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「リスティアナ・メイブルム嬢もリオルド・スノーケア卿も様々な事が起きて混乱しているだろう。……今現在の時点で判明している事を説明しよう」
国王バルハルムドの言葉に、リスティアナもリオルドも「ありがとうございます」と言葉を紡ぐとゆっくりとソファに腰を下ろす。
先程まで呆然としていたヴィルジールも、今は衛兵に支えられリスティアナとリオルドが座るソファから離れた場所に座らされている。
リスティアナの兄であるオルファは、衛兵と共に荒れた室内を静かに直している。
「先ずは、そうだな……ナタリア・マロー子爵令嬢の件だが……先程二人も耳にした通り、ヴィルジールとの子は身篭っていなかった。王家の諜報員に探らせた結果なので間違ってはいないだろう。……そして、子爵令嬢をけしかけたのが先程話に出た医務官……子爵令嬢を診ていた医者だな。それと、専属侍女だ。二人は数年前に採用したので裏切り行為に気付くのが遅れてしまった」
「それ程、以前から……」
ぽつりと零したリスティアナの言葉に、バルハルムドは「ああ」と頷く。
「──こればかりは我が国の採用の際に背後関係を調べなかった甘さが招いた結果だな……国の至る所に他国の間者が潜り込んでおった」
「至る所に、ですか……!?」
リオルドがギョッとしたように言葉を発すると、バルハルムドは無言で頷く。
「ああ……。情けない限りではあるが……。他国の間者は既に粛清済だからこれ以上国内が他国に荒らされる心配はないだろう。フィリモリス侯爵家や他の二家の侯爵家の騒ぎも間者の手の者が騒ぎを起こしていたそうだ。それはメイブルム侯爵であるオースティン殿と、他の三家の侯爵家当主達が解決済だ」
「──っ! 良かった、良かったです……! 国内の侯爵家はご無事なのですね……」
リスティアナが安心したように表情を綻ばせてソファに力無く背中を預けると、リオルドがリスティアナの言葉に補足するようにバルハルムドに向かって唇を開いた。
「リスティアナ嬢は、フィリモリス侯爵家のご令嬢、コリーナ嬢と友人関係ですのでずっと気にされていたのです。本日の卒業パーティーにもコリーナ嬢がご参加されていらっしゃらなかったので、ずっと気にしておられたのです」
「そうか……、なるほど。フィリモリス家とメイブルム家は深く親交があるのだったな……安心したまえ。フィリモリス家は無事だ。それぞれの侯爵家が運営する事業が少しばかり良くない方向に傾いていたのだ。それも他国の工作員の手の者が起こしたのだが、工作員は早々に排除されている為安心しなさい」
そこで一旦バルハルムドは言葉を切ると、重い溜息を吐き出す。
「へ、陛下?」
先程までとは違い、何処かバルハルムドが辛そうにしているのが見て取れて、リスティアナとリオルドがバルハルムドに言葉を掛けると視線を上げたバルハルムドがリスティアナとリオルドに向かって唇を開いた。
「──私の兄である、バジュラドが姿を消した……。国内に敵国の手が入り込み、四大侯爵家が揺れ、王太子であるヴィルジールが侯爵家のご令嬢と婚約を解消し、更に最北端のタナトス領が敵国に侵攻されている可能性がある、と言う事が国中に知られれば我が国であるアロースタリーズは大いに混迷を極めていただろう。……王太子が下位貴族の令嬢に手を出し、身篭らせてしまった、などと国民に知られれば王家の醜聞であり、国民からの王家に対する信用は地に落ち、現王家に反感の意を持つ貴族達は離れて行っただろう」
バルハルムドの言葉に、離れた場所に座っていたヴィルジールはびくり、と体を震えさせて俯いていた顔を更に俯かせる。
「我々王家に反感を持つ貴族や国民は、次に誰を推すだろうな……? 前国王陛下の血筋を継いでいるのは我が兄上しかいない……。継承権は破棄しているが、民衆が、貴族が王兄を新たな王に、と望み内乱が発生してしまえば、我らは国内の鎮圧に目を向けて他国への目が緩んでしまうだろうな……。そして……タナトス領に侵攻して来ていた他国──帝国軍が王都まで攻め上がる、そんなシナリオを描いていた可能性がある」
