「では、人選は丸木さんに任せる。複数名ピックアップして、履歴書を見た上で実際に面接して決めたいと思う」
「承知いたしました」
尊さんの決定を聞いてエミリさんは会釈をし、私を見て微笑んで言った。
「上村さんは心配しないで。きっといい第二秘書を見つけてみせるから」
「ありがとうございます!」
微笑む彼女を見て、私は本当にエミリさんと出会えて良かったと思っていた。
最初は尊さんの結婚相手と言われていたけれど、本当は風磨さんとラブラブで、少し優柔不断なところのある彼を導くやり手秘書、兼彼女。
さっぱりしていて気取ったところがなく、姐御肌で接していて気持ちのいい人。
もしも個人的に関わる事がなかったら、私はいつまでも他の人と同じように彼女の事を〝美人秘書〟として見ていたかもしれない。
加えて今は、まさか知り合いになると思わなかった、雲の上の人たちの人間としての一面も知るようになった。
完璧な御曹司と思っている人も、完璧な令嬢に見える人も、色っぽい美人秘書と思っていた人も、いかめしそうな会長も、厳格そうな老婦人も、皆それぞれ人間らしい一面を持っている。
人と関われば関わるほど、「やっぱり直接顔を合わせて話してみないと分からないな」と感じる。
話した事すらない人が、どこから仕入れたか定かでない情報で「こういう人らしいよ」と無責任に話す事ほど、頼りにならない情報はない。
(私は、自分が信じたいと思った人を信じて、頼りにしていこう)
自分に言い聞かせた私は、エミリさんに「宜しくお願いいたします」と頭を下げた。
その後、なんとか通常業務に戻って、慣れないながらも秘書の仕事をこなしていった。
今はまだ、就任したてで引き継ぎ関係の仕事ばかりだけれど、そのうち国内、海外問わず出張にも行かなければならない。
商品開発部時代にも、部長と部下数名で遠方にある企業を訪れるために、出張する事はあったけれど、副社長と秘書となったあとは少し状況が異なる。
尊さんが先方とより良い商談を進められるように、私が相手の情報や、纏められた弊社の資料を確認しなければならないし、出張先のホテルや会食に利用するお店の予約なども、すべて一人でこなさなければならない。
勿論、やる気を漲らせて全力で取り組み、エミリさんに適宜質問しながらやっていくつもりだ。
けれど経験がものを言う場合もあるだろうし、やっぱり第二秘書は必要だと確信していった。
私と恵はそれぞれの職場で働き、お互い会社にいる時は連絡し合って社食で会った。
「それで調子はどうよ」
女子会を明日に控えた金曜日、恵は焼き魚定食の鯖を骨を取りながら尋ねる。
「うん、まぁ、仕事のほうはなんとか頑張ってる。エミリさんが第二秘書を見つけてくれるって言っていたし、私よりずっと仕事のできる人が現れたら、色んな事を沢山聞いて貪欲に学んでいきたい」
「うん、そのほうがいいと思う。頑張って」
「……で、恵は涼さんとどうなの?」
私はクルクルと大盛りパスタをフォークで巻き、口に入れる。
社食で皆に見られていようが、お腹が空いたので怖れずに大盛りを頼む事にしている。
「ぶほっ」
恵は質問された瞬間、お味噌汁に噎せ始めた。
「あーあ、もー。どんまい」
私は手を延ばしてトントンと彼女の腕を叩く。
恵はしばらくゲホゲホしていたけれど、赤い顔でチラッと周囲を窺ってから言った。
「……な、なんとか……、やってる……」
その反応を見て、私はニチャア……と笑った。
「具体的には?」
「ふ、フツーだよ! 朝起きて…………、ンン”ッ」
そこまで言って恵は咳払いをして真っ赤になり、私はさらにニチャニチャ笑う。
「一緒に寝てるんだー……?」
私は小さな声で言い、からかうように小首を傾げてみせる。
「だっ、だって! 自分の部屋で寝かせてくれたの、一日だけだよ!? 『一年の期限が勿体ないから、早く仲よくなるために一緒に寝たい』って言われたら……っ、ウウッ。……お陰で寝不足になるし……」
「寝不足……」
「違う!」
私がニチャア……と笑うと、恵は真っ赤になって突っ込んでくる。
「まだ何も言ってないよ? 『寝不足』しか言ってないよ?」
「シャラップ! パスタ食え!」
恵は赤面してキッと私を睨んだあと、焼き鯖を一切れお箸でとり、白米と一緒に食べる。
コメント
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( *´艸`)ウフフ.... お照れタイムの恵ちゃん、可愛い~💕💕🤭