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第5話、めっちゃ胸に来た……。真那が毒で喉焼けるような思いしてるのに、兄妹は自分の出世話で盛り上がってて、読んでてこっちまで息苦しくなったわ。「私の血は踏み台」って真那の台詞、めちゃくちゃ刺さった。あと蒼波様が宇美を嫁にって申し出てるのも、裏でありそうだよな……。真那、まだ折れてないのが救い。次が気になる🔥
お母様、お父様、せっかく与えて下さった命を粗末にしようとして、ごめんなさい。あの蒼波様みたいに強く生きてみたい。
私なんかでは足元にも及ばないけど、意思だけは示したいと思った。
「ゴホッ。もう、私はあなた達の言いなりになんか、ならないっ……絶対に、言うことなんか聞かないっ」
大きく咽せると、喉が焼き尽くされるようで、咳はやがて乾いたものに変わった。
「はいはい。最初はそうやって意地を張るのはお見通し。どうせ痛みに負けて、そのうち僕に縋り付くのは見え見えだ。素直になれよ」
そう言って凪は私の足元に屈みこみ、足首をきゅっと掴んだ。くらげの触腕のように絡みつく感触に肌が粟立ち、吐き気が悪化する。
「さ、わ、らないでっ……!」
辿々しい声しか出なかった。そこへ「凪お兄様!」と甲高い声がして、凪の手がパッと離れた。
凪は小さな舌打ちをしてから、その場に立ち上がった。
そしてちょうど襖がスッと開いた。
そこには凪の容姿とよく似た華やかな容姿で小柄な女性。凪の妹、|東堂《とうどう》|宇美《うみ》がいた。
鮮やかな薔薇柄の着物に、左右の三つ編みを耳元で巻き上げたラジオ巻きがよく似合う凪の妹、宇美は私と視線があうと──にんまりと笑った。
いつもは私を虫ケラを見るような眼差しで、視界にも入れたくないと言った態度なのに。
どうしてだろうと、新たな不安が胸に飛来して、また胸が苦しくなる。
「あらあら、お兄様。あんまり真那さんを虐めてはダメですよ。今回、大変お手柄だったんですから」
──またお手柄と言われた。
一体何のことだろう。私の疑問をよそに二人は会話を続ける。
「分かっているよ。でも真那はこれぐらい、なんともないさ。普通の人間なら致死量の激薬なのに、ほら、こうしてまだ気を保っているからね」
「まぁ、気持ちの悪いですこと」
私が激薬を飲まされたと知っても、宇美の表情はいつもと変わりなかった。
「で、妹よ。一体どうしたんだ」
凪からの言葉を受けて、宇美はいそいそと胸元から真っ白い封筒を取り出した。
それを大事に胸にきゅっと抱きしめた。それは恋文をもらったかのような仕草に見えた。
「吉報です。あの蒼波様から、《《蒼波様の命を助けた私》》を是非、嫁にしたいとの手紙での申し出がありましたの!」
──今、宇美はなんと言った。
『蒼波様の命を助けた私』それは、宇美が蒼波様を助けたと言う意味なのだろうか。
宇美の言葉の意味がサッパリ理解出来ず、じっと耳を傾ける。
「それは本当か?」
「えぇ、本当ですわ。まさか、こんなにも上手くいくなんて思わなかったわ……ふふっ。蒼波様は、手紙によると近日いらっしゃるそうです。お母様もお父様もびっくりしすぎて、美筆で有名な代書屋に返事を書いて貰うべきだって、さっき出て行かれましたわ」
二人は顔を見合わせ、ニヤリと笑う。
それは計画通りといわんばかりの、どこか悪意すら感じるものだった。
「軍医部長の僕。その妻は稀人の真那。宇美は名門武家として名高い、蒼波家に嫁ぐ。実に悪くない組み合わせだ」
「うふふ。真那さんは東堂家に仕えて、今までどおり。私はあの美貌の軍人としても名高い、蒼波様に嫁いで幸せになる。これで、ますます東堂家は揺るぎないものになりますわね」
家が出世することが、それほど嬉しいものなのか私にはわからない。
私に分かるのはこのままだと、東堂兄妹にとって私の血が、また誰かを釣り上げる餌にしか過ぎないこと。
冷たい汗が背中を流れていく。
凪はそんな私の気持ちなどお構いなしに、自慢気に言葉を重ねる。
「最近、蒼波家は身内で揉めていたようだが、蒼波千尋はその実力で当主に収まったらしい。義理の弟としても申し分ない。それに蒼波家といえば代々将星を輩出する武家の血筋。内政にも顔が利くと言われる家格だ」
素敵だとはしゃぐ宇美。
凪の得意げな声を右から左に聞き流しながら、私はその『揉めていた』の中身のほうが気になった。
それにあの森で血を流していた人が、そんな名家の方だったなんて驚きだ。
私が知っている蒼波様は、死に抗う強い瞳と白檀の香りだけだった。それなのに、いつの間にか蒼波家の背景まで朧気に知ってしまった。
そんな私の驚きをよそに、二人は地位だの名誉だの会話を続けていた。
そんな二人を見て、ありありと実感する。
東堂家にとっては私の血は、人を救う道具ではなく、家の地位を上げる踏み台でしかなかった。
喉の痛みよりも、その事実の方がよほど胸を抉った。こうして這いつくばっている私は、なんて惨めなんだろう。
しかし、そんな二人に聞きたいことがあった。
──先ほど宇美が言っていた蒼波様を助けたとは、一体どう言うことなのか。
それに蒼波様が宇美を、お嫁さんにしたいだなんて……。
そのことも気にはなりながらも、二人の会話から蒼波様が生きているとわかった。
それはとても喜ばしいことだけども、なにがあったのかと疑問は深まるばかり。
私を苛む苦痛を堪えて、残された気力をなんとか振り絞り、口を開いた。