「国内のあちらこちらで、例え小さな事件でも起きてしまえば、事態を治める為に国内の力を分散してしまいます……帝国は、それを狙っていたのでしょうか……?」
リスティアナの言葉にバルハルムドはこくりと頷く。
「予想、ではあるがそうかもしれん……。だからこそメイブルム侯爵は、タナトス領に侵攻して来ている軍が帝国軍かどうかを確認しに行ったのだろう。……それに、兄上の行方を探させてはいるが見つからぬと言う事から鑑みて、恐らく兄上はタナトス領に侵攻しに来ている帝国軍に亡命を願い、向かったのだろう。……此度の事件が兄上の思惑通りに進まなかった事を何処か早い段階で知り、直ぐに王都を立ったのだろうな」
「──帝国、と……陛下のお兄様であられるバジュラド様が、手を組んでいた、と言う事でしょうか……国を、弟君であられる陛下を裏切るなど……」
リスティアナがまさか、と呟くがバルハルムドは緩く首を振ると「残念ながらそう言う事だろう」とリスティアナの言葉を肯定した。
「──王位を争うのはいつの時代も近しい血縁者同士だ。バジュラドは、帝国と手を組み一度アロースタリーズ国を滅ぼしてから新しく作り直すつもりだったやもしれん……。だからこそ、帝国と手を組んだのだろう」
「なんと、言う事を……」
バルハルムドの言葉に、リスティアナは信じられない思いで小さく言葉を零すと言葉に詰まり、続きの言葉を発する事が出来ない。
「──だからこそ、今は王家に対して罪を犯した者を一人足りとも許してはならぬのだ。……例えヴィルジール以外の血縁を失ってもな……それは国内の貴族にも同じ事が言えよう……。私が言いたい事は分かったな、ヴィルジール」
「──……っ、」
突然バルハルムドに話を振られたヴィルジールはびくりと体を跳ねさせると、ゆるゆると視線を上げる。
「──お前の模擬戦闘訓練時に護衛に付いていた学友達……あれらも敵国の口車に乗り、お前が過ちを犯す際に止める事をしなかった。……お前の学友とは言え、許されざる所業だ。極刑は免れぬと思っておけ……それと、」
バルハルムドはしっかりとヴィルジールに視線を合わせたまま、ゆっくりと唇を開いた。
「マロー子爵令嬢に手を出したお前が、我が国の一つの家を窮地に追い込む。……自分の仕出かした事の大きさを深く反省せよ」
バルハルムドの言葉に、ヴィルジールはただ小さく「はい、」と頷く事しか出来ず、リスティアナはヴィルジールに一瞬だけ視線を向けたが直ぐにバルハルムドに視線を戻す。
今の話で、殆どの話が終わったのだろう。
バルハルムドも一息ついて、いつの間にか用意されていた紅茶の入ったカップを持ち上げて口を付けている。
(殿下と、ウルム国の王女殿下の事は特に明言されていないけれど……まあ……王女殿下を後日正式に国賓として迎えると仰っていたし、間違いなく殿下は王女殿下と婚姻関係を持ってアロースタリーズとウルム国の国交を強化される筈ね。……それならば……)
自分は、タナトス領に向かった父親の無事を確かめに行きたい、とリスティアナは考え、バルハルムドに視線を向ける。
リスティアナの視線を受け、何か発言をしたいのだろう、と察したバルハルムドはカップをソーサに戻すと穏やかな声音でリスティアナに声を掛けた。
「リスティアナ・メイブルム嬢。何か話したい事があれば気軽に発言してくれ。ここには、我等しかいないからな」
「お心遣い、まことにありがとうございます──。お言葉に甘えまして……私、自分の父親でもあるメイブルム侯爵の無事を確認する為に、タナトス領へ向かおうと思います」
「──ほう。なるほど」
リスティアナの言葉に、バルハルムドは僅かに瞳を見開くと口元を笑みの形に変えて言葉を続ける。
「だが、あちらの方面は敵国の者が入り込んでいる可能性があり、危険が無いとは言い切れぬ。安全が確保されている王都の邸で報告を待っていた方が安心ではないか?」
「いえ……。確かにタナトス領の方面は危険が無いとは言い難いですが……、ウルム国の王女殿下が追軍させて下さっているとお聞きしましたし、周囲の状況を確認しながら進めば命を落とすような最悪の事態にはならぬと判断しました」
「リ、リスティアナ……! だが、リスティアナがわざわざ危険な場所に行かぬとも……っ」
