テラーノベル
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その時、綾乃が一番最初に思ったことは一つだ。
――蓮見楓……こいつ、なんで私もケータイ番号知ってるわけ?
大昔は、クラス全員の連絡先を書いた連絡網、なんてものをコピーして学校で配っていた時代もあるという。だが、今は多分そんなことをやっている学校はほとんどない。プライバシーの問題で厳しくなったからだ。
仮にやっていたとしても、書いてあるのは親の携帯番号か自宅の電話番号であって、綾乃の電話番号が登場することなどない。――誰かがわざわざ教えたのだ。一体、誰が。
「あんた、なんであたしの電話番号知ってるの?」
『ある人に教えて頂きました』
「誰?言いなさいよ」
『貴女に言う必要はありません。……その様子だと、私に電話番号を教えてくれた人を、貴女は逆恨みするでしょう?』
「……っ!」
妙に棘のある言い方だが、実際その通りではある。余計な真似しやがって、という気持ちが強い。その電話を、まんまと取らされた自分も自分だが。
落ち着け、と己に言い聞かせる。腹立たしいが、電話なんていつでも切ればいいだけのこと。ムカつくが今は我慢だ。こいつが何のために電話をかけてきたか、その目的がまず知りたい。
どっちみち、楓と話すのも今夜限りなのだろうから。綾乃がその気になってカエシオニの力を使った瞬間、この女はいつでもお陀仏にできるのだから。
――多分、歌ね。あたしの番号知ってて、お節介しそうなのはあいつしかない。
明日、歌にはきっちり話を聞かなければいけない。楓が綾乃に何をしているか、どんなクズなのかは散々聞かせてきたはず。それなのに、その楓に優しくしてやるなんてどういう了見なのか、と。
「……いいわ。どうせ、心当たりなんて少ししかないし。で、何が目的なわけ。あたしに謝る気にでもなった?今更だけど」
息を大きく吸い込み、自分の心を落ち着けて口を開く。腹立たしくて仕方ない。仕方ないが、今はこいつに弱みを見せる方がよほどムカつくのも事実だ。
『……冬香さんと由衣さんが、貴女に何をしたかを訊きました』
やがて、楓が静かな声で続ける。
『貴女の携帯を壊したり、恥ずかしい写真を撮って脅すようなことをしたこと。それからいろいろと嫌がらせをしていたこと。……それに関しては申し訳ないと思います。二人にかわって、お詫び申し上げます』
「まるで、自分は何も知らなかった、とでもいうような口ぶりね」
『その通りです。私は、お二人が何をしているかまったく存じ上げませんでした。ただ……二人の行動に気付かなかったのは私の咎ですし、そもそも二人がそのような行動をとったのは私の為ということも理解しています。ですので、その件に関しての責任は私にあると思っています。……そもそも私が貴女に写真を撮られるような間抜けなことをしなければ、このようなことにもなっていないわけですから』
「はあ?それはなーんも問題ないんですけど?」
わかってない。こいつは何もわかっていない。
綾乃は思わず眉を跳ね上げる。
「あんたが超絶間抜けだったのは事実だけど、問題はそれよりもっと前にあるでしょうが!あたしだって、同性のキモ女の裸になんざ興味なかったわよ。でも、あんたが先生達相手に枕なんて気色悪い真似したのが諸悪の根源でしょ!まずはそれを反省しなさいよ!!」
今の言い方じゃ、結局綾乃が写真を撮ったことが悪いみたいではないか。自分は自分の尊厳を守るため、こいつに本気で反省させるために仕方なくああいう手段を取っただけだというのに。
『……よく、“証拠は?”と尋ねるのは犯人だ、なんて言葉がありますが』
電話の向こう。
ため息交じりで女が言う。
『冤罪をふっかけられた人間だって時には同じことを言います。何度も申し上げたはずです。私は、そのような愚行、神に誓ってしていません。そして、貴女は何度も何度もそれを当たり前の事実のように主張しますが、証拠はあるのですか?』
「そんなものなくたって、あたしの絵があんたに劣ってるわけないんだから、他に考えられるのはそれしかないでしょうが!」
『つまり、証拠は何もないわけです。それなのに、人を淫売呼ばわりして、不名誉な噂を吹聴して、あげく人の作品を壊して……』
部屋の中には、綾乃しかいない。あくまで自分は、楓と通話しているだけ。
それなのにその瞬間綾乃は、目の前にあの女が立っているような錯覚を覚えたのだ。あいつに、殺意に満ちた目で睨みつけられている、と。
『その挙句、自分のプライドのために、私の大切な友達二人を殺したのですか。……恥を知りなさい!』
「!」
いつも大人しくて、声を荒げたところなど見たことがなかった少女が。今はっきりと、綾乃に怒声を浴びせた。一度も聞いたことのないような激情の声。一瞬、綾乃も気圧される。
『物理的証拠がなくても相手を犯人扱いしていいなら、その理屈は私の方にも適応されなければおかしい。……できるか、できないかじゃない。やったか、やっていないかで答えなさい。貴女が、冬香さんと由衣さんを殺したのですか』
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それは。ほぼ確信をもって問いかけている声だった。
『聞きましたよ。……冬香さんが亡くなった時、貴女は噂にもなっていないような死体の状況を、死因を、妙に詳しくご存知だったそうですね。……犯人しか知らない情報を知っている、は十分証拠になりえると思いますが?』
「……あいつなの?歌が、あんたにそれを教えたっての?」
『誰に聞いたかなんて教えるはずないでしょう。質問に質問で返さないでください。もう一度問います。二人を殺したのは貴女ですか?』
負けたくない。こんな奴に、追い詰められるなどあってはならない。気圧されるなんて、自分が。圧倒的優位に立っているはずの自分が!
