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「セ、セーブができる上に……」
「オープニングムービーがスキップできるなんて……」
「も、もしかして……いや、まさか……」
「まさか、そんなはずは……まさか……」
「ハハ……みんなやめろよ、そんな高望みは……」
「いやでも、もしかすると、万に一つ……」
コメント欄がざわつき始める。
みんなの中で一つの「可能性」が頭をよぎったのだ。
まさかそんなはずがない。
そんな夢のような希望を抱いても裏切られるだけだ。
そう思い、各人が己の中でその淡い夢を否定しようとした。
だが、ここに至れば俺はもはや確信を持っていた。
「見ろ、これがそのまさかだ!」
ウォォオオォッ! 俺は絶叫しながら十字ボタンから手を離す!
ピタッ――!!
キャラが!
止まった!
見よ、この自キャラを!
三回転半していない!!
この奇跡にコメント欄は未曾有の盛り上がりに包まれた。
皆がそれぞれに叫び、声にならない歓声を上げた。
古賀さんに至っては感動のあまり涙を流しながら御仏への感謝を口にしている。
いや、うん、このパッチを作った人、キミが殺したんだけどな!
だが、これで道が開けた!
進行不能バグも修正されているはずだ。
そして、おそらく……あの問題の写真もきっと削除されているに違いない。
今となっては想像の域を出ないが、庵藤が暴露すると言い出した意図も、本当はここにあったのではないか?
庵藤は探偵社に調査依頼を出した。
結果を見た庵藤は明らかに「何か」があると考えた。
「呪い」の可能性も頭をよぎったのだろう。
もしかすると、庵藤自身も既に古賀瑛子からの電話を受けていたか?
机の引き出しに書きつけられていた赤文字は、それを必死にメモしたものかもしれない。
だから、アイツはこの修正パッチを作り、広めようとした。
古賀瑛子を傷付けるゲーム内容を削除するためだ。
と言っても、写真の件に言及する必要もない。
自分が元プログラマーだと明かして、この操作性劣悪かつバグだらけのゲームの修正パッチを公開したと言えば良いだけだ。
古賀瑛子の名誉を毀損することなく写真の件は秘密裏に処理できる。
加害者の毒島は既に死亡しているし、事を荒立てる理由はない。
庵藤が恐れたのはおそらく「呪い」の拡散だ。
仮に「呪い」が写真に由来するなら、今回の再発売でさらに「呪い」が拡大するかもしれない。
庵藤にとっては自分が犯した罪に向き合い、また、今後の被害を押し止めるためにも修正パッチの拡散は必須だった。
このパッチこそが古賀瑛子への「償い」なのだ。
暴露によって俺が受けるダメージと、古賀瑛子への「償い」、そして、『S/Witch』のプレイヤーが巻き込まれ、今後も拡散するかもしれない「呪い」……。
庵藤はその全てを天秤にかけ、苦渋の末に「暴露する」という選択肢を選んだのだ。
庵藤の説明が歯切れ悪かったのも当然だろう。
急に「呪い」の話なんてされても、あの時の俺が信じるわけがないからだ。
……でも庵藤!
相談してくれれば暴露以外にやり様は色々あったぞ!
お前もやっぱり正気じゃなかったんだな!
俺はゲームパッドを握りしめる。
「地獄の三回転半」から解き放たれた自キャラはスルスルとオフィス内を歩き、経理の女性キャラのバッグへと到達する。
まともにキャラが目的地まで動くだけで俺は感動して泣きそうだった。
「頼むぞ、庵藤……!」
バッグを調査して「開かずのテナントのカギ」を手に入れる。
以前はここで写真が現れていたが…………よし、出てこない!
ちゃんと修正されている!
その後の女性経理の謎の急死も……発生しない!
オーケー、予想通り!
これできっとクリアできる!
最低限、まともなゲームになっている!
