街路樹の葉は赤や金に染まり、そよ風に揺れてはひらりと舞う。
石畳に積もった落ち葉は、午後の柔らかな陽光を透かし、歩くたびにかさりと微かな音を立てた。
古びた校舎の石壁には夏の余熱がまだ残り、初秋の涼やかな風と混ざり合って、もの寂しさと温もりを同時に運んでくる。
街灯はまだ灯らないが、柔らかな光が長い影を落とし、石畳にさざめく影絵を描いた。
日本は腕に抱えた本をぎゅっと抱きしめながら、足元の葉に気を取られた瞬間
乾いた葉がカサリと靴底に擦れた。
滑る足と共に前のめりになった体。
手にした本の重みが腕にずしりとのしかかり、冷たい秋風が頬をかすめた。
「……あっ」
その声に、藍色の瞳がふと動く。
「大丈夫か」
足を取られふらついた体を思わず抱きとめる彼。
息を詰めるほどの距離感の中で、互いの温もりが伝わってきた。
「気をつけろ。石畳は滑りやすい」
声は低く、しかしどこか柔らかく、日本の耳に心地よく響く。
見上げると、落ち葉を通して差し込む秋の陽が、彼の輪郭を金色に染めていた。
日本は少し顔を赤らめ、視線を落とす。
胸の奥がざわつき、理性が揺れる。
彼の手が自然に腕に添えられるその感触に、思わず小さく息を吐いた。
歩みを再開しようとした瞬間、 背後からそっと手が伸び、ぎこちなくも温かく体を支えられる。
日本の肩が彼の胸にわずかに触れ、肌の温かさに思わず息を止める。
距離の近さにぷるぷると震える日本を気に留めず、ドイツは手元の本に視線を移し、目を見開いた。
「……解剖学に薬学…もしかして、この大量の本、全て実習の資料として…」
日本は、頬を染めるほのかな紅とともに小さく頷いた。
「……どうして日本は…そこまで必死なんだ」
低く、しかし不器用に、胸を打つ声。
瞳は静かに、確かに日本の心を見透かしていた。
日本は息を飲み、言葉を飲み込む。
落ち葉が舞い、二人の足元に柔らかく積もった。
「……国のために、です」
かすかな震えを含む小さな声。
背伸びをしても、この想いは隠せない。
ドイツは一歩だけ距離を詰め、顔を近づける。秋の風が二人の間を揺らし、落ち葉を巻き上げた。
「…目標に向かって努力をするのは、良いことだ」
「日本が選んだ道を否定するつもりはない……だが、無理はするな」
声の端に微かな切なさが混じる。
日本はその温もりが心にそっと触れているようで、視界に光が滲む。
こぼれそうになる涙。必死に瞳を伏せた。
二人の間に、静かな呼吸だけが残る。
落ち葉がひらひらと舞い、石畳を覆う金色の絨毯が、時間の流れを柔らかく包み込む。
日が沈みかけ、秋の光はますます温かく、二人の頬を優しく染めた。
その瞬間、ドイツの手が、日本の指先にそっと触れた。
そのまま、ぎこちなくもゆっくりと重なる手と手。
それが自身のものだと分からなくなるほど、熱く火照ってゆく。
「!?」
「ど、ドイツさんッ!?どうし――」
「少しだけ……少しだけだ……」
日本の手がぎゅっと強く握られる。
木漏れ日にきらめく波紋のように、切なさを宿して瞳が揺れていた。
手のぬくもりが指先からじんわりと伝わり、互いの鼓動が重なっていく。
言葉はなくても、全てが伝わってしまう。
息遣い、指の力、温もり——目に見えないけれど確かな愛情が、静かに行き交った。
日本は小さく息をつき、心臓の早鐘を必死に落ち着けながらも、握られた手をそっと握り返す。
その一瞬の触れ合いが、世界のすべてを閉じ込めたように、二人だけの時間を染め上げていた。
夕陽が建物の屋根に反射し、長い影が交わる。落ち葉は再び舞い、二人の間に漂う気配をやさしく覆った。
息を整え、目を合わせる。
——切なさと愛情が静かに染み渡る、そんな秋の午後だった。
コメント
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わぁぁぁ!! めっちゃ可愛い✨️ドイツがグイグイ行くのめっちゃいい!クロネコちゃんが書く小説本当大好き😍