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映画は、前評判よりもあっけない幕引きだった。
エンドロールを眺めながら涙を流しているのは、たぶん瑞希くらいだろう。
(……これじゃ、詐欺じゃない)
そう思うけど、レイトショーということを差し引いても、客はがまばらだったことは、彼女にとって好都合でもあった。
劇場内が明るくなり、客はそれぞれに席を立つ。
ひとり、ふたりと、ぼやけた視界の端を通り過ぎていった。
その中で、すこし先に座っているスーツ姿の男だけは、いつまでも席に座ったままだ。
早く行ってよと、理不尽な苛立ちを覚えても、彼は動こうとしない。
瑞希は膝の上にあるハンドタオルで、そっと瞼を押さえた。
瑞希がここに来たのは、映画を見たかったからじゃない。
明かりの灯らない部屋でひとりで泣きたくなくて、涙を流してもだれも気にしない場所を選んだというだけだった。
だから、映画が始まってからずっと泣いていた。
もうじゅうぶんに泣いたのに、涙はあとからあとから溢れて止まらない。
瑞希は消えそうな息をついて、目に当てたタオルを外した。
さっきよりも視界がはっきりとしているけれど、気を抜くとまた泣いてしまいそうだった。
瑞希の瞳に、ようやく立ち上がった男の背が映り込む。
けれど彼は立ち上がってもなお、しばらくの間その場に立ち尽くしていた。