこれますか?」
男は即答する。
「帰れる」
短いが、迷いのない声。
「だがその前に、帰る必要のない強さを身につけろ」
陽葵は大きく息を吸う。
そして――
「……ずるいなあ」
ぽつりと呟く。
「なんかもう、行く流れじゃないですか」
それでも、まだ少しだけ不安が残る。
「……怖いですけど」
顔を上げる。
「逃げたくない、かも」
男の目が、わずかに細められる。
「では決まりだ」
陽葵は苦笑する。
「ちょっと待ってください! まだ完全には言ってません!」
病室に、小さな笑いが生まれる。
でも確実に、何かが動き出していた。