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僕らの詩 ~Our Lifetime~

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僕らの詩 ~Our Lifetime~

7 - 6人と大輪の雫

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2022年09月10日

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覚えたばかりのネームプレートがかかったドアを、慎太郎はとんとんと叩く。

はーい、と答えたのはジェシーだった。その隣には優吾の姿も。

ほほ笑む2人を見て、まるで長年連れ添った夫婦のような安心感があるなと思った。

「待ってたよ。行こうか」

せっかくだから一緒に海に行こう、と慎太郎は誘われていた。

部屋を通ってテラスから出て、小道をゆく。

「ねえ、慎太郎はどこのがんなの?」

何でもないことのように、優吾が聞く。

「俺は膵臓。お医者さんも珍しいって言ってた。そのときは何で俺がってずっと思ってたけど、こんないいとこに来れて……」

ふいに言葉が途切れたのは、急に視界が開けて海が現れたからだ。

「うわ……」

「綺麗でしょ?」

「うん、すごい!」

明るく告げた。

「こんな静かな海、初めて見た」

「でしょ。ここに来たら、なんかすごい落ち着くんだよね」

その優吾の言葉に、ジェシーもうなずく。

「確かに。嫌なこととか辛いことも全部忘れられる」

「すごいね…」

と、「ジェシー!」

どこからか呼ぶ声が聞こえる。振り向くと、樹と北斗、それから大我がやってくるところだった。

3人は新しい入居者を認識した。

「新しく入ってきた人?」

「そう、森本慎太郎くん」

ジェシーが紹介すると、ぺこりと頭を下げた。

「よろしくお願いします」

いいよ、と樹は手を振った。

「俺は田中樹。隣が松村北斗っていって、こっちは京本大我。2人とは友達みたいなものだから、俺らのことは下の名前で呼んでいいよ」

にこりと笑った。

「うん。よろしくね」

すると、あっと思い出したように樹が手を叩いた。

「そういえば、今夜港のほうで花火が上がるんだって。せっかくだから、みんなで見に行かない?」

行きたい、とそれぞれ反応する。

「港ってどっち?」

大我が問う。

「ここからちょっと北に行ったら、小さい港があるの。俺と北斗が来たときはそこの港から降りたよ。みんなもそうじゃない?」

「そういえば俺も船だったなあ」

優吾が言った。

「ちょっと待って、そもそもなんで花火? もう9月だよ?」

慎太郎が訊くのもそのはず、今は9月の初旬で、夏の足音は遠ざかっていったばかりだからだ。

「なんかここらへんでは『終夏の花火』って言って、夏の終わりにも花火を打ち上げるんだって」

北斗が補足した。「みんなが体調が良ければ、だけど…」

「うん、俺は元気!」

笑顔で慎太郎が答える。

「俺も今日はいい感じ」

優吾は小さく笑った。「でも一応、モルヒネ持って行っとこうかな…」

「モルヒネ?」

一方、大我は不思議そうな顔だ。

「腰に付けられる、モルヒネを注入するちっちゃい機械のこと。痛くなったときのためにね」

そうなんだ、とうなずいた。



約束の午後5時。すでに空は夜に差し掛かっているところだ。

「じゃあ行こう!」

エントランスホールに集まった6人は、ジェシーの陽気な掛け声で出発した。

樹がスマホのマップで道を確認しながら、それに続く。

こんな風景を見ていたら、とてもこの6人ががん患者だなんて思いもしないのに、と慎太郎は考えた。

どうせ出会うなら、シエルじゃなくて外の街で会っていたかった。でも皮肉なことに、ここに来なければみんなと出会えなかった。

それもいいか、とひとり笑った慎太郎だった。


「着いた。ここかな」

そこは、船が数隻停まっているだけのこぢんまりとした港。静かだが、周りには島の住民だろうか、見物人の姿がある。

「もうすぐのはずなんだけど…」

腕時計を見てつぶやいた北斗の声に重なるように、ドーン! と地を揺るがすような音が響き、一つ目の花火が上がった。

「うわあ」

みんなは途端に破顔した。

「綺麗!」

「すごーい」

「音おっきい」

「近いね」

「うわぁ、めっちゃ綺麗…」


晩夏の空気を切り裂く、口笛じみた音。

炸裂の音とともに夜空を彩る、色とりどりの花々。

刹那のうちに散っていく、光たち。

次の花が咲くまでの、僅かな静寂。

みんなは、会話も忘れて花火に見入っていた。


6人の瞳には、しっかりとその光景が映っていた。


続く

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