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「クラスの大半が進んでやっていたわけではないと分かってる。止めるのが難しかったことも。だから、いじめを率先していた者には後で個別に話をするから、もう止めよう。別にクラス全員仲良くしろって言うつもりはないし、友達を選ぶのは自由だ。ただ、明らかに目を逸らしたり、無視したり、クラスでいない存在として扱うのは止めろと言っている。そうゆう空気が、いじめを助長させるから……」
先生は教育に対して熱血系ではないし、生徒に特別関わってくるタイプではない。
だけど今日は違っていて、話す力は強く、言葉を一つ一つ丁寧に繋いでいって、そして泣いていた。
「悪い。じゃあ順番に話を聞く。まずは……、田口、いいか?」
「……はい」
一番に呼ばれたのは、泣いていた田口さんという女子で、友達の笠原さんと目を合わせて互いに頷き、先生に付いていった。
今日は丁度と言って良いのか分からないけど一限目はロングホームルームで、本来なら係決めについて話し合う予定だったのを変更となった。
「ねぇ、ふみぃ~? マジになっちゃった? 別に私ら、イジメとかのつもりなかったし」
「そうそう、軽いノリってあるじゃん?」
「ただのイジリってやつだよ。愛のあるイ・ジ・リ!」
イジリ?
散々ムシしてきて、目の前で悪口言って、わざと頭を小突いて、カバンの中身ぐちゃぐちゃにして。それが愛のあるイジリ?
言いたいことも、聞きたいことも、いっぱいある。
だけどそれを言葉にしようとしたら涙まで出てきそうで、クラスで泣いたりなんかしたら……、自分がイジメられている存在だとクラス中で認めないといけなくて、それがどうしてもイヤで、だからこの重苦しい状況をなんとかしようと、なんとか声を振り絞った。
「私は何も、言ってないよ」って。
「ウソっ! そうやって直接言ってこないで告げ口とか、どうゆう神経してんの?」
「私ら貶めて楽しい?」
「文って、ホント空気読めないよねぇ? 軽いイジリをイジメだってマジになって被害者ぶって、みんなにメイワクかけて、クラスのテンション、ダダ下がりじゃん! 早く謝んなよっ! 勘違いでしたってセンセに言ってきてよ!」
莉乃の「クラスのみんな」の言葉に周囲を見渡すと、みんな鋭い視線を向けていて、時折溜息が聞こえてくる。
明らかにウンザリとした表情を浮かべていて、「なんで、私らまで巻き込まれないといけないの?」と目に言われているような気がした。
「ほらぁ、みんなにメイワクかけてるって気付いた? アンタさ、ホント目障りだったんだよねぇ? ノリ悪くて、空気読めなくて、バカみたいにいつもヘラヘラ笑って、頭カラッポなら黙っててくんない? 私らまでバカだって思われるじゃん!」
「ねえ、そうゆうのやめようって……」
私の隣席だった笠原さんは消えそうな声で、そっと止めてくれた。
笠原さんや田口さんは、いわゆる三軍女子と呼ばれるグループで、普段から教室の隅でコソッとしていて絶対公に発言とかしないのに、何の関わりもない私を守ってくれた。
「はぁ? アンタに関係ないんですけどぉ? それよりさぁ、」
「された側がイヤだと思ったら、イジメだよ」
スッと立ち上がった麗華は、怯えている私を守るように間に入ってくれた。
「……えっ、待って。もしかして、チクったのアンタ?」
さっきまでの態度はすっかり変わって、また麗華に対して「アンタ」呼びに戻っていた。
「うん。ごめん、ダマすようなことして。仲良くするフリとか最低だと分かってたけど、これしかないって思って。昨日の会話、録音して朝、先生に聞いてもらったの。先生、泣いてたよ? 気付かなくて、本当に申し訳ないって」
「はぁ! マジで言ってんの! 最っ低ぇ! アンタ、人間のクズじゃん!」
途端に麗華は私の方に倒れてきてバランスを崩しそうになったけど、なんとかグッと足先に力を入れ、自分より細いけど背が高い体を支える。
守ってもらってばっかなんて、イヤだったから。
莉乃は周りの視線なんか気にしないのか、教室で本性を出してきた。
「……ありがとう」
耳元で聞こえた声は震えていて、麗華だって怖いのだと伝わってくる。
「……私だって。そりゃ私だって、ここまでしたくなかった! だけどさ、笑って言ってたじゃない! 斉藤さんの写真をヤバそうなサイトに出して、電話番号も載せたら面白そうだって! しかも、制服姿だよ? 学校、バレるじゃない! さすがに危ないよって止めたけど、大丈夫、私たちだってバレないって笑って……。私が言ってたのは、斉藤さんが危ない目に遭うかもしれないからやめてって意味だったの! そんなことも想像出来ないのかと怖くなったから、先生に止めてほしいと頼んだの!」
麗華、私の身を心配してくれたからこそ、先生に言ってくれたんだ。
自分の立場とか、かえりみずに。
莉乃のフンッて態度から分かる。麗華の言葉は届いていない。これだけ向き合っても分かってくれない人っているんだ。
それにもう一つ、知っちゃったな。
私って、ここまでどうでも良いって思われていたんだ。ここまで、嫌われる人間だったんだ……って。
「そもそもさ、イジリって何? そうやって言葉軽くしたら、許されることなの? された側がイヤだった思っても、やってる側が『愛のあるイジリ』だったって言えば、終わる話なの? マジになる方が悪いって何? そんなの、やってる側の言い分じゃない! この手のハナシでよく言われているけど、された側の感情が優先されることだからっ!」
された側の感情が優先?
その言葉が、苦しかった私の元にスッと落ちてくる。
私が大きく取りすぎてしまっているのかな?
冗談も分からないのは、私のノリが悪いからなのかと、この嫌がらせが始まってから思っていた。
だけど言っていいんだね、イヤだったって。これはイジリじゃなくて、イジメだって。
だから私は先生に、今までのことを話すことが出来た。
生徒とは一定の距離を取っていて、特定の生徒に肩入れしなくて、だけど何かあった時は対応してくれて、クラスで起きたことから目を逸らさなかった初めて信頼出来た大人。
先生に、今まで辛かったって。