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花言葉
推理小説やミステリーものが好きな男は、妻のある行動に気になって仕方がない。
男と妻は結婚してから十年以上経つ、子供は居ない、ごく普通の夫婦だ。特に問題もなくこれまで夫婦生活を送っていたのだが、男はここ一年程、緊張でまともに眠れない日々を過ごしていた。原因は、妻の趣味だ。
「……また買って来たのか」
その日の夜、男が家に帰ると、また新しい花がキッチンのカウンターに飾られていた。
「あ、おかえり!」
男の帰宅を妻は料理をしながら笑顔で迎えた。
「綺麗でしょ? 一目惚れしちゃって」
トントンと包丁を叩いてそう言った。男はカバンを置いて、ぎこちなく上着を脱ぐ。
「この間のにも……そう言ってたろ」
「言ったよ? 惚れやすいのよ、綺麗な花ばっかりなんだもん」
そう言う妻のいつもと変わらぬ様子に、男の疑問はますます膨れ上がる。
妻は花が好きだ。昔からよく店で買って来たり、道端に気に入った物を見つけると、それを摘んで帰ってくるくらい花には目がない。そうして家に飾るのだ。男の方は花を特に好きでもないのだが、妻が花を持ち帰る度に、その花の花言葉を調べるようになっていた。以前読んで印象に残っている小説が、花言葉を鍵に事件を推理するというもので、少し花言葉に興味を持ったからだ。新しい花が飾られるのは毎日ではないため、花言葉を調べるのは苦にならず、毎回続けられた。名前を知っている花でも、知らない花でも、すでに花言葉を知っている物でも、せっかくだからと全て検索した。最初の頃のものはもうあまり覚えていないが、昨年から今にかけては、考え深い意味を持つ物ばかりで家に居るのに気が休まらない。
四月に妻が飾った花はロベリアという花だった。花言葉は『悪意』。
五月にはカルミア。花言葉は『裏切り』。
六月には四葉のクローバーが小さなコップに入れられていた。花言葉は『復讐』。
七月にはチューベローズ。花言葉は『危険な快楽』。
九月にはイヌホオズキ。花言葉は『嘘つき』。
どれも不気味なものばかりだ。もちろん一つの花にある花言葉は一つだけではない。ロベリアには他にも『いつも愛らしい』『謙遜』というのもあったし、カルミアには『大きな希望』とか、四葉のクローバーにだって『幸運』という言葉もある。しかし、妻がそれまでネガティブな意味を持つ花を飾った事はなかった。それにこうも気味の悪いものが続くと、嫌でも意識してしまう。
(これも何か良くない意味を持つ花なんじゃ……)
花瓶に生けられた白い花をいぶかしげに見ながら、男は立ち止まって考えていた。
ずっと突っ立って花を見ている男に、妻は話しかける。
「どうしたの?」
「いいや」
男は何も言わずに風呂場に入って行った。
風呂場の戸が閉まると、タイミング悪く男のスマホから電話の着信音が鳴る。その時男は当然何も気が付かない。
包丁の叩く音は消えていた。
コメント
2件
1ヶ月後に二話の投稿を予定。
うわ、これめっちゃ怖い……! タイトルの「花言葉」からじわじわ来るタイプのミステリーだね。ロベリア「悪意」、カルミア「裏切り」、クローバー「復讐」……もう完全に夫♡♡♡のカウントダウンじゃん。最後の「包丁の音が消えた」で心臓止まるかと思った。日常に潜む不気味さを花で表現するところ、めっちゃセンス良いわ。続きが気になるけど、余白が効いててむしろこの1話で完結してても味わい深いな。Meonさんの心理描写巧いよ〜。