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「おはよう、ランちゃん。」
「…うん、おはよう。」
出勤すると、ナオヤが微笑みながら、
おはようと言ってくれる。
カウンターに入って、隣に並んで、
開店準備をし始める。
いつも通りの朝。
いつも通りの流れ。
そこに、カイリュウだけがいない。
「……、あははっ、静かやなぁ、?」
「、…そうやね、」
その存在感を思い起こすように、
ナオヤが小さく笑いながら、そう言った。
「…ランちゃん、昨日はありがとね。」
「ううん。約束間に合った、?」
「うん。……カイリュウと話せた、?」
「っ……、」
名前を聞いただけなのに、
胸がぎゅっと、切なくなる。
突然、もう店に出れないと言われて、
突然、もう会えないかもなんて。
初めて歌を聴かせてくれたのに、
それが最初で、最後だなんて。
全部、……本当は、言ってしまいたかった。
俺にとってカイリュウが、
どんな存在かを、全部。
でも、そんな事を言ってしまったら。
“お前が1号なら、心強いわ”
カイリュウが一番大事にしているものを、
否定してしまう気がして。
カイリュウの夢を応援することは、
カイリュウ自身を、
好きでいることと、同じだから。
その気持ちは、俺だけで、
俺の中だけで、持っているだけでいい。
「……も〜さぁ、正直びっくりしたやんなぁっ、?昨日ランちゃんが休憩行ってるときに、いきなりカイリュウに電話きてね?そっからもう、あっという間に1人で決めちゃっててさぁ。……まぁ、カイリュウの将来やし、相談することでもないねんけどね、、」
「っ、…そうやったんや、」
「うん…、電話切ったら急に、明日から来られへん言うから、ナオもう、えぇ〜!って…、寂しくて、行ったらあかん〜って引き止めそうなったわぁ。笑」
明るくそう言いながら、俺に笑いかける。
その言葉は、少しだけ、
俺もそうやろって、言っている気がして。
……行ったらあかん、か。
ナオヤが本当に言ってたら、
カイリュウどうしてたんやろ、なんて、
どうしようもない事を考えてしまう。
……てか、まじで、
突然すぎるやろ。
そんな感じで、いきなり決めたん?
……やっぱり、意志が固い人やな、
一貫してるっていうか。
本当に、大事なことほど、
一人で全部抱えていくんよな、
カイリュウって。
寂しいのに、
苦しいのに、
なんだか、
……らしいなぁ、なんて。
「…っ、……カイリュウやなぁ…、」
「え、?」
「あ…、ううん、、」
「……、らんちゃん……、」
複雑そうな顔で俺を見つめてくるナオヤに、気持ちを見透かされている気がして、何か言わんとと焦っているとナオヤが話を続ける。
「……なぁ、結局聞いてへんのやろ、?」
「…なにを、?」
「、…キスしちゃったって、言うてたやんか、」
「っ、……、」
テーブルを拭こうと布巾を取ったところで、ナオヤの言葉に手が止まる。
ずっと、考えないようにしていたそれに触れられて、動揺が隠せずに、言葉に詰まった。
「その意味、…ちゃんと、考えた方がええんとちゃうん、?」
「…っ、……多分、…ないよ、意味なんて。」
「え…?」
「……、呑んどったし、…なんか、雰囲気っていうか、…そういうのに、飲まれた感じ、ていうか。」
そう、言い聞かせないと、
気持ちが潰れてしまいそうだから。
これ以上考えたって、
答えなんて、もう。
「……はぁ〜…、なんか耳が痛いわぁ、」
「…え、?」
「…ランちゃん、ナオと同じこと言うてる。」
「、どういうこと、?」
俺の言葉に、なぜか小さく溜息をつくナオヤに思わず向き直る。
「……ナオも、…セイちゃんに、キスしちゃったって、ランちゃんに前話したことあったやろ、?」
「…っ…、うん、」
「ナオもね、…ほんまは、したくてしたのに、セイちゃんには言えへんくて。咄嗟に〜とか、雰囲気で〜、とか、言うてもうてん…、ナオが、…遊んでたから、手出してもうたんやって、あの時は、泣いてもうたけど…、ランちゃんが、言うてくれたんやんか、」
「……、え、、?」
「…、本気やから、キスしちゃうこともあるって。」
「っ、、」
俺の目を見て、訴えるようなその顔に、
自分の言葉を思い出す。
“……なんで、それが遊び人になんの?”
“っ、えっ…?”