リスティアナの言葉に、顔色を真っ青にしたヴィルジールがたまらず、と言った様子で言葉を挟んでくる。
ヴィルジールの言葉に一瞬だけバルハルムドは視線を向けたが、ヴィルジールの言葉は無視をして「ふむ」と言葉を零し自分の顎先に手を当てると「分かった」と呟いた。
「それならば、我が国の護衛騎士を複数人付けよう。ああ、それとリオルド・スノーケア卿はタナトス領の出身であるから道にも明るいだろう? リスティアナ・メイブルム嬢の護衛兼案内役でご令嬢をタナトス領まで案内して貰ってもいいか?」
「勿論でございます」
バルハルムドの突然の提案にも関わらず、リオルドは了承の言葉を発するとリスティアナに向かって「宜しくお願いします」と微笑んだ。
◇
「──リ、リスティアナ!」
バルハルムドから許可を貰い、出立の準備をする為早々に部屋を辞したリスティアナとリオルド、妹を見送りに部屋を出たオルファの三人が廊下を歩いていると、後方から焦ったように声を上げ、近付いて来るヴィルジールの姿を見付け、リスティアナは流石にそのまま立ち去る事が出来ず、足を止めてヴィルジールへと振り向いた。
「……殿下。何か御用でしょうか?」
「何か用か、などと……! 私が言いたい事は分かっているだろうに……っ!」
ヴィルジールの言葉に、リスティアナは全く心当たりは無く、不思議そうに首を傾げるとヴィルジールは焦れたように声を荒らげるようにしてリスティアナに言葉を紡いだ。
「長い旅路になると言うのに……! 同じ年頃のスノーケア卿と共に向かうとは……っ、何か問題が起きてしまったらどうするつもりだ……!?」
「──はい?」
ヴィルジールの言葉に、思わずリスティアナは呆気にとられたような声を出してしまうと、慌てて自分の口に手のひらを持っていき口を塞ぐ。
ヴィルジールの発言に呆気にとられたのはリオルドも同じらしく、ポカンと口を開いてしまっている。
その中で唯一オルファだけが冷めた視線をヴィルジールに向けていて、曲がりなりにもヴィルジールはこの国の王太子なのに大丈夫だろうか、とリスティアナが心配をしていると、ヴィルジールは尚も言葉を続けた。
「リスティアナは、もう少し危機感と言うものを持った方がいい……! 同じ年頃の男と共に、長時間行動を共にするなど……っ、何をされても文句は言えないのだぞ……っ。だ、だからリスティアナは私と共に王城で──」
「お言葉ですが殿下」
ヴィルジールがおかしな事を口にするのが耐えられなくなったリスティアナは、不敬だと言われても良い、と思いながら冷たい視線をヴィルジールに向けて突き放すように言葉を紡ぐ。
「──もし、そのような事になったとしても……殿下には一切関係ございませんわ。それに、スノーケア卿に対してとても失礼なお言葉ですわ。……私は、一時の感情でそのような自分の価値を貶める事は致しません。万が一、私とスノーケア卿がそのような関係になったとしても、それは私が納得した上で関係を持ちます。軽はずみな行動など致しませんわ」
「──な……っ!」
リスティアナの言葉に、動揺して声を漏らしたのはヴィルジールとリオルドどちらだろうか。
リスティアナの発言に、ヴィルジールは顔色を真っ青にさせて衝撃を受けたように佇み。
リオルドは顔を真っ赤に染め上げて何処か期待するような熱の篭った視線でリスティアナを見詰めた。
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コメント
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ああ、ついに核心に触れる話が来ましたね……! 第28話、一気に国を揺るがす謀略の全容が見えてきて、目が離せませんでした。特にリスティアナが自分の意志でタナトス領へ向かう決断をした場面、彼女の芯の強さが本当に眩しかったです。そしてヴィルジールへのあの返答──「私が納得した上で関係を持ちます」って、彼女がどれだけ自分の価値を大切にしているかが伝わってきて、思わず拍手したくなりました。高瀬船さんの書く女性主人公はいつも自立していて、そこが本当に好きです。