テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#学園ファンタジー
成瀬りん
291
#家族
たつ
53
#日常
ももは
551
病室を包む空気は、重かった。
誰一人として言葉を発しない。
静かに響く心電図の電子音だけが、この場に流れる時間を刻んでいた。
――今のままでは勝てない。
その事実を、三人は誰よりも理解していた。
だからこそ、こうして病院のベッドに横たわる自分たちが、何よりも悔しかった。
公太はシーツを握り締める。
拳が震えるほど力を込め、唇を強く噛み締めた。
唯我は静かに目を閉じる。
胸の奥で燃え続ける怒りと屈辱を、必死に押し殺していた。
一祟もまた、何も語らない。
穏やかな表情は消え、固く結んだ唇だけが悔しさを物語っていた。
重苦しい沈黙が、病室を支配する。
やがて、その静寂を破るように畑中が口を開いた。
「……これからの話をしよう」
三人がゆっくりと顔を上げる。
「今回、お前らが負けたことで見えたものがある」
畑中は静かな口調で続けた。
「敵の実力。俺たちの足りない部分。そして――これから進むべき道だ」
その言葉に、三人の表情が少しずつ引き締まっていく。
「どうすれば奴らに勝てるのか。その答えを今から話す」
敗北は終わりではない。
ここからが、本当の戦いだった。
畑中はタブレットを起動し、三人へ向ける。
画面に映し出されたのは、先ほど自分たちを圧倒した三人の姿だった。
漆黒のローブを纏う男。
鋭い眼光を持つ剣士。
そして無言の巨漢。
公太が低く呟く。
「……間違いねぇ。あいつらだ」
畑中は頷いた。
「ロキ、カイゼル、ヴィクター。アビス三幹部――最強の戦力だ」
その名を聞いただけで、三人の脳裏に敗北の記憶が蘇る。
「まずはロキ」
画面には銀髪の男が映し出される。
狂気を孕んだ笑み。
見る者を不安にさせる異様な存在感。
「奴は空間操作能力者だ。そしてもう一つ――”転写”の能力を持つ」
「転写……?」
一祟が問い返す。
「相手の能力を模倣し、自分のものとして扱う能力だ」
公太が悔しそうに拳を握る。
「だから灼獄が届かなかったのか……」
「ただし」
畑中は指を立てた。
「ジュリーの解析では、コピー能力は完全じゃない。威力も精度も本物には及ばない」
その言葉を聞き、公太の口元に笑みが浮かぶ。
「なら話は早ぇ」
拳を握り締める。
「コピーしたら逆に自滅するような技を作ればいいってことだな」
畑中は静かに頷いた。
「その発想だ」
画面が切り替わる。
黒髪と金色の瞳を持つ剣士――カイゼル。
「次はカイゼル」
「奴の武器は冥剣グラム」
「冥気を纏った斬撃は、相手の生命力そのものを削る」
唯我は静かに目を伏せる。
「……俺の幻影は、完全に見切られた」
「剣技だけでも化け物だ」
畑中は真っ直ぐ唯我を見る。
「正面から斬り合えば、お前が不利だ」
少しの沈黙。
そして唯我がゆっくり口を開いた。
「なら正面から戦わなければいい」
その瞳には冷たい覚悟が宿っていた。
「幻惑でも、毒でも、搦め手でも使う。勝てばいい」
畑中は小さく笑う。
「ようやく頭を使う気になったか」
最後の画面。
無言の巨漢――ヴィクター。
「能力名は鋼躯」
「異常な肉体強度を持ち、物理攻撃をほぼ無効化する」
一祟は静かに頷いた。
「僕の神威の風も、まったく効きませんでした」
「だが」
畑中は真っ直ぐ一祟を見る。
「神威撃には元々、浄化と貫通の性質がある」
「その力を一点へ集中させろ」
「一点に……?」
「外側ではなく、内部を破壊するんだ」
その言葉に、一祟の瞳が大きく開く。
「内部から……」
「ヴィクターは外からの攻撃には強い。だが内側まで無敵じゃない」
一祟はゆっくりと頷いた。
「分かりました」
その声には、いつもの穏やかさではなく力強さがあった。
「僕の神威を進化させます」
「今度こそ、必ず貫いてみせます」
畑中は三人を見渡した。
「ロキには”罠になる技”」
「カイゼルには”搦め手”」
「ヴィクターには”内部破壊”」
「これがお前たちの勝機だ」
三人は静かに頷く。
もう迷いはない。
敗北は終わった。
次に待つのは――
三幹部との再戦。
そして今度こそ、勝利を掴むための戦いが始まろうとしていた。
コメント
1件
あおいです🌷 第65話、読みました。 敗北の重さと、そこから立ち上がる覚悟がひしひしと伝わってくる回でしたね。特に、三人それぞれが自分の敗因を認めた上で「どう勝つか」に頭を切り替える流れがとても好きです。公太の「コピーしたら自滅する技」という発想の転換、唯我の「搦め手でいい」という冷めた覚悟、一祟の「内部破壊」への気づき――三者三様の成長の兆しが感じられて、次が本当に楽しみになりました。畑中さんの「ようやく頭を使う気になったか」という台詞に、思わず笑みがこぼれました。次回、心待ちにしています!