“……本気だから、キスしちゃうこともあるだろ”
その言葉が、今になって、
自分自身に降り掛かってくる。
「ねぇ、ランちゃん。…お酒とかや、ないやんか。…ナオに話してくれたときやって、あんなに嬉しそうやったやん。…ほんまに、気持ちがあったから、したんやろ…、?」
「っ、……、」
「っ…、ランちゃん。……あの時、逃げないで向き合ってって、ナオに言ったの、誰やったっけ。」
ナオヤの言葉が、胸に突き刺さる。
“……ずっと、逃げるつもりなん、?…キス、しちゃったんなら、余計に向き合うしかないやろ?……俺は、カイリュウのためにも、そうしてほしい”
“っ、……ランちゃんって、…”
“なに、?”
“……っ、ううん。なんでもあらへんよ…っ、?”
人には、そうやって言ったくせにな。
それに、……あの時だって、俺はカイリュウに、
…キスを、しようとして。
思えば、…きっとすでにあの時、
俺は、カイリュウの事を。
「……っ、、俺、」
「…、ん…、?」
「っ、……、俺は、、」
言いかけた言葉を、店のドアが開く音が掻き消した。
「おはよ、」
「っ、…あ、セイちゃん…っ、おはよう、」
「…、おはようございます、」
入ってきたセイトさんに声を掛けると、俺達の雰囲気を感じ取ったのか、心配そうな顔を向けてくる。
「…え、どしたん2人とも…、あれ?カイリュウは?」
「え、?あ、あぁ…っ、うん…、カイリュウね、…上京する日、決まってん…、」
「……っ、え、?!いつ、?!」
「うん…、なるべく早く来てほしいって言われたみたいで、うちの営業終わる前には行くって…、せやから、準備のために、もう来れへんって…」
「っ、…まってや、じゃあもう会えへんの…?」
「…それも聞いてんけど、なんか濁されてん…、」
「は…っ、?え…っ、、てか俺聞いてへんし…っ、なんなん、寂しいやんけ…っ、、」
セイトさんの悲しそうな表情に、ナオヤも口を噤む。
2人のそんな姿に、改めてカイリュウがいなくなる現実を実感して、心が曇っていく。
「……ランは、?」
「え…っ、?」
「ランは、…なんて言われてん、」
セイトさんにいきなりそう聞かれて、2人の視線が俺に向けられる。
「……っ、…、歌、」
「え、?」
「……、最後に、聴かしたるって、…歌ってくれて。」
「……、え、、っ、」
そう伝えると、顔を見合わせて切ない表情をする2人。
「っ、ごめんナオ、なんか、泣きそう……っ、」
「…おん、、…俺も。」
「っ、……、なんで、2人がそうなんの……っ、」
やめてよ、やめて、
本当は、俺がいちばん、
悲しくて、泣きそうなんやから。
「だってぇ〜、、っ、もう、…っ、カイリュウ、、それってさぁっ、」
ナオヤが半分泣きそうな声でそう言った瞬間、セイトさんにグイッと腕を掴まれて、びく、っと身体が反応する。
「ラン。荷物運ぶん手伝って。」
「っ、…はい…、」
急なセイトさんの行動に少しだけビビりつつ、言われるがままに荷物を奥へと運んだ。
***
「…ラン、終わった?」
「はい、」
最後の荷物を運び終えると、そう声を掛けられる。
「……んじゃあ、ちょっとええ?」
「、え、?」
「こっち。」
そのまま勝手口に向かうセイトさんについていくと、店を出て、海岸へと歩いていった。
……
「……ここ、座ってや。」
「っ、はい…、」
階段に腰を下ろして、トントンと自分の隣を叩くセイトさんに、言われるがまま座り込む。
まだ朝の早い時間、景色を遮る人はほとんどいなくて、目の前に光る海が広がっている。
波打ち際で、犬の散歩をしている人が目に入って、…ふと、”犬に似てる”なんて、カイリュウが笑っていた事を思い出す。
“…なんかあの犬、よう見たら、ランに似てへん?”
“似とうやんけ!!瓜二つやん”
“はぁ~、おもろ。ふはは…っ、…は~。…かわえーなぁ”
“ええやんけ、俺が可愛がったるから。な、?”
