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リリアンナが差し出されるままに受け取ってしまった花かごの縁を、きゅっと握りしめたのが分かった。
それだけで、リリアンナの動揺が伝わってきて、ダフネは内心の高鳴りを悟られないよう必死に高笑いしそうになるのを堪えずにはいられない。
悦に浸っているダフネの服を、ちょん、と引く者がいる。ダフネはそちらを振り返った。
所在投げにダフネを見つめる花屋の少年と目が合う。
「ありがとう。もう大丈夫よ」
微笑みを崩さぬまま、小さな袋をひとつ、彼の手に落とす。
少年が慌ててそれを受け取るのを確認してから、続けた。
「今日は人が多いでしょう? ほかのお屋敷も、きっと花を欲しがっているわ」
それは労いの言葉にも聞こえるし、同時に、ここから消えろという合図でもあった。
少年は一瞬、戸惑ったようにリリアンナとダフネを見比べ、やがて深く頭を下げた。
「……ありがとうございました!」
そう言って駆け出していく背中を、ダフネは二度と振り返らなかった。
リリアンナはすぐには言葉を返せないみたいに視線を彷徨わせて、唇をかすかに開いて、また閉じた。
その様子を見て、ダフネは確信する。
(――やっぱり)
戸惑っている。
迷っている。
自分の立場を、測りかねている。
(思った通り。あの男、リリアンナには私のこと、話していなかったのね!)
口では自分を養女にするだのなんだの言いながら、その実、ダフネのことを本当の意味では身内だなんて認めていないのだと……彼が大切にしているリリアンナにこんな大事なことを伏せていたことからうかがい知ることができた。
ダフネはそんなランディリックのことを忌々しく思いながらも、すべてを呑み込んでリリアンナににっこり笑う。
「お姉さま、どうして何もいってくださらないの? やっぱり……あんな形でお別れになったから……私の顔を見るのは……おイヤ?」
そんなこと、聞かなくても分かっている。
リリアンナが自分のことを憎んでいることも、快く思っていないことも……全部全部お見通しだ。
(だって私、お姉さまをいじめるの、大好きだったもの!)
そうしてその思いは、今、幸せそうにしている彼女を見てより一層強くなった。
(お姉さまだけが幸せになるなんて許さないんだから!)
ついでに……言わなくてはいけないことがある。
「そういえば今、ペイン邸にはノアール侯爵家のご子息がいらしてるんだけど……お姉さまはご存知?」
「え……?」
「セレン様。とても綺麗な方で、着やせしてらして分かりづらいけど……脱ぐととっても男らしいの」
そこまで言って、ハッとしたように口を押えて見せる。
「あっ。私ったらはしたない。ごめんなさい。お姉さまの前だとつい気が緩んでしまうの。――お願い。今の、聞かなかったことになさってね?」
いくら鈍いリリアンナでも、このぐらい言えば、ダフネとセレンとの間に〝深い関係〟があったと分かるだろう。
ぎゅっと花かごを握りしめたまま立ち尽くすリリアンナを見て、これだけで十分だとダフネは確信して、ほくそ笑んだ。