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レイの部屋――夜。ネグとマモンは同じソファに座り、お互い、ただ顔を見合わせたまま数秒間沈黙していた。
「……ぷっ。」
最初に笑いをこぼしたのはネグだった。
「いや……もう、なんなん、これ……」
その声は呆れ半分、笑い半分、どこか投げやりな響きを持っていた。
マモンも手で顔を覆いながら、苦笑いを浮かべる。
「……まさか、俺まで……同じ目見るとは思わなかったわ。」
「わしなんて……何回やらかしたか分からないし……」
ネグはそう言いながら、ソファに体を預けて天井を見上げた。
その顔には、完全に諦めきった表情が浮かんでいた。
そんな2人を見て、レイもソファに座り、やや呆れたような顔で言った。
「……ほんま、2人して何やってんだよ……笑」
ネグは、ふと頭を掻きながら小さく呟いた。
「……だってさ……掴んだ時、なんか、少し硬くて……グニグニしてて……」
その言葉に、レイは一瞬ピタッと動きを止めた。
「……あー、それは……うん……」
明らかに言いにくそうな顔をしながら、レイは苦笑いする。
「……あんま考えんな。気にしたら負けだ、うん。」
そう言いながら、話を無理やり逸らすように携帯を取り出した。
「で、さ……なんでマモンもここにいんの? そもそも……」
その問いに、ネグはまたもや絶望的な顔をして、マモンと顔を見合わせる。
「いや、ほんと……2人目とか聞いてねぇよ、俺……」
レイはため息混じりにそう言いながらも、どこか楽しそうだった。
「……奇跡かよ、マジで。そんな状況……」
ネグは唇を噛みながら、ポツリと漏らす。
「……まだ1回だけだから良いじゃん、マモン……わしなんて……何回……」
その言葉に、マモンは「まぁ、確かにな……」と苦笑いしつつ、肩をすくめた。
レイは再び携帯を手に取り、今度は真剣な顔になった。
「……よし、とりあえず。だぁに電話すっぞ。謝るしかねぇ。」
「え……」
ネグは一瞬だけ、戸惑いを見せたが――レイは強引に通話ボタンを押した。
数コールのあと――だぁの静かな声が、スピーカーから響いた。
『……レイか。』
「どーも。悪ぃ、ネグとマモン、今ここにいてさ。……ちゃんと謝らせるから。」
レイがそう言って、携帯をネグたちに渡す。
ネグはマモンと顔を見合わせた。
――謝ればいい。分かってる。でも、ここで素直に……?
マモンが先にニヤッと笑った。
「おい、だぁ。」
そして、ネグもつられて口を開く。
「だぁ〜、元気ぃ? まさかまだ怒ってるとか? えー、まさかねぇ♡」
その声は完全に煽りのトーンだった。
「マジでさぁ〜、あんなことで怒るとか、大人気ないよ〜?
ほんと、わしらのこと好きすぎじゃん♡ 嫉妬? 嫉妬なの?」
マモンも続ける。
「ま、俺はまだ一回だから、許してくれてもいいんじゃねぇ?
ネグの方がひでぇだろ、なぁ?」
ネグはまた笑いながら畳み掛けた。
「いや〜、ほんとマジでさぁ。すかーと夢魔くんも、ちょっとは大人になったら?
わしに毎回モロ出しとかさぁ、もうマジで笑うんだけど♡
しかも! ハート柄? ピンク? マジでダサすぎ〜♡」
スピーカー越しに、かすかに息を呑む音が聞こえた。
その直後――
『ネグ……』
だぁの声が低く響いた。
だが、その声は怒鳴りではない。驚くほど静かで、冷たい。
『ネグ。……僕が、沢山甘えさせたの、もう無いからね。』
その言葉に、ネグの笑顔はピタリと消えた。
だぁの姿は見えない。だけど、声だけで――分かる。
本気で怒っている時の、あのだぁの声。
ゾクッと背筋が震えた。
ネグはすぐにスピーカーを切り、携帯をテーブルに置いたまま、ソファに座り込んだ。
マモンも思わず、苦笑いをやめ、静かに言う。
「……ヤベェな、あれは。」
ネグはガタガタと肩を震わせながら、静かに呟いた。
「……終わった……」
レイはそれを見て、小さくため息をつきながらも、苦笑いでネグの肩をぽん、と叩いた。
「ま、しゃーねぇよ……ここまで来たら、腹括れ。」
ネグは震えたまま、ただレイの言葉を噛みしめるように、ゆっくりと頷いた。
――そして、また新たな朝が始まろうとしていた。