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アネモネはソレールの胸に収まっている自分の腕を引っこ抜いて、震えている彼の背に伸ばす。
いっぱい言い訳をしないといけないし、聞いてもらいたい。
でも今は、ソレールの震えを止めることが先決だ。なんの根拠もないけれど、自分がぎゅっと抱きしめれば、彼が落ち着いてくれると思った。
それは、正解だった。両手を伸ばしてソレールの背をトントンとゆっくり叩けば、彼の震えが治まっていく。
「……心配かけてごめんなさい」
「いや、私こそ怒鳴って悪かった」
アネモネはソレールを抱きしめたまま、ぶんぶんと首を横に振った。
不思議なものだ。たったこれだけの会話で、ソレールが自分のことを疑っていたわけではないのがわかる。
「アネモネ、聞いて欲しいことがある」
「うん」
「本当は全部落ち着いたら、話そうと思っていたことなんだ。でも隠すような真似なんかしないで、ちゃんと伝えておけば良かったと後悔している」
「うん」
「実は──」
「見せつけてくれるわ、お前たち。随分と仲がよろしいことで。ったく、イチャつくのは、家に帰ってからにしろ」
胸焼けを押さえるような口調で、アニスはソレールの言葉を遮った。
いいところを邪魔されたソレールは「そうします」とあっさりと同意したが、アネモネは違った。
「なっ……な、な、な、な」
アネモネは顔を真っ赤にして、ソレールの腕の中でモダモダする。
アニスが、自分がソレールの家にお世話になっていることを知っていることに驚きだが、その後の方が問題だ。この人、イチャつくって言ったのだ。
言葉として気持ちを確認していない微妙な関係で、からかわれるのは恐ろしい程こっ恥ずかしい。
耳まで真っ赤になったアネモネを見て、ソレールは「今更何を恥ずかしがってんだ」と呆れ顔になる。だがそこに、悪意は感じられない。
それに不法侵入したことも咎めないし、ついさっきティーとから自分を守ろうともしてくれた。
もしかしてアニスが出会ってからずっと嫌な態度をとっていたのは、アネモネを巻き込まないようにしてくれたいたのかもしれない。そうだとしたらアネモネは、自分で事をややこしくしてしまっていたことになる。
「ごめんなさいソレール。あなたを騙すような事をして」
アネモネはソレールの腕から離れ、2歩距離を置くと深く頭を下げた。
「いいんだよ」
「でも……私……知らなかったとはいえ……ソレールを騙すだけじゃなく、あなたのご主人様も危険に晒してしまいました」
「こちらも騙していたんだ。それに遅かれ早かれこうなっていた。だから、アネモネが気にすることはないよ」
アニスとティートがすぐ近くにいることを忘れ、アネモネとソレールは二人の世界に浸っているが。
「なぁ、こういうのって俺が言うべき台詞なのでは?あと、娘。俺に詫びはないのか?」
確かにそうだ。アニスの存在を思い出したアネモネは、すぐさま頭を下げようとしたが、思い留まった。
実は、アネモネは根に持っている。アニスに、猿呼ばわりされたことを。おそらく一生忘れないだろう。例え言った本人が忘れたとしても。
そんな強気なアネモネを見て、床に串刺しになっているティートは「やるね」と言いたげに場違いな口笛を吹いた。