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傷もすっかり癒え、セリオは朝から館の周囲を歩き回っていた。
館の周りには、塀と門ができ、さらに森の魔族たちが移住してきたことで、以前とは大きく様相を変えている。
少しは暮らしやすくなったか……
ふと、足元の土を見下ろす。
——問題は、これだ。
館の周囲の土地は痩せており、植物が根を張るには不向きだった。
このままでは、食糧を育てるどころの話ではない。
「……耕すしかないか」
セリオは納屋から古びた鍬を取り出した。
かつて館の持ち主だった魔族の貴族が使っていたものらしいが、どう見ても農具ではなく、装飾が施された戦斧のような見た目をしている。
「まあ、使えればいいか……」
試しに鍬を振るい、地面を掘り返してみる。
硬い。鍬の刃が弾かれるほど、土が固く締まっていた。
「ふんっ……!」
力を込めてもう一度振るう。今度はなんとか土を削ることに成功した。
これは時間がかかるな……
セリオは黙々と鍬を振り続けた。
※
しばらく作業していると、ふと背後から気配を感じた。
「お前……何をやっているの?」
振り返ると、そこにはリゼリアが立っていた。
「見ての通り、土地を耕している」
「土地を耕して……? お前、農業をするつもりなの?」
「ああ。ここで暮らすなら、食糧を自給するに越したことはない」
リゼリアは驚いたような表情を浮かべると、やがて呆れたようにため息をついた。
「真面目ね、お前は……」
「当然だ。魔界だからといって、何もせずに暮らせるわけじゃない」
リゼリアは少し考え込むようにしてから、セリオの手元の鍬をじっと見つめた。
「……その農具、少し貸してみなさい」
「ん? かまわないが」
セリオが鍬を渡すと、リゼリアは魔力を込めてそれを握った。
「ちょっと強化してあげるわ」
彼女が静かに呪文を唱えると、鍬が淡い青白い光を帯びる。
「これで、多少は作業が楽になるはずよ」
試しに地面を掘ってみると、驚くほどスムーズに土が削れる。
「助かる」
「ふふ、せいぜい頑張りなさいな」
リゼリアは満足げに微笑むと、その場を後にした。
セリオは再び鍬を握り、魔界の大地に向かって振るう。
新しい生活が、こうして少しずつ形になっていくのだった。