……そう言って楽しそうに、俺の頭を撫でて。
今にも、あのよく喋る声が、聞こえてきそうで。
あぁほんと、
カイリュウって、やかましい。
カイリュウがいないと、
世界が、静かで。
ほんと、やかましくて、
すぐ嬉しそうに俺をからかって、
そのくせ、俺が生意気言ったら、
うるさいねん、なんて、照れ始めて。
いつも、そうやって、
俺の隣に、いてくれて。
、あぁ、
会いたい、
カイリュウに、会いたい。
……カイリュウが、恋しい。
「ラン、…今、何考えとんの。」
「っ、…え…、」
「…言ってみ、正直に。」
「……っ、、」
「……誰の事、考えとんねん。」
畳み掛けるようなセイトさんの言葉に、ただただ動揺して、口が開けないままでいると、また言葉が降ってくる。
「ラン、……お前、好きなんやろ。カイリュウのこと。」
「っ、え…、」
「分かんねん、…俺が、そうやったから。」
続いたその言葉に、思わずセイトさんの顔を見ると、それに気付いたセイトさんと目が合った。
「っ、なんやねん、お前どうせ気付いとったんやろ?俺がカイリュウの事好きやったの。」
「…はい。」
「ぶっ。素直か。…まぁええわ、…で、まぁ、ぶっちゃけてまうねんけど、…俺、最初ランの事、ライバルや思っててん。」
「…、それも、なんとなく。…はい、そうなんかなって、思ってました、」
「おいなんやねんっ、なんか恥ずかしいやんけ…、んーまぁ、ほんでな…っ、…ほんまは、分かっててん。多分カイリュウは、俺に気持ちが向いてへんって。……ずっと、見とったから、分かんねん。俺に向けてなかった目を、…ランには向けとるって。」
「…っ…え……、」
「それにな、…お前のこと、ライバルや思ってたけど、…だんだん、なんか、…俺を見とるみたいで、…俺に、似てんなって、思うようになってん。」
ぽりぽりとなんだか恥ずかしそうに頭を掻きながら、話を続けるセイトさん。
「……俺がですか、?」
「…おん。俺も、ずっとカイリュウが好きやって思ってたのに、結局行動できへんくて、好きとも言えへんかった。」
「……っ、」
「……まぁ、お前のほんまの気持ちは知らへんし、俺も今となっちゃ、それで良かってんけど。…でもほんまに、ランを見とると、俺を見とるみたいで。…ほっとけへんねん。」
「、セイトさん…、」
初めて会ったときから、なんとなくセイトさんとは距離があって、それはきっと、セイトさんが、カイリュウの事が好きだからだと薄々勘づいて。
……多分、俺が自覚するよりも前に、
セイトさんは、俺の気持ちに気付いていて。
俺もきっと、無意識に、
セイトさんへ、同じ感情を抱いていた。
“俺に、似てんなって”
今まで、なんで気付かんやったんやろ。
確かにそう言われてみると、
俺とセイトさんは、ずっと同じ立場で。
…本当は、良い理解者になれたんかも。
「……ほんでさ、ラン。」
「はい、?」
「…俺ら、友達にならへん、?」
「っ、え、?」
「まぁ、…趣味は合うやろ、色んな意味で…?笑」
俺の気持ちを既に察していて、カイリュウの事を言っているのか、そう自虐するように笑うセイトさん。
「…あ、いや安心せぇよ?俺はもうナオしか考えられへんから。」
「っ、…熱々っすね、笑」
「おん。一生守るって決めてんねん。」
「おー、かっこい。笑」
「お前バカにしてへん?笑」
「してないですって。笑」
「しとるやんけおい。」
「してないしてない。」
「……なぁ、セイトって呼んでや。」
「ふふ、…うん、わかった。セイト。」
「おい敬語無くせとは言ってへんやろ。笑」
「え…っ、」
「嘘やウソ。笑」
ふふ、と、なんだか急に縮まった距離感にお互いぎこちなく笑いながらも、セイトさんの優しさと、熱い気持ちを感じていた。
「ラン、…俺にほんまの事言われへんなら、言わんくてもええ。ただ、俺からは言わしてもらうで。」
「っ、…なん、?」
「……好きなら待たせんな。」
「っ、え……、」
「俺はずっと、…ナオの事、待たせてもうたから。俺が言うたら、説得力あるやろ、?」
「……っ、」
「……カイリュウ、頑固やからな。お前が無理矢理引っ張らんと、ほんまにふらっと行ってまうで。」
「っ、…セ、、」
「じゃあまたな、…ナオによろしく。」
俺の声を遮るように、背中をぽんと叩いて立ち上がるセイト。
