〜side小柳〜
俺はカーチェイスを終え署内へ戻った
するとタイミング良く見つけたかのように喜多見が俺に駆け寄って来た
「あっ、ロウ先輩!丁度良かった。ロウ先輩知ってますか?裏口横の倉庫って。そこから荷物を取って来て欲しいって頼まれたんですけど」
「裏口横の倉庫?」
そんなところは見た事がない
いや、気にしてないから気づいてないのかも
「いや、わからないな。行ってみるか」
「はい!ありがとうございます」
俺達は裏口を出て辺りを見渡した
建物の横を見るとシャッターと扉が付いている
「‥‥これか?こんなとこにシャッターなんて付いてたんだな」
「これかもですね」
そこを眺めながら不思議に思う
こんなところに修習生を行かせるのか?
「誰に何を頼まれたんだ?」
「ローレン所長に青色のプラスチックのボックスを探して持って来て欲しいって言われました」
ローレンさんが?
まぁ、忙しくて手が足りなかったのかも知れない
それにしても長い事使わらてなさそうなのが気になるけど‥‥
「鍵は預かって来たのか?」
「鍵はかかってないそうです」
「え?そうなのか?」
雨風で劣化したドアノブを握る
確かに鍵が要らないほど渋い
ようやく扉が開くと思ったら、すごい音で扉も開きづらかった
倉庫の中に顔を入れると粉っぽい埃の臭いで、ずっと使われてないのが分かった
「こんなところにあるのか?」
壁伝いに電気のスイッチを探し、押してみる
だが倉庫内の電気は一つとして付かなかった
「奥の棚にあるかもとは言ってました」
「奥ね‥‥」
俺はフラッシュライトを取り出し足元を照らす
奥まで辿り着き、棚にライトを当てる
「青い箱、青い箱‥‥無くないか?」
喜多見に確認しようとして振り返ると、くっ付くくらいに真後ろに喜多見が立っていた
俺は驚きの余り手にしたフラッシュライトを落としてしまう
「お、おい‥‥どうしたんだ‥‥」
「先輩‥‥」
「‥‥‥‥」
俺を見下ろす顔はいつもの喜多見とは違っていた
「あんまり奥に行くと服、汚れますよ?」
躙り寄る喜多見に追いやられ、気付くと背中に壁が当たる
「箱は無いみたいだ。帰ろう」
「嫌ですよ。せっかくここまで先輩を連れ出したのに」
「‥‥今なら無かった事にしてやる」
「僕見ましたよ?資料室で先輩が北見先輩を誘惑してる所」
「誘惑なんかしてない」
「僕にもして下さいよ。どうせ署内の男達をその綺麗な顔で誑かしてるんでしょ?」
「‥‥お前、言わせておけば‥‥」
「ここに来た時から狙ってたんです。ねぇ、一度くらいヤラせて下さい」
喜多見が俺の肩を掴む
コイツ‥‥馬鹿力で押さえ込んで来やがって‥‥
顔が近づいて来て、思わず手のひらで顔を押し返した
すると喜多見も俺の人差し指を噛み舌をチラつかせる
「っ痛!」
「痛いのはお好きですか?ロウ先輩」
「好きな訳ねーだろっ」
俺は両手で喜多見の上半身を突き返す
だが体が揺れるばかりでよろめきもしない
さすが警察を選ぶだけあって、体幹は良いらしい
喜多見が俺の襟元を強く握り、片手で横に俺の身体を投げつけた
「うわぁっ!」
下にある段ボールに脇腹を打ち、息が苦しくなる
喜多見が俺のところまで来て屈み込む
破れた襟の部分に両手を掛けてさらに左右に引きちぎった
「お前‥‥警察署の中でよくこんな事出来るな」
「もうここまで来たらどうでもいいかって。だったら絶対ロウ先輩を蹂躙してから逃げないとね」
「勝手な事言ってんなよ‥‥」
「あー、血が出ちゃいましたね」
さっき横に投げ飛ばす時、襟首を掴まれ爪を立てられたからだ
「舐めときますね」
「やめっ‥‥!」
大きく切り裂かれた服の合間
首から鎖骨にかけて出来た傷に、大きな口を開けて齧り付いて来た
「痛っ!‥‥やめ‥‥」
ジュルジュルと大きな音を立てて吸い付いて来る
身体中の血液がそこから抜かれてしまう程の勢いで‥‥
その時俺の無線から声が聞こえた
“ロウさん、こっちにいますか?”
北見の声だ!
俺は腰に下げていた無線機の応答ボタンを押し、大声で叫んだ
“北見!裏口の倉庫だ!”
喜多見が顔を離し、無線機を取り上げ後ろに放り投げた
口には俺の血を着けて笑っている
「ここに来ちゃうじゃないですか。仕方ない‥‥」
ズズッ‥‥
喜多見が俺の右脚首を掴み床を引き摺りはじめた
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