メイン6人 ノンリアル設定(チームメイト)
サイド桃
懐かしい。
少し蒸し暑い体育館。
ボールがバウンドする音。
チームメイトの掛け声。
そして俺が聞き慣れていた、キュッキュッという音もする。
でも足音ではない。タイヤの音だ。
「こちらでどうぞ」
玄関から案内してくれた係の人が言う。まだそんなに慣れない車いすを漕ぎ、壁際に止めて選手たちの動きを見つめた。
俺のちょっとぎこちない手つきとは違う、素早いハンドリムの操作。
華麗なターン。
ゴールの高さはふつうのバスケと一緒なのに、何なく上半身を伸ばしてシュートしている。
かっこいい。
心の底からそう思った。
車いすが俺の移動手段となったのは、1年前くらいだろうか。
バスケットボールチームの練習から車で帰るとき、事故に巻き込まれ、脊髄を損傷した。下半身麻痺で、もう歩くことはできないと医師に言われた。
今でも鮮明に覚えている。あの事故の凄惨な光景を。それをトラウマというのだろう。
そして、リハビリを担当する理学療法士さんに勧められたのが、車いすバスケだ。もともとバスケをやっていたから、飲み込みも早いでしょう、と。
でもそんなスポーツをする余裕なんてなかった。リハビリで精いっぱいだったし、もうやりたくなくなっていた。
だけど、その理学療法士さんは言った。
「好きなことをすれば、楽しくなるんです。やりたいかやりたくないかじゃなくて、好きか嫌いかです」
バスケは好きですか、と問われ、はい、と答えた。好きだった、かもしれない。
でも、車いすでもできるんならやってみたい、という思いも芽生え始めていた。
このチームは社会人チームで、みんなはそれぞれ仕事もしている。
「SixTONES」という名前なのも、最初聞いた。大文字だけを読んでストーンズ、というらしい。
あまりスポーツチームらしくないが、響きが素敵だ。
すると、プレー中に2人の選手がぶつかり、車いすが当たってガンという音が響いた。俺は思わず首をすくめる。
「…すごい音しましたね。大丈夫なんですか」
隣のスタッフに訊く。
「ええ、丈夫に作られていますから。スポーツ用の車いすにはブレーキがついてないので、すぐに止まることができないんです。だからああいう接触もよくあります」
それはちょっと怖いな、と思った。でもその思いよりも、コートの中で舞い踊る選手たちに目が釘付けだった。
すると、一人の長身の選手が遠くから見事なスリーポイントシュートを決めた。拍手喝采したいくらい綺麗な入り方だった。
それを機に、チームの選手たちはプレーを止めてこちらに戻ってくる。その中の一人が近づいてくる。
「こんにちは。話は聞いてるよ。大我くんだよね?」
親密な口調で話しかけてくる。細身で顔立ちの整った人だ。
「はい。初めまして、京本大我です」
「ふふ、そんな硬くなくていいよ。俺は、田中樹。一応このチームのキャプテンしてる。よろしくな」
「よろしくお願いします」
人の好さそうな笑みを向けられる。プレーもかっこいいけど、ルックスもいいな、なんて思った。さらに、よく見ると耳に金色のピアスがついている。
「じゃあみんなも紹介するよ」
おーい、とチームメイトに呼びかける。「こいつは森本慎太郎。チーム最年少」
「よろしく! 慎太郎って呼んで!」
元気な声で挨拶される。車いすは降りたのか、片足が義足だった。
「俺は松村北斗。よろしく」
静かで低めの声の、黒髪の人が言う。寡黙そうな印象だ。
「俺、ジェシー。大我くん、よろしくね」
ユニフォームからのぞく腕は白く、あまりスポーツマンらしくない。名前的に、ハーフだろうか。
「高地優吾っていいます。よろしく!」
優しい笑みが印象的な、やや金色っぽい髪の人。彼は、両足がない。
みんな名前しか言わず、障がいのことは口にしなかった。自分も言っていないが、それでいいんだろう、と解釈した。
「じゃあ早速だけど、参加しようか」
樹くんが言う。
ほい、と慎太郎くんからボールをパスされる。慌ててキャッチした俺に、「反射神経いいじゃん。やってた?」
「うん。中学校からずっと」
「そっか。じゃあきっとできるね。即戦力だ」
車いす用のルールはあとで説明するからとりあえずやろう、と促され、バスケ用の車いすに乗る。タイヤが傾いてハの字になっている。
「ちょっとそこ走ってみて」
優吾くんに言われ、ハンドリムを押して滑り出す。気持ちいいくらいになめらかだ。試しにターンもしてみた。思ったより軽々と回る。
「上手いよ! すごい」
笑顔でジェシーくんに褒められると、嬉しくてこっちも笑顔になる。
何度かみんなとパスをしたりシュートの練習をしているうちに、段々要領をつかんできた。
もちろん、車いすを操作しながらだからすごく難しい。でもボールを放る動きはふつうのバスケと一緒だから、何となくできた。
「よしじゃあみんな、今日はここまでにしようか」
リーダーの樹くんが声を掛けると、みんな控室に戻る。俺も置いていた自分の車いすに乗り換える。
「お疲れ。大我、すごい上手かった」
今まであまり話さなかった北斗くんが、近寄ってきて言う。大我、と呼ばれ、少し驚く。
「ありがとう」
こんなみんながフラットに話せるチーム、すごい。
俺は今日見学してみて思った。
やっぱり、自分はバスケがしたいんだ。
そしてこれからは、このチームでやっていきたい。
そう心に決めた。
続く
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