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「い、今の話は一体どういうこと、ですかっ。それに『手柄』とは……」
声を絞り出して、なんとか上体だけでも身を起こす。すると宇美が笑い声をぴたりと止めて、しゃがみ込んで、私の視線と高さを合わせた。
宇美の澄んでいる黒海色の瞳に射抜かれ、口元だけ妙に吊り上がっている表情に、びくっとしてしまう。
「あぁ、そうですわね。教えて上げますわね。実は、真那さんがこの屋敷から逃げ出して、海の方面へと逃げたということで、私もあなたの捜索に駆り出されたんです。本当に迷惑極まりない。家の恥。東堂家の者達だけで探していたら……」
そこで、宇美はわざとらしく手をパンッと打った。
その音にびくりと体を震わせると、宇美がケラケラと笑う。
「木の根元に血まみれで倒れている真那さんを見つけて、私、びっくりしちゃった! しかもよくみたら、あなただけじゃなくて、立派な軍人の方も一緒で、なぜ二人が倒れているのか意味がわからなかったわ」
くすくすと宇美は楽しそうに語った。
でも倒れている理由よりも、地に伏せた男性は月明かりに照らされた美男子。
血に塗れてもなお、華があり目を引いた。
身に纏っている軍服には家紋入りの軍章があったから、蒼波家の方だと判明したと宇美は言う。
──そうだったんだ。
私は傷口ばかり気にして、そんな軍服の飾りなどに気付かなかった。見つけたところで、家名を特定するほど私は世間に明るくない。
額に汗を滲ませながら宇美の話の続きを聞くと、宇美は驚きながらも、蒼波様に近寄ったそうだ。
蒼波様は上半身や腕を止血されて、血塗れではあったがどこにも異常はなく。
呼吸は整い、意識が混濁している様子だったと語った。
そして私は花嫁衣装が乱れ、気を失っていた様子。
ピクリとも動かずにいたところを、東堂家の使いの人達に私を早々に回収させたと、小首を傾げながらニヤニヤと宇美は喋った。
「初めは二人が心中でもしているのかと思ったけど、なぁーんか、そんな雰囲気でも無かった。多分蒼波様が倒れていて、真那さんが手当てしたのかなって思ったの。いつもあなたが身に付けている髪紐が、蒼波様の腕にあったしね。ふふっ」
宇美は笑ったまま。
喉の痛さを我慢しながら「それで?」と、続きを尋ねる。
「それでね、あなたがこの屋敷へと連れ戻されたあと私、倒れた蒼波様を覗き込んで……そうしたら、蒼波様が言ったの『君が俺を助けてくれたのか?』って」
「まさか……」
口の中に苦渋が広がる。
まるで血の味のようだ。
「そう! だから私、手を握って『私が貴方様を助けました』って言っちゃった」
「!」
「その後は蒼波家の家人の方々が来て、すぐに蒼波様を連れて行かれたわ。このことは口外しないようにと言われて、何か事情がある様子だったけども家人の方々にも『私が助けました』って言っといてあげたかから。あははっ!」
宇美は胸元にあった手紙を、ひらひらと見せ付けてくる。
どくんどくんと、心臓が脈打つ。
蒼波様が生きていてくれた。それだけで本当は泣きたいくらい嬉しかった。
なのに、こんなにも惨めな気持ちが拭い去れない。
本当のことを叫びたい。
助けたのは私だ。
蒼波様や皆に褒められたいとかではない。
私は私の意思で、初めて人の役に立った気がした。
それを、宇美に踏み躙られた気がしたのだ。
けれども、今ここで訴えても何もならないだろう。
今は少しでも私が気を失ったあと、何があったか把握することに努めようとおもった。
そうして、言いたいことを飲み込み。
ぐっと強く歯を食いしばり、これでやっと『手柄』の意味を理解した。
蒼波様が命を助けられたことに恩を感じて、《《蒼波様を助けた宇美》》に求婚したのだろう。
それが『手柄』と言う意味。
そんな嘘で蒼波様を騙して、どうするんだと思う。眉を顰めると、近くに来ていた凪が宇美の横で私を見て低い声で笑った。
「君は逃げ出しても、倒れている人を放って置けなかった。多分だろうけど、真那の血液……人魚の血を蒼波殿に与えて気を失った。そんなところだろう?」
その通りで凪の視線に耐えきれず、目線を逸らしてしまった。
「全く、一歩間違えば蒼波殿は死ぬ可能性があった。でも生きたと言うことは、ふむ。実に興味深い事例だね」
事例だなんてっ、と言葉にしたかったがまた咽せてしまった。すると宇美の含み笑いが鼓膜を揺らした。
「あはっ。真那さん。青い顔がまた青くなっていますわよ? ほんと、年がら年中部屋に篭っていて辛気臭い女が、さらに辛気臭くてよ。そんな女に助けられたなんて、蒼波様も恥ずかしいでしょう? だから私があなたの代わりになって上げたんだから、喜びなさいな」
「こほっ。はぁはぁ……よ、喜ぶだなんて……っ」
流石にそんなことを言われて喜ぶことはできない。
あまりの言葉に宇美を見つめるが、宇美は私への嘲りをやめなかった。
私が蒼波様に求婚されたかったとかではなくて、嘘に加担している状況が辛かった。
「お願い。そんな嘘、やめてっ」
「なによ生意気ね。まさかあなた如きが蒼波様と結婚したいとか、思い上がっているのかしら? そもそも、あなたは凪お兄様の所有物なんだから、身の程を思い知りなさい」
宇美は最後にツンと顔を背けて、ぱっと立ち上がって凪を見た。
「さて、そんな訳ですからお兄様。この真那さんをもう、絶対に外に出しては行けませんよ」
「あぁ、それはわかっている。とりあえずは劇薬で躾けて、それでも言うことを聞かなかったら──」
凪はちらっと私の足首を見つめて、にっこりと微笑んで「足の腱を切ろうと思う」と言った。
「……あしのけんをきる?」
凪が言っている言葉の意味がわからず、そのまま|鸚鵡《オウム》のように聞き返してしまった。
コメント
1件
……え、ちょっと待ってやばいやばいやばい😭💦 宇美、まさかの手柄横取りかよ~~!!しかも「私が助けました」って言っちゃったって……ヒロインの真那ちゃん、心の中で叫びたい気持ちめっちゃわかる……!! でも蒼波様が生きてたのは本当によかった……そこだけは一安心。 けど凪様の「足の腱を切る」発言で全部ぶち壊しやんけ……!(((震 次の展開が気になりすぎる、続きが待てんよ~~!!🆘🔥