テラーノベル
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あの夜から、世界は少しだけ変わった。
異界と人の世を隔てていた”境”は、完全に閉ざされることなく、けれど誰にでも開かれることもなく、ふたりの契りによって、”必要なものだけが渡れる橋”となった。その橋は、屋敷の裏手にある古い鳥居の奥に、静かに佇んでいる。
「おはよう⋯⋯朧さん」
「おはようございます、澪さん。今日もよく眠れましたか?」
「うん。夢の中でも、朧さんが隣りにいました」
ふたりは並んで朝食を取り、庭の花に水をやり、時々異界からの客人を迎える。
澪は学校にも通い続けていた。放課後は屋敷に戻り、朧と過ごす時間を大切にしていた。
「今日は、佐伯さんが“遊びに行きたい”って言ってたよ」
「⋯⋯異界に、ですか?」
「うん。“澪の彼氏に会わせろ”って。”彼氏”じゃなくて、”夫”ですけど⋯⋯」
朧はふっと笑う。
「確かにそうですね。ですが⋯⋯緊張しますね」
「ふふっ⋯⋯大丈夫。私がついてますから」
ある日、屋敷に懐かしい顔が集まった。佐伯、クラスメイト、先生⋯⋯そしてかつて澪を助けてくれた妖たち。みんなが、ふたりの新しい門出を祝ってくれた。
「澪ちゃん、なんか⋯⋯すごく綺麗になったね⋯⋯恋人でもできたの⋯⋯?」
「えっ!?そ、そうかな⋯⋯?」
「うん。なんかこう⋯⋯”決めた人の顔”って感じ?」
澪は照れながら笑った。
「うん。私、決めたから」
その夜。ふたりは、鳥居の前に立っていた。
「この先に、私達の新しい暮らしがあります」
「うん。でも、ここが私の”帰る場所”でもあるから」
「⋯⋯ええ。どこにいても、あなたの帰る場所でありたい」
澪は朧の手を取り、そっと微笑んだ。
「じゃあ、行こう。ふたりで、未来へ──」
ふたりは手をつなぎ、霧の中へと歩きだした。
──その背中は、春の夜風に包まれながら、静かに、確かに、新しい世界へと向かっていた。
──完──
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最終回だ~