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周囲のブリリオンが激しく震え始めた。
それを合図に、白い茨がうねりながら巨大な生物兵器セラフィムへと伸びていく。
「リク、あの茨……セラフィムを──!」
リクは意識を集中させ、共鳴因子の力を高めた。
「ここで……止める!」
伸びた茨はセラフィムの全身をぐるりと巻き付け、強烈に締め付け始める。
セラフィムは激しくもがき声を上げるが、その動きは次第に鈍くなり、力尽きていく。
「よし……これで……!」
ロビンとアイビーも、動けるようになった体を支え合いながら息をつく。
リクは汗を拭い、震える手を握りしめた。
「仲間を守るために……もっと強くならなきゃな……」
虚構庭園の静寂の中、彼らの絆が一層深まったのだった。
茨がセラフィムの動きを縛り上げ、巨体はもがきながらも完全に停止はしなかった。
「まだ倒せてない……!」
リクは息を切らしながら、動けないアイビーとロビンを見つめた。
「急ぐしかない……!」
彼は周囲のツタ植物たちと共鳴し、絡みつく蔓でアイビーとロビンをしっかりと抱え上げる。
「行くぞ……!」
リクは必死に走り出した。逃げなければ、三人とも命が危ない。
リクは必死に走り続けた。背後から響くセラフィムの唸り声も、茨のうごめきも遠ざかっていく。
だが、やがて周囲の動植物のざわめきは急速に薄れ、目の前には広々とした開けた場所が広がっていた。
「ここ……どこだ?」
リクは息を切らしながら立ち止まり、周囲を見渡す。
リクがふと目を凝らすと、遠くに大きな門が見えた。
門は古びているが、威厳のある造りで、この荒れ果てた砂漠の中に突然現れた異質な存在感を放っていた。
「門……か。ここが休憩スポットってことか?」
門の向こう側からかすかに人の気配が感じられる。
リクは不安と希望が入り混じった気持ちで、ゆっくりと門へと近づいていった。
リクは共鳴因子の力を使いながらも、その副作用で体に吐き気がこみ上げてきた。
それでもロビンとアイビーを助けるため、必死に解毒の手順を進める。
「はぁ…はぁ…もうちょっと…がんばれ…」
彼の手から微かな光が伸び、茨の毒が体内から少しずつ薄れていくのがわかる。
しかし、吐き気は強まり、リクは顔をゆがめながらも止まらずに続けた。
「リク、大丈夫?無理しないで」
ロビンの弱々しい声が聞こえるが、リクは首を振り、力を振り絞る。
「絶対に……助けるから……!」
やがて、毒が完全に消えた。ロビンの顔からは苦悶の表情が消え、アイビーの呼吸も落ち着いていく。
リクはその様子を見届けて、ようやく安心したように息を吐いた。
「よかった……ちゃんと……助かった……」
その言葉を最後に、リクの体はふらりと揺れ、力が抜けたようにその場に崩れ落ちる。
乾いた地面に背を預け、彼はそのまま目を閉じた。
共鳴因子の副作用と、極度の疲労。すべてが重なった末の、自然な眠りだった。
「……リク?」
ようやく目を開いたロビンが、不安げにリクに手を伸ばす。
けれど、その表情は少しずつ安堵に変わっていった。
「……寝てるだけ、か……ありがと……」
静かな休息の時間が、三人の上にようやく訪れた。
リクが目を覚ました頃には、空は夕焼け色に染まり始めていた。
まだ体は重く、ふらつきながらも起き上がると、ロビンとアイビーの姿が門のそばで見えた。
「……おはよう、リク。少し休めた?」
ロビンが声をかける。
アイビーはしゃがみ込みながら、手に持った小さな葉をじっと見つめていた。
「少し……だけ。ロビン、体は?」
「うん。動けるようになった。アイビーも、もう大丈夫そう」
「うん!なんかちょっとフラフラするけど、でもお腹すいた……」
三人は、ようやく訪れたこの静かな休息地で、簡単な食事をとることにした。
近くの地面からは、背の低い野草や、地に這うように生えた紫がかった山菜が見つかった。ロビンが手際よく毒の有無を調べ、いくつかを選んで採取する。
果実も、木の根元にいくつか落ちていた。見た目は桃のようだが、鮮やかすぎる色がやや怪しかったため、火で炙ってから食べることにした。
「これ……ちゃんと焼いたら甘いかも。ほら、リクも」
「……ありがとう、アイビー」
リクが受け取った実をかじると、ほんのり酸味のある果汁が口に広がった。
「……意外とうまいな」
「ふふん。アイビーが見つけたんだよ。すごいでしょ!」
ロビンは焚き火の近くで、野草を煮込んでいた。
小さな鍋に、山菜をちぎって放り込み、ほんのわずかに持っていた塩で味を整える。
見た目は少し地味だが、温かいスープは、三人の体にじんわりと染み渡った。
「やっと、ちゃんとごはんが食べられる……」
「ふたりとも……ほんとに、無事でよかった」
誰かがぼそっとそう言って、誰かが「ね」と笑った。
虚構庭園の入り口、開けた休息地には、夕暮れと、かすかな安堵の気配だけがあった。
焚き火の明かりが消えた頃、夜の静寂があたりを包んでいた。
三人はそれぞれに体力を回復し、そしてリクは、あの門の前に立った。
門は朽ちた石と金属でできていて、誰かが意図してここに置いたとは思えないほど、自然に溶け込んでいた。
扉には植物の蔓が絡みつき、表面には見たことのない文字が彫られていた。
「……行こうか」
リクの声に、アイビーとロビンが頷く。
静かに門を押すと、重たい軋む音を立てながら、ゆっくりと開いていった。
その先に広がっていたのは――