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運命の結婚式を数日後に控えた、ある日。
リィラは最近、自分の体調がおかしい事に気付いた。朝の寝起きがいつも以上にだるい。
それに少し吐き気がする時もある。体調だけではなく心も不安定で落ち着かない。
「僕が毒を吸いすぎたせいかな。少し控えるね。今日は寝てていいからね」
そう言ってゼンティはリィラの体調を気遣って休ませようとする。だがリィラは、休めば治るものではないと分かっていた。
「……お腹の中にゼンティの子がいる」
「え?」
ゼンティは青い瞳を丸くして驚いた。彼のこんな顔は珍しくてリィラは思わず吹き出してしまう。
思えば、ベスティア王国にいた頃から毎晩のように抱かれていたので、当然の結果であった。
それにベスティア王国では二人はすでに夫婦なので何の問題もない。アディール王国でも数日後に結婚する。
ゼンティはパァっと花が咲いたような笑顔になってリィラを全力で抱きしめた。
「ありがとう、リィラちゃん! 最高に嬉しいよ! これで結婚式を挙げて、王位に就いて、レンを殺せば言う事なしだよ!!」
最後の願望は物騒すぎるが、まさにその通りでもある。リィラはもうレンティを守る気なんてない。
このタイミングでの懐妊も何かの運命な気がする。だがレンティは結婚式の日にゼンティとリィラの毒殺を企てている事はすでに承知。
レンティに利用されないように、今はまだ懐妊の事はアレンとヒメ以外には告げない事にした。
(ゼンティと私の子……新しい命……嬉しい)
リィラもまた懐妊の事実を喜んでいた。以前は魔物の子を孕む事が恐ろしかったのに、今は素直に嬉しいと思った。
故郷も家族も失くしたリィラにとって家族が増える事、新しい家族の誕生は格別の幸福感をもたらしていた。
さらに結婚式が近付くにつれて、リィラの身の回りで不可解な変化が起こり続けた。
ゼンティと共に食堂で朝食を食べていた時、料理をテーブルに運んできたメイドも、ふと覗いた厨房のコックもいつもと違う人だった。
「メイドさんやコックさん、みんな変わったの?」
「……僕は知らないよ」
そう言って、いつもと味の違う料理を口に運ぶゼンティに笑顔はない。
結婚式前日になると、いつもの休憩時間の中庭の風景にリィラは違和感を覚える。
この頃のリィラは城の従事者やメイドたちと仲良くなっていて、休憩時間には中庭で談笑するのが楽しみだった。
だが、今日はいつものメンバーの半分もいない。
「結婚式の前日だから、みんな準備で忙しいの?」
そう問いかけるリィラだが、メイドたちは引きつった笑顔で『知りません』と言って首を横に振って立ち去る。
明日はおめでたい日なのに、誰にも笑顔はない。むしろ恐怖に怯えるような顔にさえ見える。
ふと気付くと、リィラの後ろにはゼンティが立っていた。
「ねぇ、ゼンティ。やっぱり何か変な気がする。みんなの様子もおかしいし……」
「リィラちゃん。真実を見せるから、来て」
ゼンティはリィラの片腕を掴むと先導して歩き出す。
城壁を辿って裏口へと向かっている事から、リィラは行き先の予想がついた。
「もしかして地下室に行くの? あそこにはレンティさんが……」
「レンはアレンが足止めしてる」
やはりゼンティが向かう先は、毒の開発施設として使われている地下の研究室だった。
ドックがいなくなってからはレンティが一人で使っているのだろうか。その後の事はリィラは知らない。
地下の階段を下るといくつもの扉を通り抜けるが、全ての施錠は以前にゼンティが全て破壊したので簡単に開いた。
研究部屋の実験台の周りには誰もいない。レンティもいないが、なぜか人の視線や息遣いなどの気配がする。
「ゼンティ、ここも何かおかしい。誰かがいる気がする……」
「ここは元は地下牢だからね。……こっちきて」
この部屋の奥はさらに暗く、牢屋がいくつも並んでいる。秘密の研究所として使われている今は、牢屋は使用されていないはず。
しかし牢屋の中は全て人が収監されていた。しかも全員が顔馴染みのある城の従事者たちで、姿を見ないと思っていたメイドやコックたちだった。
リィラは鉄格子を握りしめて牢屋の中の人たちに声をかける。
「みんな、どうしたの!? なんで、こんな事に……!?」
牢の中の人々は、リィラの姿を見ると次々に声を上げ始めた。
「リィラ様、レンティは悪魔です! 結婚式の食事に毒を盛る指示を出されたのです」
「我々は口封じで殺されます、センティ様とリィラ様だけでもお逃げください!!」
どうやら、この者たちは明日の結婚式の食事の下拵えをしたコックや、レンティの計画を知ったメイドたちだ。
「なんて……ひどい……」
リィラが絶句していると、ゼンティは再びリィラの手を引いて研究室の方まで戻る。
実験台の前に立つと、恐怖と悲しみに震えるリィラの両肩を掴んで言い聞かせる。
「明日で全てが終わるから、辛いけど最後まで聞いてね」
「…………」
リィラは言葉を返せない。レンティの恐ろしさは、もう十分なほどに分かった。ゼンティはこれ以上の何を話そうとしているのだろうか。