テラーノベル
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頑として謝る気がないアネモネを見て、アニスは文句の一つでも言おうと思った。
だがそれを察したソレールは再びアネモネをぎゅっと抱きしめる。
「おいソレール、なんだか俺が悪者になってるような気がするが?」
「その質問、お答えした方がいいですか?」
質問を質問で返されたアニスは、不貞腐れた顔を作ることで自分の主張を引っ込めた。
そしてイチャつくアネモネとソレールを視界に入れたくないアニスは、現在進行形で床に串刺しになっているもう一人の護衛騎士に視線を移した。
「で、お前は自白を強要されたら毒でも飲めと言われたか?」
「ご名答です」
「そうか。なら、好きにしろ。だが、ここで死ぬなよ。俺の部屋に死体が転がるなど耐えられん」
「なら、コレ取ってくださいよ」
「……ソレールに頼め。俺は知らん」
「じゃあ、無理じゃないっすか」
寝そべった状態で、ティートはちらっ後輩を見た途端「ははっ」と乾いた声で笑った。
自分の部屋に穴を開けられ、かつ見たくもない部下のいちゃつきを見せられているアニスだって乾いた声で笑いたい。
でも、彼は貴族だ。今更ではあるが、あからさまに感情を表に出すのは恥である。
だから感情を抑える為に腕を組み、ティートに向け再び口を開いた。
「あのブラコン王子は、俺が純血統だとわかったら殺せと言っていたんだろ? だが、あいにく俺は第一王子であるソーブワート殿下と仲が良いんだ」
「でしょうね。でもフラン様はそれすら気に入らないみたいで」
「だろうな。で、俺はソーブワート殿下に言ってやったんだ。”あんたの弟が、俺を殺すような真似をしたら絶交だ”と」
「…… うっわぁ」
「ま、俺とて幼馴染の殿下と縁は切りたくない。つまりお前は、当分地下牢に軟禁だ。フランが謝ってきたら、自由にしてやる。毒もそれまでは飲むのを我慢しろ。酒なら幾らでもくれてやるから」
「あっ、じゃあ…… ヨイッバイル産のワインで!」
「くそっ、足元を見やがって。……で、毒はどこにある? それと交換だ」
「左側の上着の裏に」
ティートは串刺しになってはいるが、両手は空いているから本気を出せば、自分で剣を引き抜くことだってできるし、もう一度アニスを殺害しようとすればできる。
でもティートは、それをしなかった。完全に、命令を遂行する気が失せていた。
なぜだかわからないが自分の中にあったドロドロとした殺意は消え、妙に清々しい気持ちだ。
それはソレールが斬り込んだ瞬間、アネモネの手が袖口の隙間から覗いた彼の素肌に触れたから。
どす黒い負の感情は気泡となって浮かび上がり、それをアネモネは床に叩きつけられる瞬間、確かに握り潰したのだ。
それを知っているのは、アネモネだけ。ティート自身も自分の感情の変化に違和感を覚えていない。やることやって駄目だったから仕方がないと開き直っている。
ティートは今、アニスと新しい関係を築く第一歩を踏み出し始めた。
(本当なら追加料金を請求するところだけれど、今回は特別にサービスしてあげよう)
アネモネはソレールの胸に顔を埋めながら、照れ臭いことをした自分に向けて、そんな言い訳をした。
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