「……だったら、何だってのよ!」
気づけば、そう叫んでいた。綾乃は早口でまくしたてる。
「ええ、ええ、そうよその通りよ!あたしが、浮島冬香と羽柴由衣を殺したのよ!カエシオニの魔法の力を使って復讐してやったのよおおおおお!あはははは、あいつら、どんな風に死んでいったか訊きたい?ねえ訊きたい?みんな、クソ漏らして白目向いて、げえげえ吐きながら惨めったらしく死んでいったってわけ。まるでゴミ、ゴミ、ゴミ!まさに生ごみに相応しい最期だったわ!あたしの尊厳を踏みにじった、最低最悪のいじめ加害者にはまさに相応しい末路だったわよ。天罰ってやつ?自業自得ってやつ?因果応報ってやつ?ざまあ展開ってやつう?あはははははははははは、ははははははははは、はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」
自分はいつだって正しい。間違えたことなど一つもない。今回もそうだ。あのゴミどもが綾乃をいじめたりしなければ、いじめなんて馬鹿な真似をしなければこんなことにはならなかったのだから。あの残酷な最期は綾乃のせいじゃない、神様が綾乃を可哀想に思って天罰の力を授けてくださったから、それゆえの当然の帰結なのだ。
「そして、あんたももうすぐ同じことになるわけ!もうあんたを守ってくれる、優しい優しいお友達は一人もいないんだから!あたしの力は遠く離れていても関係ない。いつでもあんたを殺すことができる!ふふふふふふ、最後に、自分のすべての非を認めて、土下座して謝ってみるう?私は枕営業をしました、先生達相手に足開いて、それで絵を無理やり選考に通してもらいました!野間綾乃さんが邪魔で、だから先生達にお願いして選考に通らないようにしてもらった上、友達に命じていじめらせていました最低のクズ女ですう!ほら、ほらほらほらほら言ってみなさいよ!!場合によっては、あたしのご機嫌も変わるかもしれないわよおお!?」
あはははははははは、と笑いながら吐き捨てた。勿論、謝罪なんか今更したって許してやるつもりはまったくない。
しかし、泣いて命乞いでもすれば、少しは胸がすっとするのも事実だ。いくら友達の死に怒っていると言っても、楓だって己の命は惜しいだろう。地べたを這いずり回って、泣き叫びながら、殺さないでくださいと言い出すだろうと思っていた。目の前に本当にあいつがいるわけではないので、土下座しても見えないのが残念だが――。
『……る』
「んん?」
しかし。電話の向こうから聞こえてきた言葉は、違っていた。
『……てやる。殺してやる。よくも、よくも私の大事な友達を、殺したな……!許さない、絶対お前を許さない!!』
それは、明確な殺意。あのお淑やかなお姫様みたいな顔をした楓から、こんな声と言葉が飛び出してくるとは。
そしてまだ、綾乃に対してこのような口をきく余裕があろうとは。
「自分の立場ってのもがわかってないようね。あんた、いつでもあたしに殺されちゃうんだけどお?そうならないように、ほら、命乞いでもしてみなさいよ」
『嘘をついて、お前みたいな奴に命乞いをするくらいなら。死んだ方がずっとマシです。でも、私はただで死んだりしない。その時はお前を道連れにしてやる。死んだ後だって呪い殺してやる……!』
「あはははははは!オバケなんているわけないじゃん、何言ってんのよ!あんたは、あたしに殺されたら一番きっつーい地獄に落ちて、二度と戻ってなんかこられないんだから!もちろん、あんたのお友達二人も、地獄行きよね。清らかでいつも正しいあたしと違って!」
もういい、十分だろう。どうせ、これ以上話したって全ては平行線だ。頭の悪いこいつにわからせてやるには、体に教え込んでやるしかない。
そうだ、長く苦しめる拷問。何種類か試してやるのもいい。血が出にくいものなら、すぐに死ぬこともないだろう。
「もういい、決めたわ。あんたへの、罰」
通話を切り、綾乃はスマホをベッドの上に放り投げた。
「とびきり恥ずかしくて、苦しいのをお見舞いしてあげる。後悔して、懺悔して死んでいきなさい!」
コメント
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いやー、楓がついに本気でキレた回だったね…!あのおとなしい楓から「♡♡♡てやる」って言葉が出てくるとは思わなかったわ。綾乃の狂った笑い声とか、自己正当化の強烈さが逆に怖かった。最後の通話切った後の展開が気になりすぎる。続き楽しみにしてる🔥