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午前八時
商店街の通りは静まり返っていた。
普段なら子どもたちの声や車の音でにぎやかなはずなのに
人々は互いを避け、早足で通り過ぎていく。
悠人は、友達の莉奈と歩きながら、ぎこちない笑顔を交わした。
「 …なんか、変だね 」
「 う、うん。なんやろこの感じ… 」
莉奈は小さく笑ったが、すぐに表情を曇らせた。
昨夜
町の掲示板に貼られていた赤い文字の張り紙
「 体調不良者は直ちに隔離せよ 」
――のことを思い出していたのだ。
スマホには断片的なニュース速報が流れ、感染者が町外にも広がりつつあることを伝えていた。
昼前、莉奈の顔色が急に悪くなった。
「 おい、大丈夫か? 」
額に汗を光らせ、足元にふらつく。
「 うぅ、熱い…頭が… 」
悠人が手を伸ばすと、
莉奈は突然、力なく笑い、しかしその目は鋭く光った。
怒りでも恐怖でもない、
何か人間離れした冷たさ。
「 離れて…! 」
莉奈の声に悠人は後ずさる。
通りを歩く人々も様子がおかしかった。
友人を突き飛ばす者、
泣き叫びながら逃げる者――町全体が混乱の渦に巻き込まれていた。
ニュース速報がスマホに飛び込む。
「全国で感染拡大中。封鎖措置開始。公共交通機関は運休。」
悠人は悟った。
町はもう安全ではない。
誰も信用できない――
莉奈の笑顔すら、裏切りの仮面だっのだ。
莉奈はふらりと歩き出した。
悠人は追いかけようとしたが、
体が固まった。
莉奈の視線が、他の人々を睨むように通りすぎるたび、 人々は逃げ惑い、叫び、そして倒れていく。
悠人の耳に響いたのは、
助けを求める声ではなく、
恐怖に染まった絶叫ばかりだった。
「 …莉奈! 」
呼びかけても反応はない。
悠人が近づくと、莉奈は突然、自分の手を悠人に差し出した。
だが、その指先は氷のように冷たく、鼓動すら感じられない。
彼女の唇から漏れた声は、かすれた囁き――
「もう…誰も信じないで…あなたも…」
悠人は手を伸ばせなかった。
莉奈はそのまま通りの向こうに消え、人々の群れに飲まれていった。
逃げる者、倒れる者、感染の波に呑まれる者
――町は瞬く間に恐怖に支配されていった
その夜、悠人の部屋のドアを閉めた瞬間、スマホが震えた。
画面には莉奈のアカウント名が表示され、短いメッセージが届いていた。
「もう、安全な場所はない。あなたも…すぐにわかる。」
悠人は画面を握りしめ、息を詰めた。
外の街灯の光も、風の音も、すべてが異常なまでに静かで、確実に彼を追い詰めているようだった。
そして悠人は気づいた――
生き残るために、誰も信じてはいけない。
信じた瞬間、裏切りが待っているのだと。