そのまま階段を上がっていく姿を眺めながら、色んな思いが、頭の中を駆け巡っていた。
***
今日も店は忙しくて、午前中があっという間に終わっていく。
このまま、慌ただしくしている間に、
この海の家も、終わっていくんかな。
“暇やな”なんてカイリュウが言い出して、どちらからともなく賭けをし始めていたあの時間が無くなって、
このまま、
カイリュウも、
俺の事を、忘れてしまうんかな。
お昼が過ぎて、やっと静かになった店内で、
カイリュウの声がしない店内で、
どうしたって、そんな事を考えてしまう。
「なぁランちゃん、やばい〜!!」
「っ、え、?!なん?」
ぼけっとしていると、急にナオヤに身体を揺さぶられ、びっくりして声を上げた。
「材料足りへんかも〜!ごめーん!今のうちに買ってきてくれへん?」
「え、?うん、わかった…っ、」
余計な事考えてる場合やない、仕事に集中せんと。
……もう2人しか、おらんのやけん。
頭を必死に切り替えながら、足早に店を後にした。
……
買い出しに向かいながら、ふと、
カイリュウとこの道を歩いて、初めてご飯に行った日のことを、思い出しそうになる。
“初めてやったけど、サシ飲みも悪ないんちゃう?…っ……また、行こな、”
“また”が、来ないことを、
あの時カイリュウはもう、知ってたのに。
どうして、……なんで、
“また”なんて、言ったんよ。
「……っ、」
これ以上考えないように、スマホでも見ようとポケットから取り出す。
「……ラン?」
「っ、え…?」
スマホに目線を落とした瞬間、名前を呼ばれて顔を上げた。
「…っ、たっくん、?」
コンビニに差し掛かったところで、ちょうど中から出てきたのか、そこにたっくんがいて、俺に向かってひらひらと手を振っていた。
「久しぶり。…あ、買い出し、?」
「久しぶり…、うん、たっくんは、?」
「ん、?リュウキをサークルに送ったとこ。」
「っ、そっか…、」
リュウキと上手くいってるんやな、なんて嬉しくなりながらも、自分の現状との差で、少しだけ羨ましくなる。
「……元気、?」
「え、?」
「なんか、元気ない気がしたから」
「…っ…、元気よ、?」
必死に取り繕ってそう返事をしたけど、じっとたっくんに見つめられてしまう。
「、ふっ。笑」
「っ、え、なん…、」
「嘘下手だね、ラン。笑」
「…、え、、っ、」
「…なんかあった?」
「……、や…、」
「…俺でよかったら、話してよ。」
ね、?とたっくんに促されて、
買い出しの事が頭に過ぎりながらも、
少し考えた後、うん、と返事をした。
***
コンビニの近くの防波堤に座ると、たっくんの優しい声が隣から聞こえてくる。
「……どうしたの?ラン。」
「……、カイリュウがさ、」
「カイリュウ、?あぁ、うん、あのよく喋る子ね。笑」
「っ、ぶ、…ふふ。そう。笑」
「なに、?笑」
「え?あ、ううん…っ、笑」
たっくんの中ではそういう印象なんや、なんて、なんだか笑ってしまった。
そう。
よく喋って突っ込んで、
照れ屋で、…時々可愛くて。
「……ラン、」
「ふふっ、ん、?」
「……楽しそうだね、?」
「え、?」
「楽しそうな顔してる。」
「…っ、」
たっくんの言葉に動揺して、唇を噛み締めた。
「……カイリュウが、?」
「え、、あ、うん…、カイリュウが、…上京することになって、今日から店に来れんくなって。」
「上京、?なんで…?」
「…カイリュウ、アーティストになるのが夢で、ずっとオーディション受けとってさ。…それで、こないだ、やっと合格して。」
「っ、そうなんだ?すごいじゃん…、」
「うん、すごいんよ、まじでさ…、カイリュウって、自分の歌に自信持っとってさ。それがかっこよくて、俺はずっと、…そういうとこ、尊敬してて。」
「うん。」
「…昨日初めて、カイリュウの歌聴いたんよ。あんなに自信あったの、納得する歌声やなって。ほんと、…これからもっと、活躍できる声やなって…、」
「…応援してるんだね、カイリュウのこと。」
「…しとるよ、…しとる。俺が一番、しとるよ。……ファン1号やし。」
「1号?」
「……昨日、歌ってくれた後、ファン1号にしてって言ったんよ。…そしたら、……お前が1号なら、…心強いって…、、っ、」
「……ラン、?」
「っ、、ごめ、…っ、」
そう言ってくれた時の、
安心したようなカイリュウの顔が、
