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甘い声を囁く唇が、時に獣のように噛み付き、かと思えば優しく、緩急激しく太ももの内側に何度もキスを落とす。
大きな手のひらが膝を包み込むように持ち上げ、妖しく光る瞳は、もう随分と誰の目にも触れさせてはいなかった部分を見つめた。
「恥ずかしいことばっか言わないで」
思わず顔を手で覆った。
この行為を当たり前みたいにする空気。
置いていかれないよう意地になって、緊張と迷いを隠しながら強がりな声を紡ぐ。
「はは、おもろいっすね。恥ずかしいことしようやって時に何ゆうてんの」
ほのりの顔を見て、軽く笑い飛ばしてから、彼は――声をかけられた店でカズキと名乗った男性は、目を細めその表情から笑顔を消した。
これから抱こうって女への優しさとか、愛情とか、もちろんそんなものは一切見つけられない。
欲情に揺れる瞳。
それでも。
「ほんまキレイねやね、お姉さんの身体」
甘く安い台詞に満たされてしまう。
「……っ、あ」
覆い被さる、自分の身体よりも大きく、逞しい重み。
肌の暖かさに込み上げてくる何か。
シーツの中に沈められてく理性。
それでも、どこかで溺れきれない。
与えられる快感の中、思考が鮮明なのは苦しい。
(なるほどなぁ、これ、事が終わったら間違いなく一夜の過ち的な……)
「何考えてるん」
ほのりを見るカズキと名乗る男は、ふわふわとしたブラウンの髪を汗で濡らしながら目を細くして微笑んだ。
聞かないのがルールじゃないの? と、返したかった言葉は深いキスに飲み込まれてしまう。
彼の童顔からは想像できなかった、細身で、しかし筋肉質な鍛えられた身体には思わず触れたくなるし、力強い愛撫は的確にほのりの興奮を増幅させている。
冷えた頭の中とは分離されているかのよう。
口元を押さえる余裕をなくしてしまったほのりの甲高い声がホテルの室内に響き渡った。
互いの息づかいだとか、彼が動くたびに軋むベッドの音や、シーツが擦れる音。
もう二度と会わないだろう人に、アルコールよりも酔わされているじゃないか。
(でも、もういいや……今、いろいろ忘れたい)
絶え絶えになる呼吸の合間。
快感に身を任せることに決めて、迎えた絶頂の中、目を閉じた。