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歌え歌え、世界の誕生を。祝え祝え、枯れない恵みを。育め育め、生命の奇跡を。愛せ愛せ、母なる大地を。呪え呪え、灼熱の地獄を──。
はるか昔、この世界は4人の偉大な神によって作られた。水の神ウォーテル、植物の神ツァーリィ、大地の神グラード、そして熱の神ディアーナ。
ウォーテルは海と川を、ツァーリィは草木や花を、グラードは世界を覆う土を、ディアーナは火山と太陽を作り上げた。
『ようやく完成したわね、子供たちの楽園が……』
『私達は血の繋がりなんてないけど、これからは4人でこの楽園を守っていきましょう』
世界の全てが見渡せる雲の上で4人は誓い合ったはずだった。ディアーナは何度も何度も楽園に生きる子供たちを死へと追いやった。時には火山の噴火で、時には干ばつによる食糧不足で。
ディアーナが力を行使するたびに水は蒸発し植物は枯れ、大地は干からびた。本来の力を失い床に伏すことしか出来ないツァーリィ、肌はひび割れ髪もざんばらで美しさを失ったグラード、存在自体が危うくなり実態が保てなくなったウォーテル。
苦しむ3人を見ていた天使らはある決心をした。
『神天裁判を行おう』
『神天裁判なら地位の低い我々でもディアーナ様を裁ける』
神天裁判、それは天使が神に物申せる唯一の機会。神天裁判は絶対であり、出廷を求められれば神でさえ逆らうことは許されない。例えそれが、その制度を作った本人であっても。
神天裁判は世界を作って少し経った頃に4人で作ったものだ。誰かが道を間違えてもすぐに助けられるように、4人でこの楽園を守ってもっともっと繁栄させられるように、と願って当時の4人が持てる力を全て使って作られたそれは、4人の決意と愛の結晶のはずだった。
『あんたたち何のつもりなのよ! 一天使ごときがアタシを裁判にかけようだなんて! 随分と偉なったものね!』
『口を慎みなさい、ディアーナ。ここに出された時点で貴方は神である前に被告人です。立場を弁えなさい』
法廷に引きずり出されてもディアーナは怒り、自身を拘束している天使を焼き殺そうと炎を放った。しかしそれは突如として現れた水によって鎮火された。
驚いて振り返ればそこにはしっかりと実体を持ち、誰の手も借りずに立っているウォーテルの姿があった。
『…!? どうしてアンタが…』
『口を慎めってウォーテルが言ったの聞こえなかったの? それとも炎の出しすぎで脳みそ溶けちゃった?』
ウォーテルの後ろからひらりと衣を翻してグラードが現れた。髪はさらさらと風になびき、肌も本来の美しさを取り戻している。
『被告、原告、共に揃いましたね。それではこれよ神天裁判を開廷します』
開廷してすぐは口八丁なディアーナが有利だったが、天使たちが証言を始めてからは多勢に無勢、あっという間にディアーナは追い詰められてしまった。
『判決を言い渡します。被告人を無期限の禁固刑とする。これにて神天裁判を閉廷します』
衣が汚れるのも気にとめずにディアーナは法廷の床にへたり込んで下を向いている。ウォーテルが声をかけるべきかと迷っている間にディアーナは天使たちによって連れていかれてしまった。
『ウォーテル、気にすることなんてありませんよ。ウォーテルも私も、今日ここに来られなかったツァーリィも、さんざんあの女に苦しめられてきたじゃないですか。ね? 』
幼子のようにはしゃぐグラードに手を取られ、ウォーテルは法廷を後にした。
神に逆らった天使や動かなくなった天使たちの墓場にディアーナは落とされてしまった。悲しみや怒りを通り越して笑いが込み上げて来るほどに天使たちはディアーナに無慈悲で無関心だった。
『くふ、ふふっ……あは、ははは……、どうして……? アタシはただ自分の仕事をしてただけなのに、何で……。っ、ああ、駄目ね。こんなのアタシじゃない、アタシはみんなが望んだように残虐で恐ろしい熱の神でないといけないのに……』
「ディアーナ!」
かつての親友の名を呼んで、ウォーテルは目を覚ました。
「え、あ……夢……?そう、よね。随分と懐かしい夢だったわ、……ディアーナ……」
「ウォーテル様、御早う御座います」
辺りを見渡しても目に入るのは見慣れた内装と調度品ばかりでディアーナの姿はない。そこでウォーテルはようやく夢を見ていたことに気がついた。
しばらく寝台の上でぼうっとしているとお付きの天使が大量の紙の束を持って室内に入ってきた。
「おはよう、エル。それは今日の分の仕事? 」
「いえ、今日の午前の分です。午後の分は後ほどお持ちします」
ディアーナが居なくなってからウォーテルの仕事量は以前の十倍以上に跳ね上がった。
他2人に手伝って欲しいと思うほどにウォーテルは多忙を極めていたが、グラードは常に部屋から出てこず、ツァーリィは自分の仕事が終わればすぐに居なくなってしまう。
「ディアーナ……」
あの日、自分が見捨ててしまった親友にウォーテルはそっと思いを馳せた。