ふと、頭に浮かんできて。
本当は、
ファンなんて、
そんな関係じゃ、足りなくて。
そんな気持ちが、言葉にしたら、
途端に溢れ出て、声が震えていた。
「……ねぇ、」
「っ、ん…、?」
「……ちょっとだけ、俺の話してもいい?」
「え…、?、うん…っ、ええよ、、?」
そう言って、たっくんがゆっくりと、
俺を落ち着かせるように、話をしてくれた。
「……俺さ、ランと出会う前、まじでダンスの事しか考えてなかったのね。」
「、うん…、」
「夢叶えるためなら何でもしたし、他の事はどうでもよかった。…でも、…まぁ、ある人を、好きになって。」
「っ…、うん、、」
「もちろん、応援してくれたし、…俺も相手に、できることはしたつもりだった。でも結局上手くいかなくて。」
「うん、、」
「……責めたよ、自分を。俺が夢ばっかり追って、ちゃんと相手を見なかったからだって。…ずっと、それを悔やんでた。……でも、気付いたの。俺、それをちゃんと、相手に伝えなかったなって。」
「、え…、?」
「別れたいって、言われてさ。…すんなり、受け入れたんだよ。それが相手のためだって。……でも本当は、…ランに、前話したけど…、本当は、ずっと好きだったって言われて。」
「…、うん、」
「俺もあの時、ちゃんと自分の気持ちを言わなかった。本当は、別れたくなんてなかった。…相手もそう。相手にとって、これが正解なんだって、決めつけて。それで、俺達は何年も苦しんだ。……でも、俺、…これは、最近やっと、気付くことができてさ。」
「…なんで……、?」
「……リュウキが、教えてくれたんだよ。俺にいつも真っ直ぐで、ちゃんと、気持ち伝えてくれて。…俺に好きな人がいても、好きだって、ぶつかってくれて。だから俺は、リュウキの事を好きになったし、…自分の気持ちに、素直になる大事さに、気付けたんだよね。」
「っ……、、」
たっくんの話が、今の俺に突き刺さる。
なんで、こんな辛い話をしてくれたのか、
その意味が、意図が、
もうわかるでしょと、言われている気がして。
「……それとさ。」
「…ん…、?」
「俺、ずっと見てきたでしょ?ランのダンス。」
「、うん、、」
「ランの事だから、…もっと経験積んでから、なんて考えてんでしょ?」
「っ、え、…なんで分かるん…っ、」
「真面目だから。笑 ……これは、…まぁ、一応その世界に入ってた先輩として言うんだけど。」
「、なに…、?」
「上には上がいるし、もっとスキル磨いてからって、気持ちは分かる。…でも、努力に限界は無いし、プロになっても続くから。そうしてる間に、夢を掴める人はどんどん進んでくよ。」
「っ…、」
「俺は、ランの凄さを知ってるから。…ランだって、これからもっと、活躍できるダンスしてるよ。……カイリュウと、同じってこと。」
「、…っ、たっくん…っ、、」
「夢のせいで、何かを失うなんて、俺みたいにならないで。……自分の気持ちに、正直になっていいんだよ、ラン。」
「っ、〜…っ、、も、やめて、…泣くけん……っ、」
「ふふ。……俺の事、泣かせた仕返しだよ。笑」
滲んでいく視界に、
たっくんの優しく笑う顔が、微かに映って。
「……あ、俺そろそろ、仕事しなくちゃ。…ランも、買い出しあるんでしょ、?」
「っ、…あ、…そうやった…っ、」
「ふふ。…ラン、」
「、ん…、?」
「……ランなら、行けるよ。」
「え……っ、」
「じゃあ、またね。」
またひらひらと手を振って、
去っていくたっくんを見ながら、
気持ちが大きく、揺れ動いていた。
コメント
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「セイトさんがランに『好きなら待たせんな』って言ったシーン、めっちゃ刺さった…。自分がナオを待たせた経験があるからこその説得力で、ああいう大人の助言って心に響くよね。たっくんの『気持ちに正直になっていいんだよ』も重なって、読んでるこっちがグッときたわ。カイリュウに出会って変わっていくランの心情が丁寧に描かれてて、ファン1号のシーンからの流れがもう…切なすぎる。関西弁の温かみのある会話もこの作品の魅力やなって改めて思った!」
𖤐·̩͙
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