ここで、これまでのゲーム展開を改めて確認しよう。
主人公は零細ソフトウェア開発会社に勤務する若い男性。
太った上司の男性と、経理部の若い女性と共に残業中だ。
深夜、帰宅しようとするがエレベーターが動かない。
非常階段から進むと何故か首吊りロープが迫ってきてゲームオーバーになる。
配電盤で電気系統を直そうとすると感電して死ぬ。
オフィスに戻ると経理の女性は「12階の”開かずのテナント”」のカギを渡してくるが、その直後になぜか女性は死んでゲームオーバーとなる。
これは主人公の不在期間に女性が一人で”開かずのテナント”へ向かい、そこで呪われた結果と思われる。
そこで、オフィスから出て、すぐ外で待機していると、推測通り、女性が”開かずのテナント”へと向かう姿を確認できる。
だが、彼女に同行すると”開かずのテナント”の中で「黒いゴミ袋に包まれた何か」に襲われてゲーム―バーとなる。
そして、最も不可解だったのが、女性が”開かずのテナント”へ行かないよう、予め女性のバッグからカギを盗んでおいても、なぜか女性が急死する件なのだが、これはどうやらバグだったようだ。
そのバグがパッチで修正されたので、ここからようやく本格的な攻略に乗り出せるわけだ。
俺たちに残された時間が後どれだけか分からないが、とにかく早急にクリアするしかない――!
俺はカギを盗んだ後、女性経理に話しかけた。
「上から赤ちゃんの泣き声が聞こえるんです」「もしかして、”開かずのテナント”に赤ちゃんが取り残されてるのかも」「でも、カギを見つけたのに、カバンの中から無くなってて……」
そんなことを言い始める。
いいぞ、ちゃんと話が進んでいる!
このゲームはきっとクリアできる!
だが、事態は一刻を争う。
残された時間は不明だが、早ければ出血から一時間後には”その時”が来てしまう。
だから、俺は画面に向かって叫んだ!
「ニラネギ! このゲームを一時間以内に攻略するぞ 、お前のオカルト知識を貸せ!」
「はっ、はい……!」
そして、コメント欄を見つめる。
あと一人、必ず協力を取り付けたい人がいた。
「ヘルアネゴ、あなたの力も必要だ! 何でもいい。気付いたことがあれば教えてくれ!」
以前の配信中、ヘルアネゴは俺の違和感を嗅ぎつけまくって俺を苦しめたが、ゲーム攻略上の貢献も大きかった。
彼女の鋭い視点は是非とも欲しい。
ヘルアネゴからは返信がない。
弟の死がやはりショックなのだろうか……。
だが、彼女の代わりに名乗りを上げた者がいた。
「医者として断言する。俺も力を貸そう」
お、おお……お前か、ドクターキリコ。
ゲーム攻略に医者の力が必要かは分からないが、とにかく頼むぞ。
「みんな!」
俺は声を張り上げ、視聴者全員に向かって呼びかけた。
「ここにいる全員で攻略する! レイドバトルだ! 俺たち全員が力を合わせればどんなクソゲーだって打ち倒せる!」
呼びかけに呼応してコメント欄が激しく盛り上がった。
皆が一丸となって目的へと突き進む、そんな熱いうねりのようなものを俺は全身で感じていた。
次に、俺は修正パッチをアップして「誰でも使っていい」と宣言した。
俺一人で攻略する必要はない。
すると、すぐに有名無名のゲーム配信者たちがこぞって『S/Witch』をプレイし始めた。
彼らも既に呪いの影響を受けているのだろう。
さらに、それぞれの配信者の進行状況をコメント欄で中継する者が現れた。
その情報を集約してwikiを編集する者も現れて攻略情報が次々とまとめられていく。
圧倒的な人海戦術が展開されている……!
「庵藤……お前が遺してくれたパッチのおかげだ……お前の意志を継ぎ……俺達が、この呪いにカタを付ける!」
そして、俺は古賀さんを見た。
彼女は姉である古賀瑛子のことを最も知る者だ。
きっと彼女の力も必要になる。
古賀さんも俺の目を見て力強く頷き返した。
これで役者は全て揃った!
「やってやるぜ、『S/Witch』RTAだ!」